チョコミントゼリー3
「僕が試食していいんですか!?」
いつもの休憩時間、ホールのすみで俺はこそこそと晴人に先輩との約束を打ち明けた。
「できるだけ厳しく頼む」
「いいですよ。でも、七星さんがそんな仕事抱えてたなんて知りませんでした」
「俺もだよ。ひとりで新作を七品なんて、誰が言い出した企画だよ」
「料理長は厳しいけど話は通じる人ですしね。取材記者とかなんですかねえ」
「面倒だよな。単品デザートだから、好きに作れるのはよかったけど」
コース料理はシェフとの連携が不可欠だが、単品のデザートならほとんどパティシエ部門で完結できる。それが今回の唯一の救いといえる。
「でも、どうして一新さんが手伝うことになったんです?」
「俺にもわからん」
「勉強になりそうだし、どうせなら僕も手伝いたいなあ。いまから頼んでも間に合います?」
「......むりだって」
本当はむりかどうかなど知らない。でも、いくら仲がいいとはいえ後輩は後輩、密かに努力してきたチャンスを取られたくはない。
ごめん、晴人。
俺だって、いつまでもばかにされてるわけにはいかない。
「難しいけど、一発合格したいんだよ。じゃないと手伝う意味ないだろ」
「あはは。そもそも僕ら、合格したことないんですよ?一発合格なんて七星さんも期待してないです」
その通りだった。俺から即採用できる案が出てくるとは、先輩も思っていないだろう。
先輩が思う手伝いとは、仕込みや片付けをしたり、シフトを変わって欲しいという意味であり、バッチリ決まった新作を出して欲しいという意味ではないだろう。
つまり、勝手に新作をつくっている俺は、単なる勇み足だといえる。
でも、と思う。新作を出す以上にいい手伝いはないはずだ。他に使える時間が増えるし、残り何品かを考えて焦ることも減る。
晴人に、試作のチョコミントタルトを差し出した。
白いプレートに載せた手のひら大ほどのタルト。ダークチョコのタルトの中に、エメラルドのミントゼリーが入っている。時間がないから盛りつけについては省略だ。
でも味は、もういいとごねるサバオを付き合わせ、あれから改良に改良を重ねたものだ。
「一旦、味だけ見てくれないか?」
「ミントゼリーのチョコタルトって。一新さんにしてはおさえましたね」
「だろ!?自分でもそう思ってたんだよ!」
「キバが抜かれたみたいで、僕はちょっとさみしいですけど。それじゃ、いただきますね」
晴人がきちんと両手を合わせたあと、フォークでタルトをすくう。
これでまずいと言われたところで何がどうなるわけでもないのに、いやになるほど緊張していた。
晴人に試食を頼んだことは何度もある。嬉しいことも失礼なことも、散々言われてきたはずだ。
なのに、不自然なほど落ち着かない。ここで失敗したら、先輩に出せなくなるからか?味覚を取り戻すのが難しくなるからか?
なんで、俺はこんなに緊張してるんだ?
「うわっ!一新さん!」




