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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第4章 癒えぬもの

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第69話 抑制

世界樹の最深部に、静寂が落ちた。


さっきまで荒れ狂っていた紫の光は消え。


空中の魔法陣も、霧散している。


残っているのは――


張り詰めた緊張だけだった。


黒衣の観測者たちは、動かない。


仮面の奥。


感情のない視線が、ただガルドの背中へ向けられている。


正確には――


黒剣へ。


カン……


低い音が、静かに響く。


鞘の中。


黒剣が、微かに震えていた。


ロックが眉をひそめる。


「……まだ鳴ってやがる」


短剣を構えたまま、視線を逸らさない。


一方。


セリナは、リゼを抱きしめていた。


呼吸は安定している。


首元の紫の光も、ほとんど消えていた。


「……大丈夫」


震える声。


自分へ言い聞かせるように。


その時。


アルヴェインが、静かにガルドへ近づいた。


視線は、首元。


黒い痣を見る。


セリナも、つられるように目を向ける。


「……っ」


変わっていない。


痣は、広がっていなかった。


むしろ。


胸元のフィルエナの印が、淡く緑に輝いている。


まるで。


黒い炎を押さえ込むように。


セリナが、小さく呟く。


「……護符が、抑えてる」


アルヴェインが、静かに頷いた。


「侵食は始まっている」


低く。


重い声。


「だが、フィルエナの印が留めている」


ロックが、口元を歪める。


「じゃあ、まだセーフってことか」


アルヴェインは、すぐには答えない。


その視線は、黒剣へ向いていた。


カン……


また、小さく鳴る。


まるで、何かを訴えるように。


長老の目が、僅かに細くなる。


「……妙だ」


セリナが顔を上げる。


「何がですか」


アルヴェインは、ゆっくりと言葉を選んだ。


「記録に残る黒剣は」


「主の感情に応じて力を解放していた」


静かな声。


「怒り」


「悲しみ」


「執着」


「そうした強い波に呼応し、侵食を進める」


セリナの視線が、ガルドへ向く。


今のガルドには。


そうした激情はない。


むしろ、逆だ。


感情の起伏が少ないからこそ、ここまで保っている。


アルヴェインが続ける。


「だが、今のあれは……」


視線は、黒剣。


「主を待たずに動いた」


ロックが苦笑する。


「自我でも芽生えたか?」


誰も笑わない。


アルヴェインは、小さく目を閉じた。


「……守っているのか」


ぽつりと。


独り言のように。


セリナが、静かに黒剣を見る。


さっき。


確かに、自分たちは助けられた。


リゼも。


自分も。


黒霧が、干渉を断ち切ったから。


その時だった。


観測者の一人が、ゆっくりと口を開く。


「観測結果、更新」


空気が、張り詰める。


リュシアが弓を引き絞る。


エルフたちも、一斉に構えた。


だが。


観測者たちは、もう攻撃態勢ではなかった。


仮面の奥。


無機質な声だけが響く。


「黒剣――変質確認」


「特異点――同期維持」


「世界樹――干渉障害、高」


ロックが眉をひそめる。


「帰る気か?」


先頭の観測者が、静かにガルドを見る。


「現段階での再回収は、非効率」


淡々と。


まるで、本当に観測だけが目的だったように。


セリナの表情が険しくなる。


「……リゼを、物みたいに」


観測者は答えない。


ただ。


最後に、ガルドへ視線を向ける。


「黒剣」


「適合率、過去記録を更新」


その言葉に。


アルヴェインの表情が、僅かに変わった。


観測者が、続ける。


「次段階へ移行する」


その瞬間。


三人の身体が、淡く歪んだ。


転移。


ロックが舌打ちする。


「逃がすか!」


飛び出そうとした、その時。


ざらつく。


頭の奥。


「……ッ!」


ロックの動きが止まる。


違う。


危険じゃない。


だが――


“見るな”。


そんな感覚。


次の瞬間。


観測者たちの姿が、霧のように消えた。


静寂。


森に、ようやく風が戻る。


リュシアが、ゆっくりと弓を下ろした。


「……消えた」


セリナは、リゼを抱いたまま俯く。


安堵。


怒り。


恐怖。


色々な感情が、混ざっていた。


一方。


ガルドは、変わらず立っている。


その背中。


黒剣から漂っていた黒霧も、いつの間にか消えていた。


まるで。


何事もなかったように。


だが。


アルヴェインだけは、静かに黒剣を見つめ続けていた。


その翠の瞳には。


僅かな安堵と――


拭いきれない違和感が、同時に浮かんでいた。

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