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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第7章 黒剣の継承者

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第158話 鉄槌の継承者

――ドン!


封印扉が。


内側から大きく膨らんだ。


打ち付けられていた鉄板が。


一枚。


弾け飛ぶ。


ロックが。


反射的にガルドの前へ出る。


「来るぞ!」


セリナも。


杖を構える。


リゼは。


胸の記録印へ手を置いた。


アルヴェインだけが。


扉を見たまま。


動かなかった。


「この音……」


もう一度。


――ドン!


今度は。


扉そのものに亀裂が走る。


ドワーフ文字。


『継ぐ者へ』


赤く。


強く光る。


カルヴァンが。


眉をひそめた。


「おかしい」


「何が?」


セリナが問う。


「この扉は」


「中から開かない」


「じゃあ」


「誰が叩いてる」


誰も答えない。


三度目。


――ドォン!


扉が。


吹き飛んだ。


破片。


鉄。


石。


ガルドが。


黒剣の鞘で弾く。


煙。


埃。


その向こう。


巨大な影。


「……狭ぇな」


低い声。


重い足音。


一歩。


二歩。


煙の中から。


一人のドワーフが現れた。


白髪。


長い髭。


左目には。


古い傷。


背は低い。


だが。


肩幅は。


ロックの倍近い。


全身を覆う。


古びた重装鎧。


右手には。


巨大な戦槌。


その槌頭には。


見覚えのある紋様。


レオン。


アルヴェイン。


ノア。


そして。


グラム。


四つの輪。


ガルドの瞳が。


僅かに動く。


「バルガン……」


老人が。


ぴたりと止まった。


「今」


「何と言った」


ガルドは。


戦槌を見る。


「バルガン」


老人の目が。


鋭くなる。


「なぜ」


「その名を知ってる」


ガルドは答える。


「グラムの槌だ」


空気が。


変わった。


老人の顔から。


僅かに血の気が引く。


「グラム」


その名を。


確かめるように。


繰り返す。


「お前」


「どこで」


「その名を聞いた」


アルヴェインが。


一歩前へ出る。


老人の視線が。


長老へ向く。


そして。


止まる。


「……片腕のエルフ」


アルヴェインも。


老人を見ていた。


顔ではない。


戦槌。


鎧。


胸元の紋章。


「お前は」


低い声。


「グラムの血筋か」


老人は。


しばらく黙った。


やがて。


戦槌を。


肩へ担ぎ直す。


「ドルガン」


「ドルガン・バルグ」


「グラム・バルグの」


「七代目の子孫だ」


---


沈黙。


最初に口を開いたのは。


ロックだった。


「七代目……」


「ってことは」


「本当に」


「グラムの子孫?」


「そう言った」


ドルガンが。


面倒そうに返す。


セリナは。


戦槌を見る。


「でも」


「バルガンは」


「グラムが」


記憶の中。


石像となった彼の側に。


確かに残されていた。


アルヴェインが。


答える。


「私が」


「一族へ返した」


全員の視線が。


長老へ向く。


アルヴェインは。


遠い記憶を見るように。


目を細めた。


「レオンが死んだあと」


「グラムの石化は」


「完全には戻せなかった」


「だが」


「槌だけは」


「残った」


ドルガンの表情が。


僅かに変わる。


「先祖の話を」


「知ってるのか」


「知っている」


アルヴェインは。


はっきり答えた。


「友だった」


老人が。


黙る。


長い沈黙。


やがて。


鼻で笑った。


「そうか」


それだけ。


だが。


戦槌を握る手が。


僅かに震えていた。


---


カルヴァンが。


壊れた扉の奥を見る。


「それより」


「なぜ中にいた」


ドルガンが。


そちらへ視線を向ける。


「閉じ込められてた」


「誰に」


「知らん」


「気付いたら」


「中にいた」


「どのくらい」


「三日」


リゼが。


眉をひそめる。


「本当に?」


ドルガンが。


睨む。


「何だ」


「疑ってんのか」


「そうじゃなくて」


リゼは。


扉の内側を見る。


埃。


錆。


床。


どこにも。


三日分の生活痕がない。


「ここ」


「ずっと」


「開いてない」


ドルガンの表情が。


変わった。


「何?」


カルヴァンも。


扉へ近づく。


「封印は」


「最低でも」


「二百年以上」


「破られていない」


ロックが。


ドルガンを見る。


「じゃあ」


「爺さん」


「三日じゃなくて」


「二百年いた?」


「誰が爺さんだ!」


「そこかよ!」


ドルガンが。


戦槌を振り上げる。


ロックが。


即座に下がる。


だが。


アルヴェインは笑わない。


「時間が」


「ずれている」


セリナが。


小さく呟く。


「境界……」


ガルドも。


扉の奥を見る。


黒い闇。


「向こうが」


「普通の場所じゃない」


カルヴァンが。


静かに頷く。


「継承庫の奥は」


「記録を」


「保存するため」


「時間から」


「切り離されている」


ドルガンが。


眉を寄せる。


「話が」


「見えん」


「なら」


ガルドが。


一歩前へ出る。


「見せる」


ドルガンが。


ガルドを見る。


「何を」


ガルドは。


背中。


黒剣へ手を添える。


抜かない。


ただ。


鞘ごと。


前へ出す。


ドルガンの目が。


変わった。


戦士ではない。


鍛冶師の目。


金属を見る。


形。


重さ。


傷。


鍔。


柄。


そして。


そこに刻まれた。


古い槌跡。


「……待て」


ドルガンが。


ゆっくり近づく。


「触るぞ」


ガルドは。


何も言わない。


拒まない。


ドルガンが。


黒剣の鞘へ。


指を置く。


その瞬間。


老人の顔が。


凍った。


「これ」


小さな声。


「打ってる」


「何を」


ロックが問う。


ドルガンは。


答えない。


指で。


鞘越しに。


刀身の形を辿る。


「三度」


「いや」


「もっとだ」


「何人もの鍛冶師が」


「この剣を」


「直してる」


アルヴェインが。


低く言う。


「グラムもだ」


ドルガンの手が。


止まる。


「……先祖が」


「そうだ」


老人は。


しばらく。


黒剣を見つめた。


そして。


急に。


ガルドの胸倉を掴んだ。


「お前!」


セリナが。


杖を向ける。


「離して!」


「黙れ!」


ドルガンは。


ガルドだけを見る。


「この剣」


「壊れかけてるぞ」


全員の表情が変わる。


ガルドが。


低く問う。


「どこが」


「全部だ!」


ドルガンが怒鳴る。


「刀身じゃねぇ!」


「中だ!」


「力の流れが」


「滅茶苦茶だ!」


「何人分も」


「何百年分も」


「詰め込みやがって!」


黒剣が。


カタリ。


小さく鳴る。


ドルガンは。


さらに顔を険しくする。


「しかも」


「今の持ち主へ」


「流れすぎてる」


セリナが。


ガルドを見る。


「それって」


ドルガンは。


胸倉を離した。


「このまま使えば」


「剣が壊れるんじゃねぇ」


ガルドを。


指差す。


「こいつが」


「先に壊れる」


---


静寂。


アルヴェインの表情が。


険しくなる。


「止められるか」


ドルガンは。


すぐには答えない。


黒剣。


戦槌。


バルガン。


二つを。


交互に見る。


「分からん」


「分からない?」


ロックが聞き返す。


「俺は」


「これほど酷い剣を」


「見たことがねぇ」


「褒めてんのか?」


「どこを聞いたらそうなる!」


ドルガンは。


ガルドへ向き直る。


「抜け」


セリナが。


即座に言う。


「駄目」


ドルガンが。


眉を上げる。


「何だ」


「簡単に抜かせないで」


「調べられん」


「抜くと」


セリナは。


一瞬。


言葉を探す。


レオン。


邪竜。


侵食。


記憶。


今まで見たもの。


「危ない」


ドルガンは。


セリナを。


じっと見る。


次に。


リゼ。


ロック。


アルヴェイン。


最後に。


ガルド。


「なるほど」


「何が」


「一人じゃねぇんだな」


ガルドの瞳が。


僅かに動く。


ドルガンは。


戦槌を肩へ担ぐ。


「なら」


「今は抜くな」


セリナが。


少し驚く。


「いいの?」


「見りゃ分かる」


「今抜く必要はねぇ」


老人は。


黒剣を睨む。


「だが」


「いつか」


「抜かなきゃならん時が来る」


「その時までに」


戦槌。


バルガンを。


地面へ突き立てる。


「この剣に」


「楔を打つ」


ガルドが問う。


「楔」


「力を止める」


「完全には無理だ」


「だが」


「持ち主へ流れる力を」


「一時的に」


「切れるかもしれん」


アルヴェインが。


息を呑む。


グラムが。


最後に残そうとしたもの。


黒剣を。


壊すのではない。


力の流れを変える。


楔。


「グラムと」


「同じだ」


ドルガンが。


長老を見る。


「何が」


「奴も」


「そう言っていた」


老人は。


戦槌を見下ろす。


しばらく。


何も言わない。


やがて。


小さく。


鼻で笑った。


「なら」


「血筋だな」


---


その時。


継承庫の奥。


闇の中から。


音がした。


カチ。


何かが。


外れる音。


ドルガンが。


即座に振り返る。


「下がれ」


声が。


戦士のものへ変わる。


「何かいる」


ガルド。


セリナ。


ロック。


リゼ。


全員が構える。


奥。


暗闇。


そこへ。


一つ。


白い光が灯った。


階段。


上ではない。


下へ続く。


白い階段。


ロックの顔から。


血の気が引く。


「……これ」


セリナが。


ロックを見る。


「知ってるの?」


ロックは。


答えない。


答えられない。


何度も。


夢で見た。


現実でも。


見え始めた。


白い階段。


その最上段。


誰かが。


立っている。


人の姿。


だが。


輪郭だけ。


顔は見えない。


声が。


ロックだけへ届いた。


『ようやく』


『器が』


『ここまで来た』


ロックの右手に。


白い紋様が。


浮かび上がった。


それを見たドルガンが。


目を見開く。


「お前」


ロックが。


自分の手を見る。


「……何だよ」


ドルガンの表情から。


さっきまでの豪快さが消える。


「その印」


低い声。


「ドワーフの古い神殿で」


「一度だけ見たことがある」


ロックが問う。


「何の印だ」


ドルガンは。


白い階段を睨んだまま。


答えた。


「神に」


「人の世界へ降りる身体を」


「貸す者」


「亜神の」


「器だ」

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