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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第87話 同僚の噂

ベルンの街は今日も賑わっていた。


石畳の通りを行き交う人々。


荷馬車。


露店。


旅人達の話し声。


宿の食堂では朝から冒険者達が騒いでいる。


その一角で、ロックは腕を組んでいた。


「結局、次はどこ行くんだ?」


机の上には教会で写した資料。


古い紋章。


失われた記録。


どれも決定打に欠けていた。


セリナが紙を整理しながら答える。


「聖教会の本部には、もっと古い記録があるらしいわ」


「問題は場所ね」


「遠いのか?」


「かなり」


ロックが顔をしかめる。


ガルドは黙ったままだ。


相変わらず無言。


だが以前より資料を見る時間は増えている。


少なくとも全く興味がないわけではないらしい。


その時だった。


隣の席から声が聞こえてきた。


「おい、聞いたか?」


「騎士団の話か?」


「そうそう」


何気ない会話。


冒険者達の雑談だった。


だが——。


騎士団という単語に、ロックの耳が反応する。


「ん?」


セリナも顔を上げる。


冒険者達は酒を飲みながら続ける。


「若いのに副団長候補だとよ」


「例の英雄様か」


「ああ」


ロックが眉を上げた。


副団長候補。


この辺境では珍しい話ではない。


だが次の言葉で空気が変わる。


「確か名前は……」


「ライルだ」


ガルドの視線が止まる。


本当に一瞬だけ。


だがロックは見逃さなかった。


「知り合いか?」


ガルドは数秒黙る。


そして短く答えた。


「……昔の部下だ」


ロックが目を丸くした。


「部下?」


セリナも驚く。


ガルドが自分から人間関係を語ること自体が珍しい。


ロックが身を乗り出す。


「聞いてねぇぞ」


「言ってない」


「そりゃそうだけどよ」


当然だった。


ガルドは必要なことしか話さない。


だが、その名前は覚えていた。


ライル。


若い騎士だった。


まだ剣も未熟だった頃。


訓練で何度も転び。


何度も怒鳴られ。


それでも諦めなかった男。


ロックがニヤリと笑う。


「慕われてたのか?」


ガルドは答えない。


代わりに少しだけ視線を逸らした。


それだけで十分だった。


セリナが苦笑する。


「珍しい反応ね」


ガルドは黙る。


その時。


隣席の冒険者達の話が続く。


「でも変な噂もあるぞ」


「噂?」


「探してるらしい」


ロックが反応する。


「誰を?」


「昔の上官だとよ」


空気が止まる。


セリナとロックが顔を見合わせる。


冒険者は続けた。


「名前は知らねぇ」


「かなり前に追放された騎士らしい」


ロックが吹き出しそうになる。


「おいおい」


あまりにも分かりやすい。


ガルドは無言だった。


だが、今度は確かに目が動いた。


ライル。


あいつが。


自分を探している。


その事実だけが静かに胸へ落ちる。


セリナがガルドを見る。


「会いたい?」


質問だった。


ガルドは少し考える。


本当に少しだけ。


そして。


「……分からない」


珍しい答えだった。


即答しない。


否定もしない。


ロックが笑う。


「会いたいんじゃねぇか」


「違う」


「今の間で説得力ねぇぞ」


珍しく食い下がる。


ガルドは黙った。


だが否定しきれていない。


セリナの表情が柔らかくなる。


追放。


騎士団。


裏切り。


ガルドの過去は暗い話ばかりだった。


そんな中で。


今も探している者がいる。


それは決して悪いことではない。


その時だった。


リゼが小さく首を傾げる。


「……探してるの?」


「そうみたいね」


セリナが答える。


リゼは少し考える。


それから。


「いい人?」


ロックが笑った。


「それは本人に聞かねぇと分かんねぇな」


全員の視線がガルドへ向く。


ガルドは数秒黙った。


そして。


「……真面目だ」


短い一言。


だが。


それはガルドにしては最大級の評価だった。


ロックが吹き出す。


「めちゃくちゃ褒めてるじゃねぇか」


ガルドは無言で立ち上がった。


話を終わらせる気だ。


ロックは笑いながら肩を竦める。


「逃げた」


セリナも少し笑った。


だが。


その後ろ姿を見ながら思う。


ライル。


騎士団。


失われた記録。


レオン。


全てが少しずつ繋がり始めている。


そして同じ頃——。


遠く離れた王都。


騎士団本部。


訓練場の片隅で、一人の青年騎士が報告書を閉じていた。


鋭い目。


短い茶髪。


まだ若い。


だが胸には高位騎士の徽章。


ライルだった。


彼は机の上の一枚の紙を見る。


そこに記されているのは、最近の旅人情報。


そして。


黒剣を背負う全身鎧の男。


ライルの目が細くなる。


「……やっと見つけた」


小さな呟き。


その声には安堵が混じっていた。


だが同時に。


焦りもあった。


まるで時間が残されていないかのように。


彼は立ち上がる。


迷いは無い。


長い間探し続けていた人物。


その足跡が、ようやく見え始めていた。

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