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清風亭ロビー

ますのかき氷を食べた先輩は、簡潔にほめ言葉と改善案をくれた。




そのうえで、取材担当者にも食べてもらおうと提案された。直接食べてもらった方が、取材で使われやすいのだそうだ。




内心、複雑な気持ちだった。




食べてもらうのはいやではない。むしろ嬉しい。


問題は、会う相手のことだった。




取材担当者といえば、先輩にむりして新作を作らせた張本人の可能性が高い。ものすごく嫌味なやつか、あるいは高圧的なやつだろう。




変なことを言われてもめたらどうしようと思いつつ、指定された清風亭の併設ホテルのロビーに向かう。




ホテルのロビーは、四階分をぶちぬいた石造りのクラシカルなホールである。大理石の大階段と、そのてっぺんにある桜を描いた壁画は観光客にも人気がある。




ロビーに散らして置かれたソファのひとつで、先輩と知らない若い女性が談笑していた。




先輩が談笑するほど、仲がいい相手だったのか。靴が沈みこむほど厚いカーペットを踏みしめながら、なにかに負けた気になった。




「お持ちしました」


「ありがとう、一新。こちらは今回の取材担当者の小夜さんです」




先輩のとなりにいた女性が、紹介を受けてすばやく立ち上がる。




ふんわり巻かれた明るい茶髪。まばたきで風が起きそうなほど長いまつ毛。


やわらかそうな布でできたピンクのシャツに、白いスカートを合わせている。




近くで見ると若い女性、というよりほとんど「女の子」に近い。




「はじめまして。今度の取材でお世話になる、株式会社ミセトユメの小夜といいます」




にこにこと名刺を渡される。普段、名刺なんて渡される機会がないのでどうすればいいのかわからない。




「名刺は両手で受け取って」




後ろから小さく先輩がささやいた。




「ポケットにしまわないで。机に置いて」


「机ですか?」


「自分の近くに置いておいて」




机の上なんて汚れますよと言いかけたが、先輩のけわしい表情に逆らうのをやめて机に置く。




「これ、話題の新作ですよね?まじでかわいい!」




俺たちが座るのを見計らったかのように、小夜さんが新作を指さして歓声をあげた。




「先に、まずは私が誰かを説明しますね!」




小夜さんの要領のいい説明によると、彼女は取材記者ではなくお店の宣伝をする会社の営業で、今回のドキュメンタリー取材の企画をまとめたのが彼女らしい。




「清風亭から、若いお客さんを増やしたいという依頼をもらって。七星さんを紹介されて、『絶対いける!』って思って番組に売り込んだんです。だって、こんなに若いのに部門長で、しかもすごくおきれいじゃないですか!」




同意を求めるように小夜さんが俺を見た。うなずいても首を振っても不正解な質問だったので、水を飲んだ。先輩も飲んだ。




「えーっと俺、取材って向こうから頼まれるものと思ってました」


「そのパターンもあります!でも、店側から取材してくれって売り込むことも多いんですよ。人気のお店は、そういう宣伝がうまいところが多いです」




小夜さんがにっこりほほえむ。




「でも、宣伝が苦手なせいでいいお店が埋もれちゃうって、さみしいじゃないですか。だから、私たちはそういうお店のお手伝いをしているんです」




俺の表情を見て、小夜さんがあわてて付け加える。




「あ、もちろん清風亭さんは宣伝も得意なお店ですよ!今回は若いお客さんがターゲットだったので、お力添えさせていただけることになったんです」




俺のまわりで、こんな風に感じよくなにかを説明し、噛まずにすらすらと敬語を話す人は誰もいない。




別世界の住人を見た驚きと、彼女に対するわずかな好奇心が自分のなかでせめぎあう。

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