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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第7章 黒剣の継承者

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第156話 記録を喰うもの

黒い文字が。


一斉に。


リゼへ向きを変えた。


「逃げろ!」


アルヴェインの叫びと同時に。


床を這っていた文字が跳ねた。


ガルドが前へ出る。


黒剣には触れない。


腰の剣を抜き。


横薙ぎ。


刃が黒い文字を捉えた。


――はずだった。


「……?」


手応えがない。


文字は刃をすり抜け。


ガルドの腕へ張り付いた。


「ガルド!」


セリナが叫ぶ。


黒い文字が。


皮膚の上を這う。


痛みはない。


だが。


ガルドの表情が変わった。


「……誰だ」


「え?」


目の前のセリナを見ている。


それなのに。


分からない。


「お前は……」


セリナの顔から血の気が引く。


「ガルド」


その声。


名前。


共に歩いた時間。


一瞬遅れて。


記憶が戻る。


「……セリナ」


黒い文字が腕から剥がれた。


ガルドは。


息を呑む。


ほんの数秒。


消えていた。


セリナという存在が。


「こいつ……」


ロックが剣を構える。


「記憶を喰ったのか」


「違う!」


アルヴェインが叫ぶ。


「記憶ではない!」


「記録だ!」


黒い文字が。


空中で蠢く。


『セリナ』


そこに。


彼女の名が浮かんだ。


そして。


ぐしゃりと潰れる。


「人が誰かを覚える時」


アルヴェインが言う。


「記憶だけを使っているのではない」


「名前」


「顔」


「関係」


「その人間が存在したという記録」


「それを結びつけている」


リゼが。


黒い文字を見つめる。


「それを」


「切ってる……?」


「喰っている」


アルヴェインの声が低くなる。


「だから」


「斬るな」


「触れられた分だけ」


「お前たちから記録を探る」


ロックが。


構えを解かずに言う。


「じゃあどうすんだよ」


誰も答えられない。


黒い文字が。


再び動いた。


狙いは。


リゼ。


「来る!」


セリナが。


リゼを庇う。


だが。


文字はセリナを迂回した。


明らかに。


リゼだけを追っている。


「私……?」


リゼの胸。


淡い青色の記録印が光る。


その瞬間。


黒い文字が。


激しく震えた。


アルヴェインが息を呑む。


「それを狙っている!」


---


ガルドが。


リゼを抱えて跳ぶ。


直後。


二人がいた床へ。


黒い文字が殺到した。


石床から。


刻まれていた古代文字が消える。


一瞬で。


真っ白な石になる。


「出口へ!」


アルヴェインが指す。


ロックが先行する。


セリナ。


リゼ。


ガルド。


最後にアルヴェイン。


祭壇から。


通路へ飛び込む。


だが。


十歩も進まないうちに。


ロックが止まった。


「……おい」


「どうした」


ガルドが問う。


「道が」


壁。


行き止まり。


「こんな場所」


「さっきあったか?」


セリナが振り返る。


「ない」


アルヴェインの顔が強張る。


「出口の記録を」


「喰われた」


ロックが。


壁を叩く。


「出口そのものが消えたってのか?」


「違う」


リゼが言う。


壁へ近づく。


「道はある」


「でも」


手を伸ばす。


石壁へ触れる。


「ここが道だったことを」


「世界が忘れてる」


静寂。


ロックが。


嫌そうな顔をした。


「それ」


「どっちがマシなんだよ」


「たぶん」


リゼは答える。


「どっちも最悪」


背後。


ザワ。


黒い文字が。


通路へ流れ込んでくる。


「時間がない!」


セリナが杖を構える。


淡い光。


祭壇からの戦いで。


魔力はほとんど残っていない。


それでも。


光球を放つ。


文字へ直撃。


消えない。


だが。


一瞬。


動きが鈍る。


「光は効く!」


セリナが叫ぶ。


アルヴェインが。


首を横へ振る。


「照らしているだけだ!」


「倒せてはいない!」


「それでも十分!」


セリナは。


さらに光を放つ。


「リゼ!」


「道を思い出させられる?」


「やってみる!」


リゼは。


壁へ両手をついた。


胸の記録印が。


青白く光る。


「ここには」


「道があった」


何も起きない。


「私たちは」


「ここを通った」


壁が。


僅かに揺れる。


「階段があって」


「右に曲がって」


「その先に」


記憶を辿る。


「扉がある!」


青い光が。


壁へ走った。


石の表面に。


一本の線。


輪郭。


扉。


ロックが目を見開く。


「戻った!」


「まだ!」


リゼが叫ぶ。


扉には。


取っ手がない。


鍵穴もない。


「名前がない」


「何?」


「この場所の」


「名前が消されてる!」


アルヴェインが。


リゼを見る。


「名を与えるな!」


リゼの動きが止まる。


「どうして」


「記録魔法で」


「存在しない記録を作れば」


「お前自身が」


「代価になる」


黒い文字が迫る。


セリナの光が。


押され始める。


「でも!」


リゼが叫ぶ。


「このままじゃ!」


「既にあった名を探せ!」


アルヴェインが。


壁へ手を当てる。


「作るな!」


「思い出せ!」


リゼは。


目を閉じる。


記憶。


祭壇へ来た時。


アルヴェインが。


確かに。


何か言った。


――この先が。


――。


声が。


抜け落ちている。


黒い文字に。


喰われた部分。


「思い出せない……!」


「リゼ!」


セリナの膝が落ちる。


光が弱まった。


黒い文字が。


一気に押し寄せる。


その時。


ガルドが。


背中へ手を伸ばした。


「駄目!」


セリナが気付く。


「黒剣は!」


「分かってる」


ガルドは。


柄を握らない。


鞘ごと。


黒剣を外す。


そして。


扉の輪郭へ。


黒剣を押し当てた。


カタリ。


剣が鳴った。


アルヴェインが。


目を見開く。


「何を」


「こいつは」


ガルドが言う。


「覚えてる」


レオンを。


ノアを。


何代もの持ち主を。


人間の記録から消えたものを。


黒剣だけは。


抱え続けてきた。


「なら」


「道も知ってるかもしれない」


黒剣が。


もう一度。


鳴った。


カタリ。


青い輪。


ノアの輪が。


淡く光る。


そして。


ガルドの頭に。


声ではない何かが届いた。


一つの言葉。


「……継承庫」


アルヴェインが。


息を呑む。


「そうだ」


「継承庫だ!」


リゼが。


その言葉を聞く。


「継承庫」


記録印が。


強く光った。


「ここは」


「継承庫へ続く道!」


扉に。


文字が刻まれる。


新しく作られた文字ではない。


消されていた文字が。


戻ってくる。


――継承庫。


ゴゴゴゴ。


石壁が。


左右へ開いた。


「走れ!」


全員が。


中へ飛び込む。


最後にガルド。


黒い文字が。


足元まで迫る。


一文字が。


靴へ触れた。


その瞬間。


頭の中から。


何かが。


抜け落ちた。


「……っ」


ガルドが。


僅かによろめく。


セリナが。


腕を掴む。


「早く!」


ガルドを引き込む。


扉が閉じた。


黒い文字が。


向こう側で。


激しく石を叩く。


やがて。


静かになった。


---


暗闇。


セリナが。


小さな光を灯す。


そこは。


細長い部屋だった。


左右の壁。


無数の棚。


剣。


鎧。


指輪。


手紙。


壊れた杖。


名前のない墓標。


そして。


何十冊もの本。


ロックが。


呆然と見回す。


「ここは……」


アルヴェインが答える。


「黒剣の」


「継承者たちが残したものだ」


ガルドの視線が。


一番奥へ向く。


一本の戦槌。


古びている。


だが。


見覚えがある。


「バルガン……」


グラムの戦槌。


その隣。


小さな金属板。


『継ぐ者へ』


ロックが。


息を呑む。


「じゃあ」


「ここに」


リゼが。


棚を見る。


「最初の継承者の記録も」


「あるかもしれない」


アルヴェインが。


ゆっくり頷く。


「ある」


「私が」


「ここへ納めた」


全員の表情が変わる。


「どれ?」


リゼが問う。


アルヴェインは。


一番奥の棚へ向かう。


三段目。


左端。


そこへ。


手を伸ばす。


だが。


手が止まった。


何もない。


空白。


「……ない」


長老の声が。


震えた。


「ここに」


「確かに置いた」


「何を?」


セリナが問う。


アルヴェインは。


答えようとする。


だが。


言葉が出ない。


「私は」


「何を……」


その顔から。


血の気が引く。


リゼが。


胸の記録印を押さえた。


青い光が。


激しく点滅している。


「長老」


「思い出そうとしないで」


「喰われてる」


「今も?」


ロックが。


扉を見る。


黒い文字は。


入ってきていない。


リゼは。


首を横へ振る。


「違う」


「外からじゃない」


全員が。


彼女を見る。


リゼは。


空白の棚を指した。


「ここに」


「いる」


沈黙。


その時。


空だった棚の奥から。


声がした。


「やっと」


「記録を読める者が来た」


ガルドが。


剣へ手を伸ばす。


セリナが。


杖を構える。


ロックも。


前へ出る。


棚の暗闇から。


一本の手が。


ゆっくり現れた。


人間の手。


若い男の手。


その指には。


黒い指輪。


そして。


手首には。


見覚えのある紋様。


黒剣の。


契約紋。


アルヴェインが。


呆然と呟く。


「そんな……」


暗闇の中。


男が。


静かに笑った。


「久しぶりだな」


「アルヴェイン」


長老の瞳が。


大きく見開かれた。


「お前は……」


男が。


一歩。


光の中へ出る。


黒い髪。


左頬の細い傷。


リゼが。


記憶を分けた時に見た。


あの顔。


最初の継承者。


男は。


ガルドの背中の黒剣を見る。


そして。


懐かしそうに言った。


「まだ」


「ノアはそこにいるのか」

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