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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第94話 次段階

夜。


焚火の炎が静かに揺れていた。


街道沿いの野営地。


周囲には他の旅人達の灯りも見える。


王都へ向かう者は多い。


それだけに、ここは比較的安全な場所だった。


ロックは木にもたれながら空を見上げる。


「あとどれくらいだ?」


セリナが地図を確認する。


「順調なら四日」


「結構近づいてきたな」


王都。


聖教会本部。


ライルとの再会。


そして失われた記録。


目的地は少しずつ近づいていた。


その横でリゼは静かに焚火を見つめている。


最近は夜も落ち着いていた。


悪夢で飛び起きることも減った。


セリナの表情も以前より柔らかい。


ガルドは少し離れた場所に座っていた。


相変わらず無言。


背には黒剣。


焚火の光が黒い鞘を照らしている。


その時だった。


リゼの手が止まる。


「……?」


小さな違和感。


誰も気付かないほど僅かなもの。


だが。


リゼだけは反応した。


視線が暗い森へ向く。


何もいない。


魔物の気配も無い。


それでも胸の奥がざわつく。


セリナが気付く。


「どうしたの?」


リゼは少し迷う。


そして。


「……見られてる感じ」


静かな声。


ロックが眉を上げる。


「またか」


最近よく聞く言葉だった。


ロック自身も似たような感覚を覚えることがある。


だが今回は違う。


リゼが感じている。


それが少し気になった。


ガルドも視線を上げる。


森を見る。


しかし何も無い。


静かな夜。


虫の声。


風。


それだけだった。


***


同じ頃。


結社本部。


地下深く。


白い会議室。


十人ほどの人影が席についていた。


全員が仮面を着けている。


階級の高い構成員達だった。


中央には巨大な円卓。


その最上席にカイナが座っている。


「観測報告を開始します」


静かな声。


部屋が静まる。


一人の男が立ち上がった。


「第一段階観測は終了」


「対象群の生存を確認」


資料が配られる。


ガルド。


セリナ。


リゼ。


そしてその他の観測対象。


記録だけが並んでいる。


感情は無い。


数字と報告だけ。


「問題は無かったのか?」


仮面の男が問う。


「軽微な逸脱あり」


カイナが答える。


「許容範囲内です」


会議は続く。


そして。


やがて本題へ移った。


机上に新たな資料が置かれる。


表紙には大きく記されていた。


> 第二段階移行計画


空気が少し変わる。


構成員達の視線が集まる。


カイナは資料を開く。


「我々の目的は観測ではありません」


誰も反論しない。


当然のことだった。


観測は手段。


目的ではない。


「第一段階により必要な情報は集まりました」


「これより第二段階へ移行します」


静かな声。


その内容は意外なものだった。


回収作戦ではない。


捕獲でもない。


ガルド達への直接介入ですらない。


「各地の封印施設を再調査します」


数名が反応する。


封印施設。


古い言葉だった。


結社の管理下にある遺跡群。


長い年月放置されていた場所。


「今さらか?」


誰かが呟く。


カイナは頷く。


「レオン記録の断片と一致しました」


その一言で空気が変わる。


レオン。


封印記録。


誰も詳細は知らない。


だが。


重要な名前であることだけは共有されていた。


「各地で同一の痕跡が確認されています」


資料が映し出される。


古代文字。


失われた紋章。


崩壊した観測施設。


そして。


黒い剣の壁画。


構成員達がざわつく。


「一致率は?」


「七十八パーセント」


十分高い。


偶然ではない。


カイナは続ける。


「第二段階は施設群の再調査」


「および記録の回収」


「観測対象への直接介入は行いません」


その方針に異論は出なかった。


まだ時期ではない。


結社も理解している。


知らないことが多すぎる。


だからこそ調べる。


まずは過去を。


失われた記録を。


そこから始める。


会議は静かに進んでいった。


***


一方。


野営地。


夜は更けている。


リゼは眠っていた。


セリナも。


ロックも。


静かな時間。


ただ一人。


ガルドだけが起きていた。


焚火は小さくなっている。


風が吹く。


その時だった。


カン——。


小さな音。


黒剣だった。


ガルドは視線だけ向ける。


沈黙。


変化は無い。


だが。


次の瞬間。


黒剣の影が微かに揺れた。


炎の揺らぎ。


そう見える程度。


本当に一瞬だった。


ガルドも見間違いと思った。


視線を戻す。


それ以上は何も起こらない。


夜は静かだ。


だが。


誰も知らない場所で。


結社は動き始めている。


そして黒剣もまた。


誰にも気付かれぬまま。


静かに変化を続けていた。

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