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チョコミントゼリー2

ため息をついて、仕込んだ生地を食材庫から出す。




毎日、仕事終わりや休日に馬車道で開発する生活を繰り返し、チョコミントの試作品は、もう二十作を越えていた。




普通ならそろそろ先が見えてきてもいい頃なのに、その気配もない。




舌が正常な状態でも提案会に落ちていたのに、これで通る見込みがあるのだろうか?手伝うと大見得きってみたものの、先輩をまた失望させるだけかもしれない。




舌が狂っている不安も手伝って、いやな想像ばかりしてしまう。




そもそも、サバオは人の話を聞かない。ずっとそうだが、特にお菓子に関しては意見をまったく曲げない。




いくらその組み合わせはだめだといっても「試してみろ」と粘られるし、反論しても「これがいい」と言いはられる。




最初は対立していたが、そのうち諦めてサバオに合わせるようにした。


舌が狂ってなければ「俺はうまいと思う」で張り合えたろうが、この状況ではそれもできない。




常温に戻した小さいタルトの中に、細かくクリームを載せていく。


サバオの指定で、あますぎるぐらいこってりしたチョコクリームだ。




少し時間を置いてから、泡が入らないようにゆっくりとゼリーを流し込む。




「できた。これで冷やすから、二時間たったら起こせ」


「よいが、今日もここで寝る気なのか?」


「とっくに終電ないんだよ。俺の家も地下トンネルで繋いでくれよ」




トンネルで繋がれたところで、歩きなのは変わらないか。ぼんやりとそう思ったのが最後で、あとのことは覚えていない。




フライパンをたたく、けたたましい音で目が覚めた。




なぜか知らないが、サバオは人を起こすとき必ずフライパンをおたまで叩く。そこまでしなくても起きると何度も言っているのに、こういうところでも話を聞かない。




「起きたか!さあ、タルトを食べさせよ」 


「朝から元気でいいよなお前は」


「神は眠らんからの。ずっと元気いっぱいじゃ」




もうろうとしながらタルトを取り出し、サバオに出した。一応自分でも食べてみる。


タルトはこってりしたサバの味、ゼリーはさっぱりしたサバの味になっており、組み合わさった結果、ずっとサバの味がした。




確認するだけ無駄である。




とはいえ、食感は悪くなかった。生地はしっとり焼けていて、クリームの舌触りもいい。「これはサバではなくチョコミントだ。誰がなんといおうとチョコミントだ」と念じて食べればおいしい気もする。




「うむ、おいしい!」




サバオが念じる俺に太鼓判を押してくれた。神に祈りが通じたらしい。




「そりゃどうも」


「ぬしの力を見くびっておったわ。こってりチョコなのに後味はすっきり、極上じゃ!」




寝起きでぼんやりした頭に、あたたかいものが広がった。




おいしいと言われた。やっと言われた。


この一言のために、どれだけ苦労をしてきたか。




笑みがこみ上げると同時に、自信が戻って来るのを感じた。舌がなくてもできることはある。たったひとりでもおいしいと言ってくれる人はいるのだ。




「いやー最高ではないか!毎回これくらいのものを作れ」


「それができたら苦労しねーよ」


「ふーむ。そういうものか?」


「そういうもんだよ」




気が抜けたのか、疲れがどっと押し寄せて、ふらふらと椅子にこしかけた。


サバオは、ばくばくと残りのタルトをほおばっている。よっぽどおいしいのか、満面の笑みだ。




「あとは見た目じゃ!せっかくおいしいのに、このままでは気持ちが高ぶらぬ!」


「お前、そんなこと気にするんだな」


「菓子は見た目も大事じゃろ。ぬしのはだいたい最悪じゃ」




いつもなら言い返すところだが、気分がよかったので受け流した。


一刻も早く、先輩に新商品を食べて欲しい。おいしいと言ってくれるだろうか。また笑ってくれるだろうか。




先輩と約束している新作開発は三日後だった。サバオはおいしいと言ってくれたが、その前に他の人にも意見を聞きたい。思い浮かんだ「他の人」に明日食べてもらうことにする。

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