赤レンガ倉庫のギャラリー2
料理人は、器が好きな人が多い。料理をアートととらえるなら、器は額縁にあたるからだろう。
器にいまいち興味を持てず、どの器を見ても「割れそう」「どちらかといえば割れそう」と思ってしまう俺は、料理人仲間のあいだでどうも肩身が狭かった。
器を割らないよう、じりじりとギャラリーを進む俺に目すら向けず、先輩はミュージアムショップでまったく同じに見えるガラスのプレートを、真剣な目つきで見比べている。
この人には俺に見えない何が見えているのだろう、とふと思う。
「どう思う?」
先輩が話しかけているのだと気づくまでに時間がかかった。今日は俺と口をきかないのだろうと思って油断をしていた。
「あ......いいと思います!」
「なにが?」
「分厚くて割れなさそう……じゃなくて、丈夫そうです」
「私はどちらがいいか聞いてるのだけど」
「右です!」
「そちらは左では?」
「俺から見ると右にあります!」
「......」
わずかな沈黙があった。ふたたび先輩が聞く。
「なぜ右の方がいいの?」
「右は、平らでケーキが載せやすそうなので」
「左も平らでは?」
「そうですね」
支離滅裂な会話のあと、先輩はふたたび沈黙した。俺は大失敗した高校の英語のスピーキングテストを思い出していた。
「再来月から、清風亭に取材が入ることは聞いてますか?」
「あーえっと......」
「夏に向け、三ヶ月かけてドキュメンタリーを撮るそうです。テーマは夏の新作チョコレート」
なんでまたそんなものを。
日本では、夏にチョコレートは売れにくい。とろりとした舌触りのチョコレートより、ゼリーやかき氷のようなさっぱりしたデザートが好まれるからだ。
夏はチョコが溶けやすいこと、クリスマスやバレンタインといった大型イベントがないことも追い打ちになっている。
この世界ではよく知られたことのはずなのに、誰が言い出したのだろう。こんな失敗しそうな企画をやらされるパティシエのほうも気の毒だ。
「メインで取材されるパティシエは私です」
「七星さんが!?」
「スイーツの新商品開発は、絵になるらしく」
向こうが絵になると考えたのはスイーツでも新商品でもなく先輩だろうと思ったが、そのあたりはうまく隠し通して承諾させたのだろう。
普段から機嫌が悪い先輩が、ここ最近わずかにいつもより機嫌が悪かった理由は、このあたりにあったらしい。
「なので、新作のための器がいります。夏らしく、チョコレートに合って、映像にしても映えるもの」
「なにを作るかは決まってるんですか?」




