第28話 重なる記憶
ガルドは、歩いていた。
迷いはない。
先ほど見えた“道”。
それは今も、見えている。
石壁の向こう。
重なり合うように存在する、もう一つの通路。
それに従うように、進む。
ロックとセリナも続く。
だが。
「……なあ」
ロックが小声で言う。
「さっきから、妙じゃねぇか」
セリナは視線を巡らせる。
通路。
石壁。
変わらない構造。
だが――
「……空気が違う」
わずかに、重い。
それだけではない。
「音が……遠い」
足音が、遅れて返ってくるような。
微妙なズレ。
ロックが舌打ちする。
「また何か仕掛けてきてやがるな」
警戒を強める。
だが。
その違和感は、攻撃ではなかった。
じわじわと。
染み込むように。
周囲が、変わっていく。
その時だった。
ガルドの視界が、揺れる。
一瞬。
通路が消えた。
代わりに――
瓦礫。
崩れた石壁。
焼け焦げた地面。
「……」
だが、それは一瞬で消える。
元の通路に戻る。
ロックが振り返る。
「どうした?」
ガルドは答えない。
ただ、前を見る。
何も言わない。
だが。
その歩みは、わずかに変わっていた。
慎重に。
確かめるように。
再び。
視界が揺れる。
今度は、より長く。
崩れた建物。
煙。
焦げた匂い。
そして――
咆哮。
低く、重い。
腹の奥に響くような音。
ガルドの足が、止まる。
ほんの一瞬。
その間に。
「……ダンナ?」
ロックが声をかける。
だが、すぐに歩き出す。
何事もなかったかのように。
セリナが眉をひそめる。
「……何か、見えてるの?」
問いかける。
だが、返事はない。
ガルドは、何も言わない。
ただ。
前へ進む。
その時。
通路の壁。
その表面が、歪む。
石ではない。
別のものが、重なっている。
焼けた痕。
爪で抉られたような跡。
一瞬だけ。
現れて、消える。
セリナが息を呑む。
「……今の、何?」
ロックも見ていた。
「傷……か?」
だが、次の瞬間には消えている。
元の石壁。
何もない。
「……見間違いじゃねぇよな」
セリナは首を振る。
「ええ……」
確かに、あった。
だが。
説明ができない。
ガルドは、そのまま進む。
その“重なり”を、当然のように受け入れて。
鞘の中。
黒が、強く脈打つ。
それに呼応するように。
景色が、また揺れる。
今度は――
はっきりと見えた。
巨大な影。
翼。
そして、燃えるような眼。
だが。
その視線は。
ガルドではなく――
“何か”を探している。
一瞬。
幼い影が、その奥に映る。
小さな身体。
震えるように。
そして。
その映像は、途切れる。
「……っ」
セリナが息を詰める。
何かが、今。
見えた。
だが、掴めない。
ロックも言葉を失う。
「……今の、なんだ」
ガルドは止まらない。
だが。
その歩みは、確実に変わっていた。
導かれている。
自分の意思ではなく。
何かに。
引かれるように。
――――――
『……異常拡大』
記録音声が、低く響く。
『対象、空間干渉領域を越え、別位相への接続を確認』
わずかな間。
『……想定外』
だが、すぐに修正される。
『観測継続』
『干渉レベル上昇中』
――――――
通路は、続く。
だが、それはもはや。
現在だけのものではなかった。
過去が。
重なり始めている。
そして――
その中心にいるのは。
ガルドだった。




