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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第4章 癒えぬもの

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第52話 出立

港町の外れ。


海の匂いが、強くなる。


「……船、出てるわ」


セリナが言う。


視線の先。


小さな船着き場。


大きな交易船ではない。


人目を避けるような、小型の船。


ロックが軽く眉を上げる。


「随分あっさりだな」


セリナは振り返らない。


「表からは行かない」


短く。


「目立つから」


正しい判断だった。


ガルドは何も言わない。


背にリゼを乗せたまま、静かに立っている。


リゼの呼吸は安定している。


だが――それは、今この距離だからだ。


船に乗り込む。


軋む音。


波の揺れ。


ロックが舌打ちする。


「……揺れるぞ、これ」


その瞬間。


リゼの身体が、わずかに揺れる。


「……っ」


セリナがすぐに反応する。


ガルドが足を踏ん張る。


距離は変わらない。


だが、揺れが伝わる。


首元が、かすかに光る。


「……やっぱ影響出るか」


ロックが低く言う。


セリナは頷く。


「だから急げない」


船は、ゆっくりと進む。


速度を出せば、それだけ負担になる。


時間をかけるしかない。


夕暮れ。


海の上は静かだ。


だが。


ロックは、ずっと落ち着かなかった。


「……気持ち悪いな」


ぽつりと呟く。


セリナが振り返る。


「船が苦手?」


ロックは首を振る。


「いや、そうじゃねえ」


目を細める。


海を見る。


空を見る。


そして――何もない場所を見る。


「……なんか、ズレてる」


言葉にできない違和感。


「音が……遅れてるみたいな」


セリナは何も言わない。


ただ、その様子を記憶に留める。


ガルドは変わらない。


ただ、立っている。


その首元。


夕日の中で、一瞬だけ。


黒い炎のような痣が揺れた。


セリナの視線が止まる。


「……」


だが、何も言わない。


まだ、確信がない。


夜。


船は小さな入り江に着く。


人の少ない場所。


森に近い。


「ここからは陸ね」


セリナが言う。


ロックが肩を回す。


「やっとか」


だが、気は抜かない。


馬車を使う。


森の手前まで。


そこから先は――徒歩。


「ここから先は、私が案内する」


セリナが前に出る。


迷いはない。


足取りも変わる。


“知っている道”ではない。


だが――


“分かる”。


ロックが後ろから見る。


「……頼もしいな」


軽口。


だが本音でもある。


進む。


森が近づく。


空気が変わる。


静かになる。


その時。


ロックの足が止まる。


「……待て」


セリナが振り返る。


「どうしたの?」


ロックは、前を見たまま言う。


「……こっち、ダメだ」


短く。


はっきりと。


セリナが眉をひそめる。


「理由は?」


ロックは、少しだけ間を置く。


そして。


「……分かんねえ」


正直に言う。


「でも、“嫌だ”」


その言葉に。


セリナは少しだけ考える。


感覚。


精霊の流れ。


道は、間違っていない。


だが――


ロックがここまで言うのは初めてだ。


セリナは、ゆっくりと頷く。


「……じゃあ、迂回する」


ロックが小さく息を吐く。


「悪いな」


セリナは首を振る。


「いいえ」


そして、静かに言う。


「今は、全部拾う」


最善ではなく。


“最悪を避ける”。


それが今の選択。


再び歩き出す。


森の外縁をなぞるように。


その時。


ロックが、わずかに顔をしかめる。


「……っ」


頭の奥が、ざらつく。


さっきより強い。


違和感が、“近い”。


「……なんだよ、これ」


小さく呟く。


誰にも聞こえないほどに。


だが。


確実に。


“何か”が近づいていた。

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