第146話 四人の剣
「四人でしか」
レオンは黒い柱を見上げた。
「壊せない」
偽レオンが頷く。
「四つの核は」
「それぞれ別の場所にある」
柱の表面。
無数の名の奥で。
四つの光が脈打っていた。
白。
緑。
赤。
青。
レオンの胸元に刻まれた契約紋と。
同じ色。
ノアが息を呑む。
『レオン』
『これは偶然じゃない』
「ええ」
黒剣の輪も。
四つの光へ呼応している。
偽レオンは。
柱の中央を指した。
「白は」
「剣を持つ者」
次に。
右側。
「緑は」
「境界を射抜く者」
左。
「赤は」
「形を壊す者」
最後。
柱の最深部。
「青は」
「記録へ触れる者」
レオンは。
その意味を理解する。
自分。
アルヴェイン。
グラム。
ノア。
最初から。
役割は決められていた。
「誰が」
レオンが問う。
「この仕組みを作ったのです」
偽レオンは。
赤い瞳を見る。
「邪竜じゃない」
「もっと前だ」
「邪竜を封じようとした者たち」
「でも」
顔を歪める。
「名前がない」
柱の中で。
刻まれた文字が一斉に揺れた。
『名など不要』
邪竜の声。
『役目だけ果たせばよい』
レオンの目が鋭くなる。
「違います」
「名があるから」
「役目を選べる」
偽レオンは。
僅かに笑った。
「本当に」
「名前が好きだな」
「忘れたくないので」
「それだけです」
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地上。
アルヴェインは。
途中まで刻まれた自分の名を見つめていた。
石碑の亀裂から。
緑の光が漏れている。
その光が。
遠く地下へ続いていた。
「呼んでいる……」
残った右腕へ。
契約紋が浮かぶ。
同時に。
レオンの声が。
胸の奥へ届いた。
『アルヴェイン』
直接ではない。
記憶。
意志。
契約を通じた。
微かな呼び声。
アルヴェインは。
周囲の兵士へ振り返る。
「避難を続けろ」
「だが長老!」
「地下へ行く」
「一人でですか」
「違う」
彼は弓を拾う。
「仲間がいる」
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グラムも。
赤い光に気付いていた。
半ば石化した脚。
動くたび。
亀裂が走る。
それでも。
戦槌を担ぐ。
「呼び出しか」
地面の裂け目から。
赤い光が伸びる。
契約紋が熱を持つ。
レオン。
アルヴェイン。
ノア。
三人の気配が。
遠くにある。
「ったく」
グラムは笑う。
「俺がいねぇと」
「何も壊せねぇのか」
壁を殴る。
隠されていた通路が崩れ。
地下への階段が現れた。
「待ってろ」
「今行く」
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最深部。
柱が。
大きく脈打つ。
赤い瞳の奥で。
黒い竜の輪郭が。
少しずつ形を持ち始めている。
翼。
爪。
牙。
『時間はない』
ノアが言う。
『四つの核を』
『同時に止めるしかない』
「止める?」
レオンが問う。
『壊したら駄目だ』
『柱に閉じ込められた記録まで消える』
偽レオンも頷く。
「核だけを」
「柱から切り離す」
「そうすれば」
「邪竜へ流れる力は止まる」
「記録は残る」
レオンは。
白い核を見る。
柱の最上部。
刃の形をしている。
「私が白」
『そうだ』
「アルヴェインが緑」
『境界を射抜けるのは彼だけだ』
「グラムが赤」
『核の外殻を砕く』
レオンは。
最後の青い光へ目を向けた。
「そして」
「ノア」
黒剣の中で。
沈黙。
『僕は』
声が。
僅かに揺れる。
『柱の記録へ入る』
「戻れますか」
『分からない』
「なら」
『また断る?』
ノアが苦笑する。
『今度は』
『僕が選ぶ番だ』
レオンは黙る。
ノアは続けた。
『君は』
『選ばせてくれた』
『僕に名前をくれた』
『剣の中へ戻ることも』
『契約することも』
『僕が決めた』
青い輪が。
淡く光る。
『だから』
『これも僕が決める』
レオンは。
目を閉じた。
止めたい。
だが。
止めることは。
ノアの意志を奪うことになる。
「……分かりました」
『素直だね』
「努力しました」
『本当に?』
「かなり」
ノアが。
小さく笑った。
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足音。
一つ。
軽い。
速い。
暗い通路から。
アルヴェインが現れる。
「待たせた」
肩で息をしている。
血に濡れ。
片腕を失い。
それでも。
弓を持っている。
その後ろ。
重い足音。
石床が揺れる。
グラムが。
戦槌を担いで現れた。
「四人でしか壊せねぇ?」
「面倒な柱だな」
レオンは。
二人を見る。
「説明します」
アルヴェインが。
柱の四つの光を見る。
「必要ない」
「契約紋が教えている」
グラムも。
赤い核を見上げた。
「俺はあれを砕けばいいんだろ」
「外殻だけです」
「分かってる」
「中まで壊すなよ」
アルヴェインが言う。
グラムが睨む。
「俺を誰だと思ってる」
「力加減のできないドワーフ」
「エルフ!」
レオンは。
ほんの僅かに笑う。
「変わりませんね」
「お前もな」
アルヴェインは。
レオンの傷を見る。
「一人で無茶をした」
「一人ではありません」
黒剣を掲げる。
「ノアがいました」
『一応ね』
「そして」
レオンは。
灰色の光へ目を向ける。
「もう一人」
偽レオンは。
少し離れた場所に立っている。
グラムが眉をひそめる。
「そいつも手伝うのか」
「俺たちは四人だろ」
偽レオンが。
自嘲するように笑う。
「僕は」
「契約者じゃない」
「だが」
アルヴェインが言う。
「柱の構造を知っている」
「役割はある」
偽レオンの目が。
僅かに揺れる。
「役割」
「名がなくても」
アルヴェインは続ける。
「選ぶことはできる」
偽レオンは。
レオンを見る。
「君の仲間は」
「君より話が早い」
「よく言われます」
「言ってない」
グラムが鼻を鳴らす。
「早く始めるぞ」
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四人は。
柱を囲んだ。
レオン。
白。
アルヴェイン。
緑。
グラム。
赤。
ノア。
青。
偽レオンは。
中央。
四つの核を繋ぐ。
黒い線の前へ立つ。
「僕が」
「同調の瞬間を知らせる」
「一度しかない」
「外せば?」
グラムが問う。
「邪竜が完全に目覚める」
「分かりやすいな」
アルヴェインは。
弓へ一本の矢を番える。
片腕。
弦を引けない。
歯で弦を噛み。
右手で弓を押し出す。
緑の光が。
矢へ集まる。
グラムは。
戦槌の柄を両手で握る。
石化した脚を。
床へ固定する。
赤い火花。
戦槌へ。
レオンは。
黒剣を両手で構える。
白い光。
刃の亀裂へ走る。
ノアの青い炎が。
刀身を包む。
『準備はいい』
「はい」
「いつでも」
「早くしろ」
三人の声。
一つの声。
偽レオンは。
黒い柱へ手を当てた。
目を閉じる。
柱の中。
無数の名。
無数の記憶。
無数の悲鳴。
そのすべてが。
一瞬。
彼の中へ流れ込む。
顔が歪む。
膝が震える。
それでも。
手を離さない。
「まだ」
邪竜の瞳が。
完全に開きかける。
「まだだ」
黒い翼が。
裂け目の向こうで広がる。
地上から。
人々の悲鳴。
地下から。
石の砕ける音。
四つの核が。
同時に。
最も強く輝く。
偽レオンが。
目を開いた。
「今だ!」
レオンが踏み込む。
黒剣が。
白い核へ。
アルヴェインの矢が。
緑の核へ。
グラムの戦槌が。
赤い核へ。
ノアの意識が。
青い核へ。
四つの力が。
同時に届く。
轟音。
柱全体へ。
四本の亀裂が走った。
核と柱を繋ぐ。
黒い根が。
浮かび上がる。
「切れ!」
偽レオンが叫ぶ。
レオンは。
黒剣を振り抜く。
白い根が断たれる。
矢が。
緑の根を射抜く。
戦槌が。
赤い根を砕く。
そして。
青い根の中。
ノアが。
無数の記録に囲まれていた。
名前。
顔。
声。
その中央。
幼い黒い竜が。
うずくまっている。
『置いていかないで』
声。
ノアは。
足を止める。
その姿は。
かつての自分に似ていた。
名もなく。
暗闇に置かれ。
誰かを待っている。
『ノア!』
レオンの声。
遠い。
青い根が。
ノアの足へ絡みつく。
幼い竜が。
顔を上げる。
赤い瞳。
涙。
『君も』
『置いていかれたの?』
ノアは。
答えられない。
その一瞬。
青い核が。
再び強く脈打った。
邪竜の声が。
地下を震わせる。
『見つけた』
『最後の器を』
青い根が。
一気に。
ノアの身体へ食い込んだ。
黒剣の四つ目の輪が。
真っ黒に染まる。
「ノア!」
レオンが叫ぶ。
他の三つの核は。
柱から切り離された。
だが。
青い核だけが。
黒剣へ繋がっている。
邪竜の赤い瞳が。
細く笑った。
『四人ではない』
『最初から』
『五人目が必要だった』
柱の奥。
幼い黒い竜が。
ノアの手を握った。




