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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第82話 人の街へ

エルフ領を出て二日。


森は徐々にその姿を変えていた。


白樹の巨木は減り、人の手が入った道が増えていく。


踏み固められた街道。


荷馬車の轍。


旅人の足跡。


文明の匂いだった。


ロックは大きく伸びをする。


「やっぱ森よりこっちの方が落ち着くな」


前を歩くセリナが振り返る。


「エルフ領が嫌だったの?」


「嫌じゃねぇよ」


ロックは苦笑した。


「ただ、ずっと森だと落ち着かねぇ」


「なんか監視されてる気分になる」


セリナが呆れたように肩を竦める。


「精霊に失礼ね」


「実際見られてただろ」


否定できない。


セリナも小さく笑った。


その横ではリゼが黙って歩いていた。


以前より足取りは安定している。


だが時折、不安そうに周囲を見回している。


人里が近づいていることを感じているのだろう。


ガルドは最後尾を歩いていた。


いつも通り。


背には黒剣。


何も言わない。


ただ周囲を見ている。


昼過ぎ。


丘を越えた先で街が見えた。


石壁。


赤い屋根。


人の往来。


街道を行き交う荷馬車。


中規模の交易都市だった。


ロックが笑う。


「ようやく着いたか」


街の名前はベルン。


グラン=ヴァルクほど大きくはない。


だが周辺では有名な交易拠点だ。


旅人も多い。


門へ近づくにつれ、人の数が増えていく。


商人。


冒険者。


農民。


様々な種族が行き交う。


久しぶりの人の気配だった。


その時だった。


リゼの足が止まる。


セリナがすぐ気付く。


「リゼ?」


少女の顔色が青かった。


呼吸が少し浅い。


視線は門へ向いている。


正確には——人混みへ。


荷車が通る。


誰かが笑う。


子供が走る。


ありふれた光景。


だがリゼの瞳には恐怖が浮かんでいた。


「……」


唇が震える。


セリナの表情が変わる。


「大丈夫」


優しく肩へ手を置く。


だがリゼの身体は強張ったままだった。


その時。


馬車の車輪が石を踏む。


ガタン。


大きな音。


瞬間。


リゼの身体が震えた。


瞳が揺れる。


「……やだ」


小さな声。


セリナの胸が締め付けられる。


思い出している。


結社の施設。


運搬用の馬車。


地下への移送。


閉じ込められていた日々。


理屈ではない。


身体が覚えている。


ロックも気付いた。


笑顔が消える。


「……まずいな」


リゼの呼吸が速くなる。


周囲の人間が増える。


知らない顔。


知らない声。


閉鎖空間。


監視。


拘束。


断片的な記憶が押し寄せる。


セリナが抱き寄せる。


「大丈夫」


「ここにいる」


「私がいる」


だが震えは止まらない。


その時だった。


ガルドが前へ出る。


何も言わない。


ただリゼと人混みの間に立つ。


黒い鎧。


巨大な背中。


視界を塞ぐ。


リゼの瞳が上を向く。


ガルド。


黒剣。


以前と同じ。


少しだけ呼吸が落ち着く。


セリナが気付く。


肩の力が抜けている。


完全ではない。


だが先程よりずっと良い。


ロックが苦笑した。


「本当に効くな」


ガルドは答えない。


門番がこちらを見る。


一瞬だけ黒剣へ視線が向く。


だが止めはしない。


旅人としては珍しくない。


多少目立つ程度だ。


手続きを終え、一行は街へ入る。


石畳の道。


露店。


酒場。


鍛冶屋。


人の声が飛び交う。


活気がある。


だがリゼはまだ落ち着かない。


セリナがそばを離れない。


そしてガルドも自然と近くを歩いていた。


本人に自覚は無いだろう。


だが結果として、リゼは徐々に落ち着いていく。


その様子をロックが眺める。


「不思議なもんだな」


セリナが頷く。


「ええ」


視線はガルドへ。


アルヴェインも言っていた。


ガルドの近くでは安定する。


理由はまだ分からない。


黒剣なのか。


ガルド自身なのか。


あるいは両方なのか。


答えは出ていない。


だが。


今は助かっている。


それだけは確かだった。


宿を探そうとした時だった。


ロックの視線が通りの先で止まる。


石造りの大きな建物。


尖塔。


鐘楼。


白い旗。


聖教会だった。


ロックが口笛を吹く。


「へぇ」


セリナも見る。


「結構大きいわね」


ガルドの視線も向く。


教会。


そして古い記録。


エルフ領を出る前。


アルヴェインは言っていた。


外にしかない情報があると。


失われた記録。


邪竜戦争。


黒剣。


レオン。


そして結社。


もしかすると——。


その手掛かりが、あの中にあるのかもしれない。


夕暮れの鐘が鳴る。


重い音が街へ響く。


その音を聞きながら。


一行はゆっくりと教会を見上げていた。

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