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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第7章 黒剣の継承者

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第157話 最初の継承者

男は。


ガルドの背中の黒剣を見つめたまま。


静かに言った。


「まだ」


「ノアはそこにいるのか」


誰も。


すぐには答えなかった。


アルヴェインだけが。


男を見ている。


信じられないものを見るように。


「……カルヴァン」


リゼが。


息を呑んだ。


「それ」


「名前?」


アルヴェインは。


ゆっくり頷く。


「カルヴァン」


「最初に」


「黒剣を渡した男だ」


男は。


苦笑する。


「やっと」


「思い出したか」


「お前は」


アルヴェインの声が。


震える。


「死んだはずだ」


「そうだ」


カルヴァンは。


あっさり答えた。


「死んだ」


ロックが眉をひそめる。


「じゃあ」


「今ここにいるのは何なんだ」


カルヴァンは。


自分の手を見る。


指先。


僅かに透けている。


「記録だ」


「正確には」


「記録に残った」


「俺の最後の部分」


リゼの胸。


記録印が。


淡く光る。


カルヴァンは。


それを見る。


「なるほど」


「だから」


「俺が見える」


「どういうこと?」


セリナが問う。


「普通なら」


「もう誰にも見えない」


カルヴァンは。


空白の棚へ視線を向ける。


「俺の名前も」


「声も」


「顔も」


「ほとんど喰われた」


「残ったのは」


「ここへ封じた記録だけだ」


ガルドが。


一歩前へ出る。


「誰に」


「喰われた」


カルヴァンの目が。


細くなる。


「黒剣に」


静寂。


セリナの表情が。


強張る。


ロックも。


ガルドの背中を見る。


リゼだけが。


カルヴァンから目を逸らさなかった。


「黒剣が」


「持ち主の記録を?」


「最初は違った」


カルヴァンは。


ゆっくり歩く。


棚に並ぶ。


古い装備。


破れた手紙。


名前のない遺品。


「レオンから切り離されたあと」


「剣は不安定だった」


「ノアが中にいた」


「邪竜の残滓も」


「竜の翼も」


「無数の記録も」


「全部」


「一つの器の中で」


「ぶつかっていた」


アルヴェインが。


低く言う。


「だから」


「お前へ渡した」


「ああ」


「俺なら」


カルヴァンが笑う。


「耐えられると思ったんだろ」


「……そうだ」


「正しかった」


アルヴェインが顔を上げる。


カルヴァンは。


自分の胸へ手を当てた。


「少なくとも」


「しばらくは」


---


カルヴァンは。


棚の奥。


古い椅子へ腰を下ろした。


「黒剣は」


「持ち主を必要とする」


「だが」


「同時に」


「持ち主を喰う」


ガルドが問う。


「何のために」


「安定するためだ」


「人の記憶」


「感情」


「名前」


「それを使って」


「自分を」


「形に保っている」


セリナが。


小さく呟く。


「生き物みたい」


カルヴァンは。


首を横へ振る。


「違う」


「生き物より」


「厄介だ」


「生き物は」


「自分と他人の境界を持つ」


「だが」


「黒剣には」


「それが曖昧なんだ」


リゼが。


記録印へ触れる。


「だから」


「持ち主のものを」


「自分のものにする」


「ああ」


カルヴァンは。


ガルドを見る。


「お前も」


「始まっているはずだ」


ガルドは答えない。


だが。


セリナは。


思い出していた。


さっき。


黒い文字に触れた時。


ガルドが。


ほんの一瞬。


自分を忘れた。


それは。


外から喰われただけなのか。


それとも。


黒剣の中で。


すでに何かが。


薄くなっていたのか。


「ガルド」


セリナが呼ぶ。


「今」


「私の名前」


ガルドは。


少しだけ眉をひそめる。


「セリナ」


「ロック」


「いるけど?」


「リゼ」


「はい」


三人の名。


すぐに出た。


セリナは。


僅かに息を吐く。


カルヴァンが。


その様子を見て笑う。


「確認する癖は」


「つけた方がいい」


「名前だけじゃない」


「いつ会った」


「何を話した」


「何に怒った」


「何を約束した」


「少しずつ」


「抜ける」


ガルドの目が。


鋭くなる。


「お前も」


「そうだったのか」


「ああ」


カルヴァンは。


左頬の傷へ触れる。


「最初に」


「母親の顔を忘れた」


次に。


胸元。


「その次に」


「故郷」


そして。


笑みが消える。


「最後に」


「自分が」


「何のために剣を持ったか」


誰も。


言葉を挟めなかった。


---


黒剣が。


カタリ。


小さく鳴った。


カルヴァンが。


顔を上げる。


「ノア」


再び呼ぶ。


「いるんだろ」


沈黙。


ガルドは。


柄へ手を置く。


鞘の奥。


何かが。


僅かに動く。


だが。


声はない。


カルヴァンは。


寂しそうに笑う。


「相変わらず」


「臆病だな」


その瞬間。


黒剣が。


強く震えた。


セリナたちが。


一斉に身構える。


ガルドの頭の中へ。


掠れた声。


ほんの一言。


『……違う』


ガルドの目が。


僅かに見開かれる。


「聞こえた」


リゼが問う。


「何て?」


「違う」


カルヴァンが。


目を細めた。


「そうか」


「やっぱり」


「生きてる」


今度は。


黒剣から。


もう少し。


はっきりとした声。


『カルヴァン』


男の顔から。


笑みが消えた。


『久しぶり』


カルヴァンは。


目を閉じる。


「三百年ぶりだ」


『もっと』


「そうか」


『僕には』


『分からない』


カルヴァンの声が。


僅かに震えた。


「俺もだ」


それだけ。


二人の間には。


長い時間があった。


何代もの持ち主。


失われた記憶。


語られなかった歴史。


それを。


説明する言葉は。


なかった。


---


リゼが。


ゆっくりと口を開く。


「カルヴァン」


「あなたの記録が」


「消えたのは」


「黒剣が喰ったから?」


男は。


しばらく黙る。


そして。


首を横へ振った。


「半分だけ正解だ」


アルヴェインの表情が変わる。


「半分?」


カルヴァンは。


空白の棚を見る。


「俺が」


「自分で消した」


「なぜ」


ガルドが問う。


「黒剣を」


「次へ渡すためだ」


カルヴァンは。


胸元から。


黒い指輪を外す。


「剣には」


「持ち主の記録が残る」


「残りすぎれば」


「次の持ち主と」


「混ざる」


「だから」


「渡す前に」


「自分を削った」


リゼの顔が。


強張る。


「記録を」


「自分で?」


「ああ」


「どんな魔法で」


カルヴァンは。


リゼの胸を見る。


「お前が」


「これから使う魔法と」


「同じ系統だ」


リゼが。


息を止める。


「記録魔法……」


「そうだ」


「ただし」


カルヴァンの声が。


鋭くなる。


「覚えておけ」


「記録魔法は」


「残す魔法じゃない」


「選ぶ魔法だ」


「何を」


「残して」


「何を」


「捨てるか」


リゼの瞳が揺れる。


「全部」


「残せないの?」


「無理だ」


即答だった。


「だから」


「危険なんだ」


カルヴァンは。


立ち上がる。


「記録を守ろうとする者ほど」


「最後には」


「自分を捨てようとする」


その言葉が。


リゼへ。


深く刺さる。


ガルドが。


カルヴァンを見る。


「それを」


「止める方法は」


「ある」


全員が。


男を見る。


カルヴァンは。


黒い指輪を。


ガルドへ投げた。


ガルドが受け取る。


冷たい。


重い。


内側には。


古い文字。


『一人で記すな』


「記録魔法は」


カルヴァンが言う。


「本来」


「一人で使うものじゃない」


「記録者」


「証人」


「継承者」


「三人で」


「一つの記録を残す」


リゼが。


呟く。


「三人……」


「一人が消えても」


「二人が残る」


「二人が忘れても」


「一人が繋ぐ」


カルヴァンは。


ガルドたちを見る。


「それが」


「昔の記録魔法だ」


アルヴェインが。


驚いたように言う。


「私は」


「そんな術を知らない」


「当然だ」


カルヴァンは。


苦笑する。


「使える者が」


「ほとんどいなかった」


「俺の時代でも」


「大陸に」


「三人しかいなかった」


リゼの表情が。


変わる。


希少。


だから。


結社が欲しがった。


だから。


被検体にされた。


その可能性へ。


辿り着く。


「まさか」


リゼが。


小さく呟く。


「結社は」


「これを」


「作ろうとしてた……?」


カルヴァンは。


答えなかった。


代わりに。


継承庫の奥を見る。


「それは」


「次の記録を読めば分かる」


「次?」


ロックが問う。


カルヴァンは。


一番奥。


封印された扉を指した。


そこには。


閉じた目。


観測者の紋章。


そして。


その上から。


ドワーフの鉄板が。


打ち付けられていた。


「俺が死んだあと」


「黒剣を」


「次へ渡した者」


「二代目」


「三代目」


「その記録が」


「全部」


「あの向こうにある」


アルヴェインが。


扉を見る。


「私は」


「そこを知らない」


「ああ」


カルヴァンの表情が。


険しくなる。


「俺が」


「お前にも隠した」


「なぜだ」


「観測者が」


「もう」


「黒剣を探していたからだ」


沈黙。


カルヴァンは。


ガルドを見る。


「そして」


「その中には」


「今のお前に」


「一番必要な記録がある」


「何だ」


カルヴァンは。


黒剣を指す。


「黒剣に」


「完全に喰われた持ち主を」


「仲間が」


「生きたまま」


「取り戻した記録だ」


セリナ。


ロック。


リゼ。


三人の表情が変わる。


ガルドだけが。


静かに扉を見る。


その時。


扉の向こうから。


――ドン。


重い音。


一度。


――ドン。


二度。


カルヴァンの顔が。


強張った。


「まずい」


「何が」


「記録じゃない」


男は。


一歩下がる。


「向こうに」


「誰かいる」


三度目。


――ドン!


鉄板が。


大きく膨らんだ。


ドワーフ文字が。


赤く光る。


『継ぐ者へ』


その下。


内側から。


巨大な槌が。


扉を。


叩き破った。

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