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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第88話 再会の報せ

ベルンの街に夕暮れが訪れていた。


石畳を染める橙色の光。


市場は店じまいを始め、通りを歩く人々も少しずつ減っていく。


宿の食堂では、一行が夕食を囲んでいた。


ロックはスープを飲みながらぼやく。


「結局、次の行き先は王都方面で決まりか」


セリナが頷く。


「聖教会の本部に行くなら、そこが一番情報が集まるわ」


レオン。


黒剣。


失われた記録。


そして結社。


どれも地方では限界がある。


より古い文献を探すなら王都が最適だった。


ロックが苦笑する。


「人多そうだなぁ」


その言葉に、リゼの肩が僅かに震えた。


セリナがすぐに気付く。


「大丈夫」


そっと手を握る。


リゼは小さく頷いた。


まだ人混みは苦手だ。


だが以前ほどではない。


少しずつ前へ進んでいる。


その時だった。


宿の入口が開く。


一人の男が入ってきた。


旅装束。


革鎧。


腰には短剣。


情報屋のような風貌だった。


男は店主と何か話している。


しばらくして周囲を見回し——


視線がガルドで止まった。


「黒剣の旦那か?」


ロックが眉を上げる。


「知り合いか?」


男は首を振った。


「いや」


「依頼だ」


空気が少し変わる。


男は懐から封筒を取り出した。


「預かってる」


そう言って差し出す。


ガルドは受け取った。


封蝋が押されている。


騎士団の紋章だった。


セリナが目を細める。


ロックも覗き込む。


「おいおい」


「タイミング良すぎるだろ」


ガルドは封を切る。


中には短い手紙。


達筆な文字だった。


> ガルド隊長へ

>

> 生存を確認しました。

>

> 至急お会いしたい。

>

> お伝えしなければならないことがあります。

>

> ライル


短い。


だが十分だった。


食堂が静まる。


ロックが最初に口を開く。


「本人じゃねぇか」


昨日話していたばかりだ。


探している元部下。


そのライルから直接連絡が来た。


セリナも驚いている。


「早すぎるわね」


ガルドは手紙を見つめていた。


ライルらしい。


無駄が無い。


要件だけ。


昔からそうだった。


真面目で。


融通が利かなくて。


だが責任感だけは人一倍強かった。


ロックが覗き込む。


「何だって?」


「……会いたいらしい」


「見れば分かる」


ロックが即座に突っ込む。


セリナが思わず吹き出した。


リゼも少し笑う。


ガルドは無言になる。


その様子を見ながら、情報屋の男が続けた。


「王都へ向かってるらしい」


「お前さん達も王都へ行くなら、そのうち会うんじゃねぇか」


ロックが顎に手を当てる。


偶然にしては出来すぎている。


いや。


おそらく偶然ではない。


ライルはかなり本気で探していたのだろう。


ガルドが生存していると聞いた瞬間、動いた。


そんな印象だった。


男は役目を終えたらしく、そのまま立ち去っていく。


食堂に再び静けさが戻った。


セリナが尋ねる。


「どうするの?」


ガルドは少し考える。


数秒。


そして。


「……会う」


ロックが笑う。


「やっぱりな」


今度は否定しなかった。


セリナも小さく微笑む。


追放された過去。


失った居場所。


その中で。


今も探してくれている人間がいる。


それは決して悪いことではない。


その時だった。


リゼが小さく呟く。


「……嬉しそう」


全員が固まる。


ガルドも。


ロックが吹き出した。


「言われてるぞ、ダンナ」


「……違う」


即答だった。


だが説得力はない。


セリナも笑っている。


リゼは首を傾げる。


「違う?」


「違う」


珍しく強めだった。


ロックは腹を抱える。


「分かりやすいな」


ガルドは完全に黙った。


話を終わらせる時の反応だ。


だが。


誰も追及しなかった。


それだけで十分だった。


夜。


食事を終えた後。


ガルドは一人、宿の屋上にいた。


風が吹く。


街の灯りが遠くに見える。


手にはライルの手紙。


短い文章。


だが何度も読み返していた。


ふと。


昔の記憶が浮かぶ。


訓練場。


木剣を振る若い騎士。


何度倒れても立ち上がる姿。


不器用だった。


だが諦めなかった。


だから教えた。


剣を。


戦い方を。


生き残る方法を。


「……」


ガルドは空を見る。


星が出ていた。


その時。


背の黒剣が微かに鳴る。


カン——。


小さな音。


だが以前のような不穏さは感じない。


むしろ。


静かだった。


ガルドは振り返らない。


黒剣も沈黙する。


夜風だけが流れていく。


遠く。


王都へ続く道の先で。


ライルもまた空を見上げていた。


再会は近い。


だが彼が伝えようとしていることは。


決して穏やかな話ではなかった。

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