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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第98話 黒剣の始まり

聖教会本部書庫。


封印区画。


重い空気が部屋を包んでいた。


失われた後半。


竜騎士レオンの帰還。


そして黒い剣。


断片的な記録だけでも、その異常さは十分伝わってくる。


ロックは腕を組んだ。


「結局、一番知りたいところが消えてるんだよな」


老神官は苦笑した。


「その通りです」


否定できない。


残された記録は結果だけ。


肝心の経緯が存在しない。


レオンはどこへ行ったのか。


なぜ黒剣を持って帰ってきたのか。


誰も分からない。


セリナが静かに尋ねる。


「本当に何も残っていないんですか?」


老人は少し考えた。


そして。


「公式記録はありません」


そう答える。


ロックが眉を上げた。


「公式?」


老人は頷く。


「記録とは別に、伝承があります」


部屋の空気が変わる。


伝承。


歴史学者が嫌う言葉だ。


事実かどうか分からない。


だが。


失われた歴史を辿る時、最後に残るものでもある。


老人は別の棚から一冊の薄い本を取り出した。


表紙は劣化している。


正式な記録ではないらしい。


「これは神官達の口伝を書き起こしたものです」


セリナが身を乗り出す。


老人は頁を開いた。


そこには古い文字が並んでいた。


そして。


最初に現れた言葉は意外なものだった。


> 黒剣は武器ではない


ロックが首を傾げる。


「武器じゃない?」


どう見ても武器だ。


巨大な剣。


切るための道具。


そうとしか見えない。


老人は続きを読む。


> 黒剣は封印である


部屋が静まり返る。


ガルドも視線を上げた。


老人は続ける。


> 災厄を閉じ込める器

>

> あるいは境界を閉ざす楔


ロックが頭を掻く。


「余計分からなくなった」


セリナも難しい顔をしている。


だが。


興味深い。


非常に。


老人は本を閉じた。


「これ以上の説明はありません」


「つまり?」


ロックが聞く。


老人は肩を竦めた。


「分からないのです」


正直な答えだった。


聖教会も知らない。


結論だけが残り。


理由が失われている。


それがこの時代の歴史だった。


***


しばらくして。


一行は封印区画を出た。


情報量が多すぎた。


整理する時間が必要だった。


書庫近くの応接室。


窓から王都の街並みが見える。


ロックは椅子へ座るなり言った。


「頭痛くなってきた」


セリナも珍しく疲れた顔をしていた。


「私も」


レオン。


竜。


黒剣。


封印。


全てが繋がりそうで繋がらない。


リゼは静かにお茶を飲んでいる。


話の内容は難しいらしい。


それでも真剣に聞いていた。


その時。


ガルドが窓の外を見ていた。


王都。


遠くに見える騎士団本部。


そして空。


しばらく沈黙していたが。


珍しく自分から口を開く。


「封印なら」


全員が振り向く。


ガルドは続ける。


「開けるものがある」


ロックが固まる。


セリナも瞬きをする。


珍しくまともに会話へ参加した。


ガルドはそれだけ言って黙る。


だが。


確かにその通りだった。


封印があるなら。


封じられた何かがある。


ロックが呟く。


「嫌なこと言うな……」


セリナも同感だった。


黒剣が封印。


その考えが正しいなら。


中身は何だ。


何が封じられている。


誰が封じた。


そして。


なぜレオンが持つことになった。


疑問は増えるばかりだった。


***


同じ頃。


王都の地下。


結社の潜伏拠点。


薄暗い部屋で数人の観測者が資料を広げていた。


机の上には古い写本。


崩れた石板の拓本。


そして地図。


その中心に記されているのは一つの場所だった。


王都北西部。


封鎖区域。


「一致しました」


観測者の一人が言う。


カイナが視線を向ける。


「確定か」


「はい」


男は頷いた。


「レオン関連記録と同一紋章を確認」


机の上の紙には古い紋章が描かれている。


剣。


翼。


そして円環。


聖教会でも見つかったものだ。


カイナは静かに資料を見る。


「施設の状態は」


「不明です」


「ただし」


男は一枚の紙を差し出す。


そこには古代文字の翻訳が記されていた。


> 第一封印施設


部屋が静まる。


観測者達も言葉を失う。


カイナだけが冷静だった。


「準備を」


短い命令。


誰も逆らわない。


第二段階。


それが動き始めていた。


***


その夜。


聖教会の客室。


全員が休んでいた。


静かな夜。


王都の灯りが窓の外に広がっている。


ガルドも眠っていた。


珍しく深い眠りだった。


そして。


夢を見る。


暗闇。


果ての見えない闇。


その中心に何かがある。


巨大な影。


翼。


咆哮。


燃えるような黄金の瞳。


そして。


聞こえないはずの声。


> ――まだだ


低い。


遠い。


古い声。


ガルドは何も答えない。


答えられない。


次の瞬間。


夢は消える。


目を開く。


夜はまだ深い。


部屋は静かだった。


ガルドはしばらく天井を見ていた。


夢など滅多に見ない。


だが。


今の声だけは妙に残っていた。


その時。


背の黒剣が微かに鳴る。


カン――


小さな音。


まるで。


何かに反応したように。


だが。


それ以上は何も起きなかった。

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