ディナー
先輩とのディナーの日。俺はオーシャンビューで有名なカジュアルカフェへと来ていた。
大さん橋というフォトスポットとしても人気の大型船ターミナルの中にあり、ユニークなメニューで最近話題になっている。
「取材大歓迎の店らしく、小夜さんからここにしたいと言われました」
店頭で案内を待つ間、先輩が説明してくれた。
「私は来たことがなくて。一新はある?」
「ないですね」
大嘘だ。味について質問されたときのために、事前にサバオを呼び出し、すべてのデザートメニューを食べさせていた。
自分はコーヒーで粘りながら、目の前で次々とおいしそうなデザートをたいらげるサバオを見る気分は最悪だった。サバチョコレートなんて作るのをやめて、いっそ海神から天誅てんちゅうを受けさせてやろうかと思った。
案内されたのは、海が見えにくいフロアの真ん中の席で、正直いえばほっとした。サバオとふたりで座らされた、夜景が一望できる個室のソファ席だったら緊張で身が持たなかった。
「今日から始まる、夏の新作デザートがあるらしいです」
席につくなり先輩が言った。
「私たちも夏の新作をつくってるわけだし、これがいいと思うのだけど」
よりによって、唯一サバオに食べさせていないものを!
なんとかして反論したかったが、いい理由が見つからない。
味について聞かれたらという不安とともに、サバオへのおごりがむだになったことに絶望する。
ちくしょう。どれもこれも、サバオのせいだ。
「新作以外に看板メニューも頼みましょう。私はデザートだけにするけど、一新はフードも頼んでください」
「俺もデザートだけで大丈夫です」
「最近かなりやせましたよね。顔色も悪いし、きちんと食べるんですか?」
確かに、依然として食欲はない。
できるだけ食べる回数を減らしたくて、まともに食べるのは多くても一日一回。それ以外は飲むゼリーを一気飲みしてしのいでいる。
「ちょっと忙しくて食欲なくて」
「どれだけ忙しくても食事はしっかり取って。いま倒れられたら私が困ります」
その言い方はずるいだろ。断りきれずに、フードメニューからサバを探す。
サバの味だけの世界になってわかったのは、「食べるならサバが一番まし」ということだった。
他の食材だと失望があるが、サバならよくも悪くも期待通りの味になる。
どろどろしたサバ、口の中で溶けるサバなどという謎の食感も味わわずにすむ。
「塩サバのソテーでお願いします」
オーダーした瞬間、先輩の眉がわずかに上がった。
「一新、サバを食べるようになったの?」




