先輩2
「先に見た目についていいますが」
「はい」
言わないでほしい。むしろさっさと言って欲しい。言うならはっきりきっぱりと......。
「とてもいいと思います」
「えっ!?」
「いままでのなかで、一番いいです」
「......褒めてますよね?」
「けなしてるように聞こえましたか?」
「いままで褒められたことがないから、新手の厳しい意見なのかなと」
「思ったことを言ったまでです。もちろん改善点はありますけどね」
先輩がフォークを手に取った。本番はこちらだ。気は抜けない。
月をよけるようにゼリーを切り、フォークの腹でタルトをさくりと割った。そのまま、すうっと口に運び......。
「うん。おもしろいですね」
「褒めて......るんですよね。ありがとうございます」
「口に入れたとき最初に舌にあたるのがタルトだから、チョコレートを感じやすい。あとからミントが来るから、後味に清涼感がある。クセのある味なので、量が少なめなのも適切ですね」
一言一句書きとめたかった。額縁に入れたいし、いつか棺桶にも入れて欲しい。
「チョコが強いチョコミントのフレーバーが好きな方によさそうですね。あとは、甘いものが好きなのだけど、すっきりするのも嫌いでない方」
頭の中に「甘いのが好きだけどすっきりするのも嫌いでない方」の顔がありありと浮かんできた。脳内なのに、あのいらつくにやけ顔を浮かべている。
でも今回ばかりは感謝しよう。認めたくないけど、お手柄だ。
「あなたはいつも自分が試したい味を出してくるけれど、これは味も見た目も、食べる人のことを考えて作ったように思います」
「えーっと、そうかもしれません」
「自分以外の人を意識できるようになったのは、大きな成長ですね」
そのあと先輩は、タルトの形や食感についてのフィードバックをしてくれた。大量かつ細かい指摘で、大幅な修正が必要なものもあったが、気にならなかった。
先輩が認めてくれた。自分のデザートで、喜んでくれた。
フィードバックのメモを取りながら、にやけるのを必死でこらえた。たったこれだけのことを、俺がどれだけ待ったかしれない。
帰り道、夜景きらめく横浜の海に大声で叫んだ。
いまは、すべてが順風満帆だった。




