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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第92話 空を渡る影

慰霊碑を後にしてから三日。


一行は王都へ続く街道を進んでいた。


季節は初夏。


空は高く、草原を渡る風は心地良い。


ベルン周辺の街道と比べても整備が行き届いており、旅人の姿も増えている。


王都が近づいている証拠だった。


その日の昼。


一行は街道脇の丘で休憩を取っていた。


セリナは水筒を手にリゼの隣へ座る。


「疲れてない?」


「大丈夫」


少し前なら考えられない返答だった。


リゼの顔色は良い。


完全ではない。


だが確実に回復している。


セリナの表情も自然と柔らかくなる。


少し離れた場所ではロックが寝転がっていた。


青空を見上げる。


「平和だな」


「珍しく」


ガルドが隣で立っている。


ロックは笑った。


「その返し方だと普段が平和じゃねぇみたいだろ」


ガルドは否定しなかった。


実際その通りだった。


地下施設。


観測者。


暴走。


エルフ領。


最近の旅は騒がしすぎた。


その時だった。


影が落ちる。


ロックが目を細めた。


「ん?」


空。


太陽を横切る何か。


翼。


大きい。


だが以前見た親竜ほどではない。


次の瞬間。


ロックが起き上がる。


「おい」


セリナも空を見る。


そして笑った。


「また来たのね」


蒼い鱗。


金色の瞳。


子ドラゴンだった。


以前ベルンの宿へ現れた個体だ。


今度は堂々と上空を旋回している。


リゼも空を見上げる。


少しだけ目が輝いていた。


子ドラゴンは何度か旋回した後、丘の上へ降りてきた。


風が巻き起こる。


ロックが顔をしかめる。


「でかくなってねぇか?」


確かに。


以前より一回り大きい。


まだ成竜ではない。


だが成長は早い。


子ドラゴンは着地すると、真っ直ぐガルドへ歩いてきた。


相変わらずだった。


警戒はしている。


だが逃げない。


ガルドも動かない。


静かな睨み合い。


数秒後。


子ドラゴンが短く鳴く。


『グルル』


ロックが吹き出した。


「完全に知り合い扱いだな」


子ドラゴンは無視した。


代わりにガルドの周囲を一周する。


まるで確認するように。


観察するように。


そして。


背の黒剣を見た。


その瞬間だけ、金色の瞳が僅かに細くなる。


ガルドは気付いていない。


だがセリナは見ていた。


以前と同じ反応だった。


黒剣に対する警戒。


敵意ではない。


もっと複雑な感情。


まるで。


知っているものを見るような。


その時だった。


子ドラゴンが突然空を見上げた。


動きが変わる。


警戒。


いや。


敬意に近い。


ロックもつられて空を見る。


そして。


息を呑んだ。


遥か上空。


雲の向こう。


巨大な影があった。


翼。


圧倒的な大きさ。


山のような体躯。


一瞬だけ姿が見える。


次の瞬間には雲へ消えた。


だが十分だった。


セリナの表情が固まる。


「……親」


ロックも乾いた笑いを漏らす。


「だよなぁ」


間違いない。


親竜だ。


以前エルフ領で遠目に見た存在。


今はさらに近い。


それなのに。


敵意は感じない。


むしろ。


見られている。


そんな感覚だった。


ガルドも空を見ている。


無言。


黒剣も静かだ。


数秒。


いや十数秒か。


巨大な影は再び姿を見せることなく消えた。


子ドラゴンも空を見上げていた。


やがて。


安心したように息を吐く。


そして。


ガルドを見る。


『グルル』


短く鳴く。


まるで。


「確認した」


そう言っているかのようだった。


ロックが頭を抱える。


「意味分かんねぇ」


セリナも苦笑した。


「私も」


だが。


親竜は明らかにこちらを認識している。


特にガルドを。


それだけは確かだった。


その時だった。


カン——。


微かな音。


ガルドの背。


黒剣だった。


誰も気付かないほど小さい。


だが。


子ドラゴンだけは反応した。


金色の瞳が一瞬だけ黒剣を見る。


警戒。


戸惑い。


そして。


理解できない何かを見る目。


だがすぐに視線を外す。


まだ何も起きない。


起きてはいけない。


そんな空気すら感じられた。


やがて子ドラゴンは翼を広げる。


ロックが声を掛ける。


「また来いよ」


当然返事は無い。


だが。


飛び立つ直前。


子ドラゴンはリゼを見た。


ほんの一瞬だけ。


リゼも見返す。


不思議そうに。


そして竜は飛び立った。


青空へ。


親竜が消えた方角へ。


その姿を見送りながら、セリナが小さく呟く。


「何かを確かめているみたい」


ロックが頷く。


「俺もそう思う」


ガルドは何も言わない。


だが空を見上げる視線は、ほんの少しだけ長かった。


遥か上空。


雲の向こう。


巨大な存在はまだ見ている。


敵でもない。


味方でもない。


ただ観察している。


まるで。


遠い昔の約束を確かめるように。


そして一行は再び歩き始める。


王都へ向かって。


失われた記録の先へ向かって。


知らぬ間に。


竜達の視線を受けながら。

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