表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/111

第79話 幼き影

森の空へ消えた巨大な影。


その余韻だけが、その場に残っていた。


風が吹く。


白樹の枝葉が揺れ、葉擦れの音が静かに響く。


ロックは空を見上げたまま固まっていた。


「……今の、見たよな?」


アルヴェインは答えない。


ガルドも黙っている。


だが、その沈黙が答えだった。


見間違いではない。


確かに何かがいた。


しかも——飛竜などではない。


もっと大きい。


もっと重い存在感。


ロックは頭を掻いた。


「勘弁してくれよ……」


アルヴェインがゆっくりと口を開く。


「森の結界は、許可なき大型魔獣を通さぬ」


「だが、今のは結界に触れておらぬ」


ロックが眉を寄せる。


「どういう意味だ?」


「既に内側におる」


短い返答。


空気が重くなる。


ロックが嫌そうな顔をした。


「全然安心できねぇんだが」


アルヴェインは小さく息を吐いた。


「慌てる必要はない」


「敵意があれば、森が先に騒ぐ」


先程の気配を思い返す。


確かに敵意はなかった。


だが——。


ロックは胸の奥に残る違和感を振り払えなかった。


その時だった。


ガルドが歩き出す。


森の奥へ。


無言のまま。


ロックが慌てて追う。


「おい、待てって」


アルヴェインは止めなかった。


ただ静かに二人の背を見送る。


森の奥。


木々の隙間を縫うように進む。


しばらく歩くと、開けた崖へ出た。


眼下には広大な森が広がっている。


風が強い。


ロックは周囲を見回した。


「いねぇな……」


そう呟いた瞬間。


ガルドの視線が空へ向く。


ロックもつられて顔を上げた。


そして——。


いた。


遠く。


森の上空。


小さな黒い点。


だが、急速に近づいてくる。


翼を広げる。


陽光を反射する鱗。


長い尾。


ロックの目が見開かれた。


「おいおいおい……!」


巨大ではない。


むしろ若い。


だが間違いない。


竜だった。


風を切りながら、こちらへ向かってくる。


ロックが反射的に身構える。


だがガルドは動かない。


黒剣も抜かない。


竜は崖の上空を一度旋回した。


大きな黄金の瞳。


その視線が真っ直ぐガルドへ向く。


ロックは息を呑んだ。


見覚えがあった。


「あいつ……」


かつて助けた子ドラゴン。


あの時より二回りほど大きくなっている。


だが、まだ成竜ではない。


幼さが残る。


竜は低く鳴いた。


『グルル……』


警戒でも威嚇でもない。


どこか確認するような声。


ガルドは静かに見上げる。


何も言わない。


しばらく視線が交差する。


風だけが吹いていた。


その時だった。


ガルドの背で、黒剣が微かに震える。


カン——。


小さな金属音。


竜の瞳が細くなる。


空気が張る。


ロックが思わず身構えた。


だが、何も起こらない。


竜はしばらく黒剣を見つめていた。


まるで何かを確かめるように。


そして——。


ゆっくりと視線をガルドへ戻す。


『……』


声にならない鳴き声。


その黄金の瞳には、以前の恐怖はなかった。


代わりにあったのは、戸惑いと警戒。


そして、僅かな信頼。


ロックが苦笑する。


「覚えてんのか?」


竜は答えない。


当然だ。


だが、逃げない。


それだけで十分だった。


ガルドは静かに立っている。


動かない。


やがて竜は翼を広げた。


強い風が吹く。


ロックが目を細める。


「帰るのか?」


竜は最後にもう一度だけガルドを見る。


そして。


森の奥へ飛び去った。


数秒後には姿が見えなくなる。


静寂が戻った。


ロックが息を吐く。


「なんだったんだ……」


ガルドは空を見ている。


その視線の先には何もない。


だが。


崖の縁に、小さな鱗が落ちていた。


淡い蒼色。


陽光を受けて輝いている。


ロックが拾い上げる。


「土産か?」


軽く笑う。


だが、その時。


ロックの胸の奥が僅かにざわついた。


死の気配ではない。


敵意でもない。


もっと曖昧な感覚。


遠く。


森のさらに向こう。


何かが動いている。


それも一つではない。


ロックの表情が曇る。


「……またか」


ガルドが視線だけ向ける。


ロックは苦笑した。


「いや、今回は死ぬ感じじゃねぇ」


「けど……」


言葉が止まる。


上手く説明できない。


ただ一つだけ分かった。


森の外。


世界のどこかで。


何かが動き始めている。


その予感だけが、妙に胸に残っていた。


そして。


遠く森の奥。


誰も見ていない空の彼方で。


子ドラゴンは飛び続けていた。


その先には——。


巨大な影があった。


子ドラゴンより遥かに大きい翼。


山のような体躯。


黄金の瞳。


親竜だった。


子ドラゴンは短く鳴く。


親竜は静かに森の方角を見る。


その視線の先には——。


黒剣を背負う、一人の騎士。


やがて親竜はゆっくりと目を閉じた。


まるで何かを見定めるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ