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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第3章 観測領域

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第25話 途切れた導線

通路に入った瞬間、セリナは立ち止まった。


目を閉じる。


呼吸を整える。


「……こっち」


迷いなく、そう言った。


ロックが眉を上げる。


「分かるのか?」


「微かにだけど……残ってる」


床に、壁に、空気に。


残滓のように漂う魔力。


弱い。


だが、確かに。


「リゼのものよ」


その言葉に、迷いはなかった。


ガルドは何も言わない。


ただ、セリナの示した方向へ歩き出す。


ロックも続く。


「頼りにしてるぜ、エルフのネェちゃん」


セリナは応えない。


意識はすべて、前に向けていた。


痕跡は、続いている。


薄く。


途切れそうで。


それでも、確かに。


「……まだ近い」


小さく呟く。


距離はあるはずだ。


だが、感覚は遠くない。


進めば届く。


そう思える程度には。


通路は複雑だった。


分岐が現れる。


セリナは迷わず選ぶ。


一つ。


また一つ。


「こっち」


「次は、左」


「……まっすぐ」


その判断に、淀みはない。


ロックが感心したように息を吐く。


「すげぇな……本当に辿ってるのか」


「……感じるだけよ」


それ以上は言わない。


言えない。


だが、確信はある。


進む。


ただひたすらに。


だが――


「……なあ」


ロックが声を落とす。


「ちょっと待て」


セリナは足を止めない。


「何?」


「この壁」


ロックが指さす。


石壁。


その一角に、傷がある。


浅い引っ掻き傷。


セリナが一瞬だけ視線を向ける。


「……さっきも見た」


ロックが続ける。


「気のせいじゃねぇ」


セリナは首を振る。


「似てるだけよ」


そう言いながらも。


足は、わずかに速くなる。


不安を振り払うように。


進む。


分岐を選び続ける。


だが。


数分後。


「……おい」


ロックの声が低くなる。


同じような壁。


同じような傷。


今度は、よりはっきりと。


「これ、同じだろ」


セリナが止まる。


見つめる。


傷を。


指でなぞる。


「……違う」


かすかに。


位置がズレている。


形も、完全には一致しない。


だが。


「……似すぎてる」


ロックが吐き捨てる。


セリナは、答えない。


代わりに、再び目を閉じる。


魔力を探る。


リゼの痕跡。


さっきまで、確かにあった。


それを――


「……ある」


まだ、ある。


だが。


「……弱い」


明らかに、薄くなっている。


ロックが腕を組む。


「進んでるのに、遠ざかってる感じか?」


セリナは、ゆっくりと目を開けた。


その言葉を、否定できなかった。


進んでいる。


間違いなく。


だが。


「……近づいてない」


呟く。


「むしろ……」


言葉が詰まる。


認めたくない。


だが、理解している。


「離されてる」


ロックが舌打ちする。


「やっぱりかよ」


周囲を見渡す。


同じような通路。


同じような構造。


だが。


「戻ってるわけじゃねぇ」


セリナが続ける。


「ええ……」


「“揃えられてる”」


進む先が。


常に、同じような構造に。


結果として。


「辿り着けない」


沈黙が落ちる。


セリナはもう一度、魔力を探る。


必死に。


だが。


「……消えかけてる」


声が、わずかに震える。


「そんな……」


ここまで来て。


やっと辿り着けるはずだったのに。


ロックが前に出る。


「……セリナ」


短く呼ぶ。


視線を合わせる。


「このままじゃ、無理だ」


はっきりと。


逃げずに。


「追えてるようで、追えてねぇ」


現実だった。


残酷だが。


正しい。


セリナは動かない。


拳を握る。


歯を食いしばる。


「……でも」


絞り出す。


「すぐそこにいるのに……!」


感情が、滲む。


だが。


ロックは首を振る。


「だからだ」


静かに。


だが、強く。


「“届かせねぇようにされてる”」


言葉が、刺さる。


セリナは目を閉じる。


数秒。


やがて。


ゆっくりと、開く。


「……分かった」


短く。


だが、その声はもう揺れていない。


「今は……追えない」


認める。


苦しいが。


必要な判断。


その時だった。


ガルドが、動く。


振り返らない。


別の通路へ。


セリナが示していた方向ではない。


全く違う道へ。


迷いなく。


ロックが苦笑する。


「……あっち行くのかよ」


だが。


止めない。


「まあ、いい」


肩をすくめる。


「今の流れよりは、マシだな」


セリナも、ガルドを見る。


そして、小さく頷いた。


「……ええ」


今は。


追う時ではない。


進む時だ。


三人は、進路を変える。


その背後で。


通路が、わずかに揺らぐ。


まるで。


“役目を終えた”かのように。


リゼへと続く導線は。


完全に、断たれていた。

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