前進
「テーマは夏の新作。メインの取材は私です。取材班に皆さん全員のプロフィールが欲しいと言われたので、あとで用紙に記入してください」
プロフィールという言葉で、全員がちらちらと互いを見た。言わなくても全員考えていることは同じだ。
もしかして、自分たちも映るのか?
ドキュメンタリーに?少しだけでも?
浮足だっているメンバーに気づいているのかいないのか、先輩はそのまま取材の注意事項を淡々と述べていく。
「それから最後に。現場の若手の代表として、一新にもドキュメンタリーに出てもらおうと思っています」
「えっ!?」
急に自分の名前が出て、止める間もなく声が出た。その場にいた全員の視線が一斉に自分に注がれる。
あぜんとする俺を気にもとめず、先輩が続けた。
「先日、一新がつくった新作メニューの採用が決まりました。ドキュメンタリーには、新作の開発者として出てもらいます」
先輩が俺に目を向けて言った。あたかも当然という顔をしている。
「一新は、毎月の提案会に必ずなにかを出していました。他のみなさんにも期待しています」
まばらな拍手があった。近くにいた晴人に、ひじでちょいちょいとこづかれる。どういう顔をすべきか迷い、先輩をまねして無表情を選んだ。
すごいねと言ってくるやつ、なにも話しかけて来ないやつ。
解散したあと、それぞれのリアクションをする同僚たちの合間をぬって、廊下に出た先輩を追った。
「七星さん!俺も出るって本当ですか?」
先輩がさっとふり返る。
「お伝えした通りです。朝いうべきか迷いましたが、最終決定がまだだったので」
平然と告げられ、本当の話なのだと実感する。
俺が、パティシエとして取材される。
まったく想定していなかった。先輩の晴れ舞台だと思っていたし、俺がそんな立場になるにはまだ早いと思っていた。
いや、嘘だ。
正直いえば何回か妄想したことがあった。
―――老舗の伝統を守りつつ、画期的な新作を開発した若きパティシエ。
―――「ひたむきな努力がすべて」。そう語る彼の素顔にせまる。
自分でもこっぱずかしくなる妄想だった。でも、それが本当になるのだ。
「現場からひとり推薦してと言われました。新作の件がなくても、私はあなたを選んだと思います。この仕事は続けることがもっとも重要なので」
提案会に出し続けていたことを言ってくれているらしい。
毎月出すのは迷惑かもしれないと思っていたこともあった。出来も悪いし、見込みもないし、と。
でも、この人は内心で、俺を、俺の努力をこんな風に評価してくれていたのか。
「一新、よろしくお願いします」
頭を下げられ、あわてて頭をさげた。
周りに誰もいないのを確認して、本日二回目のガッツポーズを今度は大きく決めた。
採用されて嬉しい。取材が決まって嬉しい。
でも、続けていたことを先輩が見ていてくれていたのが、なにより一番うれしかった。
「っしゃ!」
やれるだけやろう。いまはとにかく前進あるのみ。




