表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/62

赤レンガ倉庫のギャラリー3

先輩が黙った。さっきまでの沈黙とは違う、と直感した。




「このアーティストの器が好きで、見たらなにかあるかと思ったんだけど」




そういうことだったのか。さっきの射抜くような眼差しの先輩は、器ではなくその上に載せる未来の新作を見ていたわけだ。




「アイスやパフェじゃだめなんですか?」


「それも作ります」




無表情のまま先輩が言った。




「全部で七品作る必要があります」


「新作を七品!?再来月までに!?」


「多めに作り、その中から選びたいというのが向こうのリクエストだそうです。私の名前にでもかけて、七品と誰かえらい人が決めたんでしょうね」




でしょうねの「ね」の部分に、静かだが強い怒気が込められていた。


断ればいいのにと思ったが、性格的にそれができなかったのだろう。




「いまいくつできてるんです?」


「絶対に必要であろうアイスとパフェはできました。もう少しでできそうなのは、地元産オレンジを使ったオランジェットと、冷やしチョコムースのガトーショコラ風」




思ったよりもできている。厨房での仕事のほかに俺や晴人の面倒も見ながら、ひっそり新作を四品もつくっていたことに舌を巻いた。




「残り三品もイメージはできていたんですが」




ですがの「が」に、今度は皮肉が込もっていた。




「上に提案したところ、もっと目玉になるおもしろいものが欲しいと」


「おもしろいもの?」


「地味だそうです。映像ではどうせ味は伝わらない。派手なコンセプトのものが必要だと」




先輩は変わらず淡々としていたが、俺の方がいらいらしてきた。




味は映像では伝わらないなんて、最初からわかっていたことだろう。先輩が作るものはおいしい。悔しいけれど、俺のよりおいしい。




先輩のような腕のたつパティシエを捕まえて、どうせ味だの、地味だの派手だの、失礼にもほどがある。




「七星さん、俺手伝いますよ!」




気づいたらとんでもないことを口にしていた。




力になりたいのは本当だった。先輩が失敗するところも見たくない。だがそれ以上に、気づいたのだ。




俺、いま舌狂ってたんじゃなかったっけ?




言ったそばから、滝のように冷や汗が流れた。頼む、断ってくれ。心のなかでサバオ以外のすべての神様に祈る。




いつもの調子で、あなたには無理ですと言ってくれ。俺を一刀両断してくれ。




「手伝うって......本当に?」




先輩の目に明るい光が差した。差すな。消えてくれ、その光。




「えっと......あの.......」


「ありがとう。嬉しいです」




先輩のほほがゆるむ。




初めて見る先輩の笑顔は、目に焼きつくほどきれいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ