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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第4章 癒えぬもの

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第67話 位相

【第67話 位相】


世界樹の最深部。


精霊の泉を囲む空気は、先ほどまでとは違う緊張に包まれていた。


誰も、すぐには動けない。


セリナは、リゼを抱きしめたまま。


リゼの呼吸は、少しずつ落ち着きを取り戻していた。


首元の紫の光も、今は消えている。


「……よかった」


震える声。


安堵と、まだ抜けきらない恐怖。


セリナの肩が、小さく震えていた。


その前。


ガルドは、変わらず立っている。


黒剣には触れていない。


だが――


背中の黒剣だけが、微かに低く鳴いていた。


カン……


カン……


まるで、自分の意思を示すように。


ロックが苦笑する。


「……本当に短気だな、お前んとこの相棒」


もちろん。


ガルドは答えない。


だが、その視線だけは、観測者たちから一度も逸れていなかった。


三人の仮面。


明らかに、空気が変わっている。


先ほどまでの無機質な観測者ではない。


未知を前にした、僅かな揺らぎ。


「……記録修正」


先頭の仮面が、低く呟く。


「黒剣――自律反応、確認」


隣の仮面も続く。


「観測継続」


「排除優先度、上昇」


ロックの目が細くなる。


「……気に入らねえな、その言い方」


短剣を握る手に、力が入る。


その時。


ざらつく。


頭の奥。


今までとは比べものにならないほど、強く。


「――ッ」


ロックの顔色が変わる。


額に汗が滲む。


呼吸が、一瞬止まる。


セリナが気づく。


「ロック?」


だが。


ロックの耳には、もう届いていなかった。


世界が――


僅かに、ずれた。


音が遠のく。


視界が、白く揺らぐ。


そして。


見えるのではない。


感じる。


数秒先の――“死”。


リュシア。


右。


木の上。


観測者の一人。


指先。


魔力集中。


放たれる。


矢より速い。


喉。


貫通。


死。


「――ッ!!」


ロックの目が、見開かれる。


世界が戻る。


一秒も経っていない。


だが、確信していた。


来る。


「リュシア!!」


叫ぶ。


今までにない、切迫した声。


全員の動きが止まる。


ロックが、さらに叫ぶ。


「右上だ!! 伏せろ!!」


リュシアが、反射で動く。


訓練された身体。


思考より先に、飛ぶ。


次の瞬間。


――ズドン!!


彼女の頭があった場所を。


紫の光槍が、木ごと貫いた。


爆音。


木片が、舞う。


リュシアが地面へ着地し、そのまま目を見開く。


「……な……」


一拍遅れて。


周囲のエルフたちも、ざわめいた。


「今の……!」


「見えていたのか!?」


ロックは、荒い呼吸のまま、額を押さえる。


「……っ、くそ……」


頭が、割れそうだった。


でも――


止まらない。


また来る。


今度は左。


二人。


同時。


「左っ!! 二人、散れ!!」


エルフの戦士たちが、即座に飛ぶ。


直後。


二本の紫槍が、地面を抉った。


爆ぜる土。


木々が揺れる。


リュシアの目が、大きく見開かれる。


「……未来を、読んだ……?」


アルヴェインだけが、静かだった。


翠の瞳が、じっとロックを見ている。


そして――


小さく、呟く。


「……やはり」


セリナが振り返る。


「長老……?」


アルヴェインは答えない。


だが、その瞳には、確信があった。


一方――


観測者たち。


仮面の奥。


初めて。


明確な沈黙が走る。


「……」


「……命中、誤差」


「……偶然か」


ロックが、荒い呼吸のまま笑った。


「だったら……もう一回試してみろよ」


短剣を構える。


足は震えている。


頭も痛い。


それでも。


口元だけは、笑っていた。


「今度は、俺が当てる」


観測者たちの空気が、僅かに変わる。


黒剣。


特異点。


そして――


想定外の“誤差”。


だが。


まだ、誰も気づいていない。


その誤差が――


盤面そのものを、ひっくり返す駒になることを。

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