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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第97話 失われた後半

聖教会本部書庫。


封印区画。


部屋には重い沈黙が流れていた。


机の上に開かれた古い記録。


その頁には黒い剣が描かれている。


今までの記録には存在しなかったもの。


竜騎士レオンの物語に、突然現れた異物。


老神官は慎重に頁を押さえた。


「ここから先は断片しか残っていません」


セリナが静かに尋ねる。


「何があったんですか」


老人はすぐには答えなかった。


失われた文字をなぞるように視線を落とす。


そして。


「邪竜戦争終盤です」


そう語り始めた。


***


当時の王国は追い詰められていた。


北方防衛線は崩壊。


東部要塞群は壊滅。


各地の都市も次々に陥落した。


残された戦力は少ない。


竜騎士団ですら消耗していた。


「この頃には、レオンも何度も重傷を負っています」


老人の指が文章を追う。


そこには戦死者の名が並んでいた。


竜騎士団。


王国騎士団。


魔導師団。


多くの名前。


そして。


途中から空白が増えていく。


まるで記録そのものが壊れていくように。


ロックが眉をひそめた。


「酷ぇ戦争だったんだな」


「はい」


老人は頷く。


「人類史上最大の災厄とも言われています」


頁がめくられる。


そこには地図が描かれていた。


王国領。


そして王都。


赤い印が王都周辺を囲んでいる。


セリナの顔が険しくなる。


「包囲されたの?」


「ほぼ」


老人が答える。


「王都陥落寸前だったと記録されています」


リゼが小さく息を呑む。


王都。


今、自分達がいる場所。


それが滅びかけていた。


想像しづらい話だった。


老人は続ける。


「そして、この時期から記録がおかしくなる」


再び頁をめくる。


文章が乱れている。


筆跡も違う。


複数人が急いで書き残したような記録。


その中に。


一文だけ繰り返し現れる言葉があった。


> 竜騎士団団長、消息不明


> レオン、未帰還


> 捜索継続中


ロックが目を見開く。


「消えた?」


老人は頷いた。


「そう読めます」


竜騎士団団長レオン。


人類最強と呼ばれた男。


その姿が戦場から消えた。


誰にも理由が分からないまま。


セリナが頁を見る。


その先にも断片が続いている。


> 第七防衛線放棄


> 西部城塞崩壊


> 竜の群れ撤退


> 王都防衛準備


そして。


数頁先。


突然現れる一文。


老人の声が少し低くなる。


「ここです」


そこに記されていたのは。


> レオン帰還


短い文章。


だが。


部屋の空気が変わる。


ロックが思わず呟く。


「生きてたのか」


「ええ」


老人は頷く。


「ただし」


そこで言葉を切る。


頁の端。


辛うじて残っている挿絵。


そこには一人の男が描かれていた。


レオン。


だが以前とは違う。


鎧は破損している。


傷だらけ。


そして背には黒い剣。


ロックが無意識にガルドを見る。


似ていた。


今のガルドに。


どこか。


不気味なほど。


セリナも気付いていた。


老人は静かに言う。


「帰還後のレオンは変わったと記録されています」


「どう変わったんですか」


「分かりません」


即答だった。


全員が驚く。


老人は苦笑した。


「そこが消されている」


確かにそうだった。


肝心な部分だけが無い。


残っているのは結果だけ。


そして。


戦況だけ。


頁をさらにめくる。


そこには信じられない記録が残っていた。


> 第八防衛線維持成功


> 敵戦力壊滅


> 王都防衛成功


> 邪竜軍後退


ロックが顔を上げる。


「待て」


「急に変わりすぎだろ」


老人も同意した。


「そうです」


王都は陥落寸前だった。


それが。


レオン帰還後に覆る。


詳細は消されている。


だが結果だけが残っている。


セリナが呟く。


「何をしたの……」


答えは無い。


頁は破られている。


記録は削除されている。


誰かが。


意図的に。


その時だった。


カン――


小さな音。


ガルドの背。


黒剣だった。


全員の視線が向く。


しかし黒剣は静かだ。


何も起きない。


ロックが眉を寄せる。


「最近よく鳴るな」


ガルドは答えない。


老人も黒剣を見つめていた。


そして。


ぽつりと呟く。


「不思議ですね」


「何がですか」


セリナが尋ねる。


老人は黒剣から目を離さない。


「この記録を見た者の多くは」


「黒剣を恐れます」


静かな声。


だが重みがあった。


「ですが、あなた方の黒剣は」


「どこか違うように見える」


ロックが苦笑する。


「違うかどうかは知らねぇけどな」


実際。


危険な剣なのは間違いない。


ただ。


今は静かだった。


あまりにも静かに。


老人は再び頁をめくる。


そして最後に残された断片を指差した。


そこにはたった一行だけ記されていた。


> 邪竜討伐作戦開始


その下は破られている。


続きは無い。


結末も無い。


勝敗も無い。


ただ。


その一文だけが残されていた。


老人は本を閉じる。


重い音が響く。


「ここから先が完全に失われています」


沈黙。


誰も言葉を発しなかった。


だが。


確かなことが一つある。


竜騎士レオンは消えた。


そして帰ってきた。


黒い剣を持って。


そこから歴史は変わった。


そして今。


その黒剣によく似た存在が。


ガルドの背にある。


偶然とは思えなかった。


遠くで鐘の音が鳴る。


夕刻を告げる鐘。


その音を聞きながら。


一行は失われた歴史の深さを改めて感じていた。


まだ入口に立っただけなのだと。

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