表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/110

第85話 竜の残したもの

ベルンの街に滞在して三日。


一行は教会で得た情報を整理していた。


レオン。


失われた記録。


消された名前。


結社の痕跡。


繋がりそうで繋がらない。


そんな状況だった。


宿の一室。


ロックは椅子に座りながら唸る。


「結局、何が消されたんだろうな」


机には写し取った資料が広げられている。


セリナも眉を寄せた。


「意図的なのは間違いないわ」


「でも理由が見えない」


ガルドは黙って資料を見ていた。


相変わらず感情は読めない。


だが、以前よりは興味を持っているようにも見える。


リゼは窓際に座って外を眺めていた。


まだ人混みは苦手だ。


だが以前よりは落ち着いている。


そんな時だった。


コン。


窓に何かが当たった。


全員が顔を上げる。


二度目。


コン。


ロックが立ち上がる。


「鳥か?」


窓を開けた。


その瞬間。


何かが飛び込んでくる。


「うおっ!?」


ロックが慌てて仰け反る。


セリナも立ち上がった。


だが次の瞬間。


見覚えのある姿が目に入る。


蒼い鱗。


小さな翼。


金色の瞳。


子ドラゴンだった。


「……お前」


ロックが目を丸くする。


子ドラゴンは器用に窓枠へ着地した。


以前より大きい。


だがまだ幼い。


部屋を見回す。


そして。


真っ直ぐガルドを見た。


数秒の沈黙。


ガルドも見返す。


不思議な時間だった。


やがて子ドラゴンは小さく鳴く。


『グルル』


敵意は無い。


警戒も薄い。


以前より明らかに距離が近い。


ロックが苦笑する。


「すっかり顔見知りだな」


子ドラゴンは返事をしない。


代わりに部屋の中へ入ってきた。


リゼが少し驚く。


「……竜」


セリナも目を細める。


普通なら有り得ない。


野生の竜が自ら近づいてくるなど。


子ドラゴンはゆっくりと歩く。


そしてロックの前で止まった。


ロックが首を傾げる。


「ん?」


竜の視線はロックの手元へ向いていた。


そこで思い出す。


エルフ領で拾った鱗。


ロックは荷物を探った。


布に包まれた蒼い鱗を取り出す。


「これか?」


子ドラゴンの目が僅かに細くなる。


ロックは笑った。


「やっぱお前のだったのか」


手のひらへ乗せる。


子ドラゴンは鼻先で軽く触れた。


懐かしむように。


確認するように。


そして。


鱗を咥えた。


その様子を見ながらセリナが呟く。


「大事なものなのね」


子ドラゴンは小さく鳴いた。


肯定するように。


その時だった。


竜の首に巻かれていたものが目に入る。


細い革紐。


そこに小さな金属片が結ばれている。


ロックが眉を上げた。


「なんだ、それ」


自然のものではない。


人工物だ。


ガルドの視線も向く。


子ドラゴンは少し迷うような仕草を見せた。


そして。


革紐を外す。


床へ落とした。


カラン。


小さな音。


ロックが拾い上げる。


金属片ではなかった。


古い紋章だった。


剣。


翼。


そして盾。


ロックの顔から笑みが消える。


「……おい」


セリナも気付く。


教会で見た。


あの紋章。


レオンの時代の王国騎士団。


なぜ竜が持っている。


全員の視線が集まる。


子ドラゴンは黙っていた。


だが。


まるで渡すために来たかのようだった。


ロックが慎重に紋章を裏返す。


そこには文字が刻まれていた。


かなり摩耗している。


だが読める。


> ――隊長補佐


その下。


さらに薄く。


名前の一部。


だが欠けている。


「レ……」


そこまでしか読めない。


残りは削れていた。


セリナが息を呑む。


ロックが顔を上げる。


「偶然じゃねぇな」


ガルドも紋章を見ていた。


その時。


黒剣が微かに鳴る。


カン――。


部屋の空気が僅かに張る。


だが誰も気付かない。


子ドラゴンだけが反応した。


金色の瞳が黒剣を見る。


警戒ではない。


確認。


観察。


まるで何かを見極めているようだった。


数秒後。


子ドラゴンは翼を広げる。


窓枠へ飛び乗る。


ロックが声を掛ける。


「待て!」


だが竜は振り返らない。


最後に一度だけ。


ガルドを見る。


そして飛び立った。


青空へ消えていく。


部屋には静寂だけが残った。


ロックが紋章を見る。


「……絶対何か知ってるだろ」


セリナも同意だった。


だが、それ以上に気になることがある。


竜がこれを持っていた理由。


親竜が渡したのか。


それとも。


かつての所有者から受け継いだのか。


もし後者なら。


レオンと竜は、単なる共闘関係ではなかった可能性がある。


窓の外では、遠く鐘が鳴っていた。


ガルドは静かに紋章を見つめる。


失われた名前。


消された記録。


そして竜。


少しずつ。


本当に少しずつだが。


遠い過去が姿を見せ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ