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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第3章 観測領域

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第45話 解放と予熱

静寂が、落ちる。


先ほどまで空間を満たしていた圧は、完全に消えていた。


残っているのは、荒い呼吸と――わずかな熱。


ロックがその場に座り込んだまま、天井を見上げる。


「……マジで……終わったのか……」


誰もすぐには答えない。


セリナは、腕の中の少女を見つめていた。


「……リゼ」


小さく呼ぶ。


返事はない。


だが。


確かに、そこにいる。


温もりがある。


呼吸がある。


それだけで、十分だった。


ゆっくりと、リゼの瞼が震える。


わずかに。


ほんの、わずかに。


セリナの息が止まる。


「……リゼ?」


目が、開く。


ゆっくりと。


焦点はまだ定まらない。


だが――


完全に“空”ではない。


揺れている。


迷っている。


「……ねえ……」


セリナの声が震える。


抑えきれない何かが滲む。


「……分かる?」


リゼの視線が、彷徨う。


セリナに止まる。


じっと。


見つめる。


数秒。


長い、沈黙。


そして――


唇が、わずかに動く。


「……ね……」


声にならない。


かすれた音。


だが。


確かに、出た。


セリナの目が見開かれる。


「……リゼ」


もう一度、呼ぶ。


今度は強く。


リゼの目が、わずかに揺れる。


だが。


その直後。


首元が、かすかに光る。


「――ッ」


セリナの表情が凍る。


ロックも気づく。


「……おい、まだかよ……!」


だが。


先ほどのような暴走には至らない。


光は弱い。


断続的だ。


不安定。


まるで――


“壊れかけたまま動いている”。


セリナが低く呟く。


「……残ってる」


完全には切れていない。


装置は壊した。


だが――


“何か”がまだ繋がっている。


リゼの身体が、びくりと震える。


苦しそうに。


「……っ……」


声が漏れる。


セリナが強く抱きしめる。


「大丈夫、大丈夫……!」


必死に。


だが、安心はできない。


ロックが立ち上がる。


「……ここ、やばいな」


周囲を見る。


空間が、微かに揺れている。


魔法陣も、完全には止まっていない。


「……まだ繋がってる」


セリナが言う。


「ここ自体が……装置みたいなもの」


つまり。


ここにいる限り。


完全には切れない。


ロックが顔をしかめる。


「じゃあ、やること一つだな」


短く。


「出るぞ」


セリナは頷く。


迷いはない。


「ええ」


リゼを抱きかかえる。


軽い。


だが、その軽さが不安を増幅させる。


ガルドは何も言わない。


ただ、黒剣を背負い直す。


その時。


わずかに。


足元が揺らぐ。


ほんの一瞬。


誰も気づかないほどに。


だが――


確かに。


黒剣が、わずかに軋む。


ドクン。


脈打つ。


ロックが顔を上げる。


「……今、なんか」


セリナも一瞬だけ見る。


だが。


リゼの方が優先だった。


「後」


短く言う。


「今は、離脱が先」


ロックも頷く。


「ああ」


ガルドは、何も言わない。


ただ。


一歩、踏み出す。


そのまま、先頭に立つ。


進む。


来た道ではない。


“見えている道”へ。


壁の一部が、わずかに歪む。


隠された通路。


ガルドは迷わない。


そのまま入る。


ロックが小さく笑う。


「……ほんと便利だな、それ」


だが、今は助かる。


セリナも続く。


リゼを抱いたまま。


その身体が、またわずかに震える。


「……っ」


セリナが強く抱き寄せる。


「大丈夫」


繰り返す。


自分にも言い聞かせるように。


その時。


リゼの指が、わずかに動く。


セリナの服を、掴む。


ほんの少し。


だが。


確かに。


セリナの目が揺れる。


「……リゼ」


名前を呼ぶ。


今度は、少しだけ柔らかく。


リゼの唇が、かすかに動く。


「……ね……え……」


断片。


それだけ。


それでも。


十分だった。


セリナが目を閉じる。


一瞬だけ。


そして、開く。


前を向く。


進む。


その背後で。


誰も気づかない場所で。


空間の奥。


微かに、何かが“記録”していた。


反応。


位置。


状態。


そして――


黒剣。


静かに。


確実に。

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