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ディナー2

ぎくりとした。なにか不審なところがあったのだろうか。




「食べるようになったとは?」


「一番きらいなはずでは?サバチョコレートのときに言ってました」




一番好きなものと、きらいなものを組み合わせたのがコンセプトだと、そういえば言った。




「そんなこと覚えてたんですか」


「忘れる方が難しいです」




フロアスタッフが去ると、先輩がとんでもないことを言いだした。




「今日は極力、料理の話はひかえましょう」


「えっ?なんで!?」


「下見で話すと、当日話すことがなくなるから。どうしても確認したいことだけにしたいです」




赤レンガ倉庫の悲劇、ふたたび。




ここから二時間、無言でディナーを食べることになるのだろうか。




先輩から口火を切る気配はなかった。デザートメニューを熟読しながら、ワイングラスを傾けている。


この人は話しかけにくい空気を出す才能があるなと変に感心してしまう。




先輩は、きっと俺と話さなくても平気なのだろう。


でも。晴人との会話を思い出す。先輩がそうでも、俺の方は仲良くなりたい。仲良くはちょっと言いすぎだが、自然に会話できる程度にはなりたい。




しかし、なにを話せばいいのか。出されたワインを俺も飲む。




好きなデザートはなんですか? 料理の話は禁止だった。


どこに住んでるんですか? 万一にでも下心を疑われたら困る。


ご趣味は? お見合いでもあるまいし。




「七星さんって、なんでパティシエになったんですか?」




思いついたなかで、もっとも無難な質問をぶつけてみた。我ながらいい質問だと思う。今日はこれで帰ってもいいぐらいのファインプレーだ。


先輩がメニューから顔をあげる。怒っても驚いてもいない、いつもの能面のような無表情だ。




「子どもの頃、好きなお店があったからです。もうなくなってしまったけど。横浜の元町商店街にありました」


「へえ。なんてお店です?」


「ショコラ・ノワールというお店です」




驚きすぎて、次の言葉が出なかった。




大人になってから、叔父さんのお店の話を誰かとしたことはほとんどない。




仲間うちで話題にするのは有名パティシエのお店や参考になる良店ばかりで、親戚がやっていた地元の店の話など、とてもじゃないができなかった。




それが、こんなところで名前を聞くとは。




「ノワールは、日本にはまだ少なかったチョコレートの専門店で......」


「知ってます!俺の叔父さんのお店です!」




興奮でつい声が大きくなる。先輩がわずかに目を見開いた。




「叔父さん?あの、オープンキッチンでずっと険しい顔をしていたかっぷくのいいおじさんですか?」


「そう、それです!いつも険しいけど、チョコ食べるときだけ七福神みたいに笑う人です!」




不意に先輩がじろじろ俺を見た。

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