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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第6章 竜と黒剣の契約

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第150話 アルヴェインの約束

グラムの身体は。


完全に石へ変わっていた。


吹き荒れる雪の中。


黒い石像だけが。


戦場に残されている。


レオンは。


戦槌を握ったまま。


動けなかった。


「グラム」


返事はない。


いつもなら。


遅い。


馬鹿人間。


早くしろ。


そんな声が返ってくる。


だが。


石像の口元には。


不敵な笑みだけが残っていた。


「レオン!」


アルヴェインの声が飛ぶ。


邪竜が。


傷ついた胸を持ち上げている。


砕けた鱗の隙間から。


黒い光が漏れていた。


まだ。


終わっていない。


レオンは。


戦槌を腰へ固定する。


黒剣を構え直した。


「分かっています」


声は。


自分でも驚くほど。


冷たかった。


邪竜の前脚が。


大地を踏み砕く。


雪と岩が跳ね上がる。


レオンは走った。


黒剣を低く構え。


砕けた胸の傷を狙う。


だが。


邪竜の尾が。


横から迫る。


避けきれない。


その瞬間。


緑の蔦が。


レオンの腰へ巻きついた。


「右へ跳べ!」


アルヴェインが。


片腕で弓を支えている。


レオンは。


蔦に引かれるまま跳んだ。


尾が。


目の前を通り過ぎる。


風圧だけで。


鎧が裂けた。


着地。


そのまま。


邪竜の脚を駆け上がる。


鱗の隙間へ。


黒剣を突き立てる。


『小賢しい』


邪竜が身を振る。


レオンの身体が。


宙へ放り出される。


アルヴェインの矢が。


崖壁へ刺さる。


伸びた蔦が。


再びレオンを受け止めた。


「助かりました」


「礼を言う暇があるなら斬れ!」


「はい」


「返事だけは早いな!」


レオンは。


蔦を足場に。


再び跳ぶ。


黒剣が。


邪竜の首筋を斬り裂く。


黒い血が噴き出した。


だが。


傷口から。


無数の細い根が伸びる。


レオンの腕へ。


黒剣へ。


絡みつく。


『戻れ』


邪竜の声。


『我が牙よ』


黒剣が。


強く引かれる。


レオンの身体ごと。


邪竜へ引き寄せられていく。


「レオン!」


アルヴェインが。


最後の矢を放った。


矢は。


邪竜ではなく。


黒剣へ絡む根を射抜く。


緑の光。


根が焼け落ちる。


拘束が解けた。


レオンは地面へ落ちる。


その横。


アルヴェインも。


膝をついていた。


弓の弦が切れている。


矢もない。


左腕は失われ。


右肩も。


すでに血に染まっていた。


レオンが駆け寄る。


「下がってください」


「断る」


「もう戦えません」


アルヴェインは。


残った右手で。


折れた矢を拾った。


「まだ刺せる」


「無茶です」


「お前に言われたくない」


邪竜が。


ゆっくりと首を上げる。


傷ついている。


それでも。


圧倒的だった。


胸の裂傷が。


少しずつ塞がっていく。


グラムが作った好機が。


消えようとしている。


アルヴェインは。


石像となったグラムを見る。


「時間を作る」


「何を」


「お前は胸へ行け」


「アルヴェイン」


「聞け」


声が。


鋭くなる。


「グラムが命を使って開いた傷だ」


「閉じさせるな」


レオンは。


何も言えない。


アルヴェインは。


折れた矢を握る。


「私が目を引く」


「その間に」


「黒剣を胸へ突き立てろ」


「あなたが死にます」


「かもしれない」


「なら」


「やめてください」


アルヴェインが。


レオンを見る。


怒りも。


恐れもない。


ただ。


静かな決意だけがあった。


「レオン」


「私たちは」


「お前に生きろと言い続けた」


「お前も」


「同じことを言う」


「誰も死なせたくない」


「当然です」


「だが」


アルヴェインは。


一歩近づく。


「死なないことだけが」


「仲間を守ることではない」


レオンの瞳が揺れる。


「グラムは」


「自分で選んだ」


「私も」


「自分で選ぶ」


「その選択を」


「奪うな」


それは。


偽レオンへ。


自分が言った言葉。


本人に選ばせる。


意思を奪わない。


今。


同じ言葉が。


自分へ返ってきている。


レオンは。


拳を握る。


「……嫌です」


「知っている」


「納得できません」


「それも知っている」


「それでも」


アルヴェインが。


僅かに笑った。


「行け」


---


アルヴェインは。


邪竜へ向かって走った。


片腕。


折れた矢。


武器と呼ぶには。


あまりにも頼りない。


それでも。


精霊たちが。


彼の周囲へ集まっていく。


風。


土。


木。


雪の下に眠る。


小さな命。


「森の外で」


アルヴェインが呟く。


「ここまで借りることになるとはな」


緑の光が。


右腕へ集まる。


折れた矢が。


一本の光槍へ変わる。


邪竜が。


アルヴェインを見る。


『片腕で』


『何ができる』


「十分だ」


アルヴェインは。


光槍を構える。


「お前の目を」


「一つ潰せる」


地を蹴る。


精霊の風が。


身体を押し上げる。


アルヴェインは。


一直線に。


邪竜の右目へ向かった。


黒い爪が振るわれる。


身をひねる。


脇腹が裂ける。


血が舞う。


それでも。


止まらない。


光槍を。


邪竜の赤い瞳へ突き立てた。


『アァァァァァッ!』


咆哮。


邪竜が暴れる。


アルヴェインの身体が。


宙へ放り出される。


追うように。


黒い翼が振り下ろされる。


避けられない。


その時。


レオンが。


間へ入った。


黒剣で受ける。


衝撃。


二人まとめて。


地面へ叩きつけられた。


レオンは。


アルヴェインを庇い。


背中で衝撃を受ける。


骨が軋む。


血を吐く。


それでも。


腕の中の仲間を離さない。


「なぜ」


アルヴェインが。


苦しげに問う。


「行けと言った」


「聞きました」


「なら」


「ですが」


レオンは。


ゆっくり立ち上がる。


「一人で残れとは」


「言われていません」


アルヴェインが。


呆れたように。


目を閉じた。


「本当に」


「面倒な人間だ」


「よく言われます」


邪竜の両目は。


すでに傷ついている。


視界を失い。


咆哮しながら。


無差別に爪を振るっている。


胸の傷。


まだ閉じていない。


好機。


だが。


アルヴェインは。


もう立てない。


レオンは。


彼を竜骨の陰へ運ぶ。


「ここにいてください」


「今度こそ」


「行くのか」


「はい」


アルヴェインは。


レオンの外套を掴んだ。


「待て」


レオンが振り返る。


「約束しろ」


「何をです」


「生きて戻れ」


レオンは。


沈黙した。


その答えを。


アルヴェインは予想していた。


「言えないか」


「約束は」


レオンが言う。


「守れるものだけにしたい」


「なら」


アルヴェインは。


手を離す。


「別の約束にする」


レオンを見る。


長い旅。


森。


山。


消えた村。


白い街。


グラムの鍛冶場。


全てを。


思い出すように。


「お前が戻らなくても」


「私は」


「お前を覚えている」


レオンの表情が止まる。


「歴史が消しても」


「記録が焼かれても」


「誰も」


「レオンという名を知らなくなっても」


アルヴェインは。


自分の胸へ手を置いた。


「私が覚えている」


「だから」


「お前も忘れるな」


「何をです」


「一人ではなかったことを」


風が。


静かに吹いた。


雪が。


二人の間を流れていく。


レオンは。


深く頭を下げた。


「約束します」


それだけは。


守れる。


黒剣に飲まれても。


名を失っても。


最後の瞬間まで。


仲間がいたことを。


忘れない。


レオンは。


立ち上がる。


黒剣を構える。


刃の中。


ノアが。


何も言わず。


寄り添っている。


幼い黒竜も。


震えながら。


灰色の光を放っていた。


背後。


石像となったグラム。


竜骨の陰。


傷ついたアルヴェイン。


二人の存在を。


胸へ刻む。


「行ってきます」


アルヴェインが。


静かに答えた。


「行ってこい」


レオンは。


邪竜へ向かって走った。


黒剣から。


五つの光が立ち上がる。


邪竜の胸。


グラムが開いた傷。


アルヴェインが作った。


僅かな隙。


そこへ。


レオンは。


迷わず。


飛び込んでいった。


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