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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第80話 外の世界へ

子ドラゴンが去ってから三日が過ぎていた。


エルフ領は再び静けさを取り戻している。


森は穏やかだった。


白樹は風に揺れ、精霊たちは囁くように森を巡る。


だが、その静けさとは裏腹に、一行の中では少しずつ変化が起きていた。


リゼは中庭を一人で歩けるようになっていた。


まだ長距離は無理だ。


だが、以前のような虚ろな目はない。


セリナと並んで歩く姿は、ようやく普通の少女に戻りつつあった。


「無理はしないでね」


セリナが言う。


リゼは小さく頷いた。


「……うん」


返事も自然になっている。


それを少し離れた場所から見ていたロックが肩を竦めた。


「ほんと回復してきたな」


ガルドは無言だった。


だが視線は自然とリゼへ向いている。


それに気づいたセリナが微かに笑う。


以前なら見逃していたかもしれない。


だが今は分かる。


ガルドなりに気にかけているのだ。


本人に自覚は無さそうだが。


その日の夕方。


アルヴェインから呼び出された。


場所は世界樹の根元。


初めて会った時と同じ場所だった。


巨大な根が幾重にも絡み合い、森の奥深くで静かに息づいている。


長老は既に待っていた。


その表情は穏やかだったが、どこか決意を感じさせる。


全員が揃うのを確認し、口を開いた。


「結論から言おう」


静かな声。


「リゼは安定した」


セリナの肩が僅かに緩む。


だが次の言葉は予想通りだった。


「完治ではない」


空気が静まる。


リゼ自身も理解していたのだろう。


俯くことはなかった。


ただ静かに長老の言葉を待つ。


「調律によって流れは整った」


「じゃが、外から刻まれた干渉は残っておる」


長老の視線がリゼの首元へ向く。


今は痕もほとんど見えない。


だが消えてはいない。


「再び強い干渉を受ければ、不安定化する可能性は高い」


セリナが唇を噛む。


「治す方法は……」


長老は少しだけ目を閉じた。


そしてゆっくりと頷く。


「ある」


全員の視線が向く。


ロックも思わず身を乗り出した。


「本当か?」


「ただし、ここには無い」


森の風が吹く。


世界樹の葉が揺れる。


長老は続けた。


「外じゃ」


その一言に、ロックが眉を上げる。


「外?」


「結社の干渉は森の外から来ておる」


「ならば、その根を辿らねばならぬ」


セリナの目に決意が宿る。


長い旅になるだろう。


危険も増える。


それでも。


妹を救うためなら迷う理由はない。


長老はガルドへ視線を向けた。


「お主も、いずれ向き合わねばならん」


黒剣。


誰も口にはしない。


だが全員が理解している。


ガルドは静かに頷いた。


長老は微かに目を細める。


それから懐へ手を入れた。


取り出したのは、小さな翡翠色の護符。


フィルエナの印。


以前渡したものと同じ精霊の加護が込められている。


「予備じゃ」


差し出される。


ガルドは少しだけ沈黙し、それを受け取った。


長老は静かに言う。


「過信するな」


「抑えるだけじゃ」


「消せはせん」


ガルドは短く答えた。


「……ああ」


ロックが横で苦笑する。


「相変わらず短ぇな」


セリナも少しだけ笑った。


重かった空気が僅かに緩む。


その時だった。


世界樹の葉が大きく揺れる。


ざわり。


風が吹き抜ける。


だが、不思議なことに誰も寒さを感じなかった。


まるで森そのものが別れを惜しんでいるようだった。


アルヴェインは空を見上げる。


「森は、お主らを覚えた」


ロックが首を傾げる。


「それって良いことか?」


「半分はな」


長老は少しだけ笑った。


「もう半分は、これから分かる」


意味深な言葉だった。


だが、それ以上は語らない。


やがて話は終わった。


館へ戻る道。


夕暮れが森を赤く染めている。


リゼはセリナの隣を歩いていた。


以前より足取りはしっかりしている。


その姿を見ながら、ロックが小さく呟く。


「ようやく出発か」


長かった。


港町。


地下施設。


観測者。


リゼ救出。


エルフ領。


振り返れば色々あった。


だが。


終わってはいない。


むしろ始まりだ。


その時だった。


ロックの足が止まる。


胸の奥がざわつく。


まただ。


最近何度も感じる違和感。


死の気配ではない。


敵意でもない。


もっと遠く。


もっと深い場所。


ロックは振り返る。


森の奥。


誰もいない。


風だけが吹いている。


だが。


ほんの一瞬。


頭の奥に声が落ちた。


> 『まだ来るな』


ロックの瞳が揺れる。


昨夜と同じ声。


だが今度は短い。


それだけだった。


次の瞬間には消えている。


ロックは眉を寄せた。


「……何なんだよ、本当に」


誰にも聞こえていない。


言うべきか迷う。


だが結局、何も言わなかった。


今はまだ。


その時ではない気がした。


前を歩くガルドを見る。


無口な騎士。


黒剣を背負う男。


セリナとリゼ。


そして自分。


旅は続く。


森を出れば、また世界が待っている。


誰も知らない。


その先に待つ真実も。


結社の本当の目的も。


黒剣の行き着く先も。


そして。


ロック自身が何者なのかも。


夕陽が森を染める。


長かったエルフ領での日々が、静かに終わろうとしていた。

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