横浜中華街2
中華街でまだ食べると騒ぐサバオをひきずり、馬車道の厨房に放り込んだ。
氷は味に変化をつけにくい。ソースで差をつける方法はあるが、テーマがチョコレートだから、ソースもチョコレートで確定している。
だから、今回は見た目で勝負をするために、器から考えようと思っていた。
先輩のやり方をまねしたのではなく、それが自然な流れだからだ。
「今回は見た目から考えようと思うんだよ」
「ぬしがそんなことを言うとはのう」
「知らねーのか。菓子は見た目も大事なんだよ」
サバオへのお供えものをあさって、背の高いさかずきと枡ますを見つけ出す。清風亭らしさを出すために、なにかしら和洋折衷の要素を入れたい。
「随分懐かしいさかずきじゃの。常世の国で酒をあおいだときのものじゃ」
「サバオ、酒飲めたんだな」
「苦手ではあるぞ。そのときはわざとこぼす『盛りこぼし』で注がれたから大変じゃった」
日本酒の飲み方で、さかずきを枡ますの中に入れて、枡ますにあふれるまで酒をいれる「盛りこぼし」という注ぎ方がある。
ふと思った。これをソースでやるのはどうか。
枡ますにまっさらな白い氷を入れ、真ん中には空のさかずきを置く。ゲストの目の前で、さかずきにチョコレートドリンクをたっぷりそそぎ、あふれたドリンクが枡に入ったかき氷のソースになる。
ソースのとろみと氷の量が問題だが、そのあたりは実験あるのみ。前回と違ってクセのある味ではないから、サバオの舌を全面的に信頼できるのもありがたい。
「よし、決まった!作るぞサバオ!」
「食べるぞサバオ」
時間はない。でも、かき氷は仕込みが少ない。睡眠時間を返上すればぎりぎり間に合うだろう。
それに、時間のなさがいまの俺にはおもしろい。
なんとか完成させたかき氷を提案する日の朝。開店前のショーウィンドウにデザートを手早く並べていると、先輩に声をかけられた。
「一新、そのままいいので一分だけ話があります」
「はい」
手を止めずに視線だけを先輩に向ける。
「この前の月のタルトのことなんだけど、このまま改良がうまくいけば、夏のメニューに追加するそうです」
「っしゃ!」
立ち上がってガッツポーズをした。あわてて先輩にいう。
「すいません!はしゃいでしまって」
「かまいません。おめでとう。私も嬉しいです」
初めてメニューを載せられたこと、先輩に褒められたこと、店の戦力になれたこと。
すべてが嬉しくて、世界中の人に胴上げでもしてもらいたい気分だった。まずは馬車道あたりにいる適当な神様にでもしてもらおう。
「もうひとつあるのですが、こちらはランチ後に全員の前で伝えます」
全員の前で、と言われて戸惑った。いい話なのか悪い話なのか、それだけでも聞けばよかった。
浮ついたままランチタイムをこなすうちに、すぐに時間はすぎていった。
休憩の前に、パティスリー部は全員厨房に集合とアナウンスがあった。十数名のパティシエが、ぞろぞろと厨房に集まる。
「知っている人もいると思いますが、春から夏にかけて、うちの店に長期取材が入ります」
全員そろったところで、先輩がよく通る声でいった。




