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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第6章 竜と黒剣の契約

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第143話 三度目の誘惑

雪が。


音を奪っていた。


城壁。


旗。


処刑台。


鎖。


黒い石。


全てが。


白い吹雪の中へ沈んでいる。


レオンは。


動けなかった。


足元に。


黒剣がある。


静かに。


まるで。


最初からそこへ置かれていたように。


鞘はない。


赤黒い刀身が。


雪の上で。


呼吸するように脈打っている。


その刃には。


四つの輪が刻まれていた。


レオン。


アルヴェイン。


グラム。


ノア。


だが。


三つは。


砕けかけている。


アルヴェインの輪には。


深い亀裂。


グラムの輪は。


黒い石に覆われ。


ノアの輪は。


光を失っていた。


レオンの輪だけが。


赤く。


強く輝いている。


「剣を取るな!」


処刑台の上で。


アルヴェインが叫ぶ。


両腕を鎖で吊られ。


片膝をついている。


左肩から先。


腕がない。


切断面には。


黒い結晶が食い込んでいた。


その顔は。


青ざめ。


唇も紫色。


それでも。


瞳だけは死んでいない。


レオンを睨んでいる。


「聞こえているのか!」


「レオン!」


その隣。


グラムは。


腰から下を。


黒い石へ変えられていた。


石化は。


腹部へ達している。


厚い指も。


半分は動かない。


それでも。


笑っていた。


いつものように。


乱暴で。


不敵な笑み。


「俺たちを」


「捨てろ!」


吹雪の音よりも。


大きく。


その声は届いた。


レオンの指が。


震える。


「できません」


声が。


掠れていた。


アルヴェインが。


鎖を鳴らす。


「できる!」


「しろ!」


「嫌です」


「命令だ!」


「あなたは」


レオンが顔を上げる。


「私の上官ではありません」


こんな時なのに。


グラムが笑う。


「そこかよ」


アルヴェインの顔が歪む。


怒っている。


だが。


その奥に。


恐怖がある。


レオンが剣を取ることへの。


自分たちが死ぬことよりも。


深い恐怖。


「いいか」


アルヴェインは。


一語ずつ。


噛みしめるように言う。


「今」


「その剣を取れば」


「お前は戻れない」


レオンは。


足元の黒剣を見る。


「以前も」


「取りました」


「違う!」


アルヴェインが叫ぶ。


「今までは」


「俺たちと取った!」


「今そこにある剣は」


「お前一人へ向いている!」


黒剣の刃が。


微かに鳴った。


キィン。


まるで。


肯定するように。


---


記憶を見ているガルドたちは。


雪原の端に立っていた。


触れられない。


声も届かない。


ただ。


見届けるしかない。


セリナは。


処刑台のアルヴェインを見つめる。


現在。


老いた長老となった彼。


だが。


この記憶の中では。


まだ若い。


片腕を失い。


死の直前にいる。


「どうして」


セリナの声が震える。


「こんなことに」


ロックが。


城壁の旗を見上げる。


閉じた目の紋章。


白い街にあったものと同じ。


ただし。


ここでは。


黒い糸で縫われている。


「観測者たちに」


「捕まったのか?」


リゼは。


城門の上を見た。


兵士たち。


皆。


白い仮面を被っている。


仮面には。


閉じた目。


だが。


兵士たちの動きは。


人間らしくない。


同じ角度。


同じ呼吸。


同じ瞬き。


「捕まえたのは」


「人じゃないかもしれません」


ガルドは。


処刑台の奥。


城の最上階を見る。


吹雪の向こう。


黒い窓。


そこに。


誰かが立っている。


白と黒。


左右で色の違う瞳。


ノアと同じ。


だが。


顔は見えない。


「ノア」


ガルドが呟く。


セリナが振り返る。


「あれが?」


「違う」


ガルドは。


黒い影から目を離さない。


「あれは」


「ノアの形を借りている」


---


過去。


レオンの足元へ。


一滴。


血が落ちた。


拳を握りすぎ。


爪が掌へ食い込んでいる。


「なぜ」


レオンは。


処刑台を見る。


「なぜ」


声が。


低くなる。


「こんなことになったのです」


城壁の上。


白い仮面の兵士が。


一歩前へ出る。


顔は見えない。


声だけが響く。


「お前が」


「選ばなかったからだ」


レオンが。


兵士を見る。


「誰です」


「名はない」


「なら」


「あなたも」


「名前が必要ですか」


グラムが。


小さく笑った。


「こんな時まで」


「それ言うか」


兵士は。


僅かに首を傾げる。


「名など」


「弱点にすぎない」


その声。


レオンには。


覚えがあった。


黒剣の中。


何度も。


囁いてきた声。


喰らう影。


だが。


以前より。


滑らかで。


人の言葉に近い。


「あなたですか」


「そうだ」


兵士が答える。


「お前が」


「救えなかったものだ」


城壁の下。


雪に埋もれた。


無数の黒い石像。


人。


エルフ。


ドワーフ。


子ども。


老人。


兵士。


旅人。


全て。


途中まで石になり。


そのまま凍りついている。


「この国を」


喰らう影が言う。


「お前は守らなかった」


「私たちは」


レオンの声が震える。


「ここへ来たばかりです」


「違う」


「お前は」


「三日前に選んだ」


吹雪の中へ。


記憶の断片が浮かぶ。


燃える村。


山の向こう。


雪崩。


助けを求める人々。


同時に。


この城から届いた。


救援の鐘。


二つの場所。


どちらかしか。


間に合わない。


レオンは。


村を選んだ。


アルヴェインとグラムも。


共に向かった。


村人は救えた。


だが。


城へ着いた時。


すでに。


喰らう影が。


地下の封印を破っていた。


国中の人々を。


黒い石へ変えた。


そして。


アルヴェイン。


グラムも。


捕らえられた。


「選んだのです」


レオンが言う。


「救える方を」


喰らう影が。


静かに笑う。


「そうだ」


「英雄らしく」


「数を選んだ」


レオンの瞳が揺れる。


「違う」


「違わない」


「私は」


「助けられる者を」


「そして」


喰らう影は。


処刑台の二人を見る。


「助けられなかった者を」


「捨てた」


「違う!」


レオンの声が。


吹雪を切り裂く。


黒剣が。


強く脈打った。


赤い光。


雪が。


刃の周囲だけ溶けていく。


「怒れ」


喰らう影が囁く。


「もっと」


「怒れ」


「お前は正しく選んだ」


「それでも」


「世界はお前を責める」


「救われなかった者は」


「お前を呪う」


「ならば」


「誰のために」


「剣を取らずにいる」


レオンは。


答えられない。


アルヴェインが。


叫ぶ。


「聞くな!」


喰らう影は。


無視する。


「仲間のためか」


「その仲間が」


「死を望んでいる」


グラムが。


処刑台から怒鳴る。


「望んでねぇ!」


一瞬。


全員がグラムを見る。


グラムは。


黒い石に覆われながら。


歯を見せる。


「死にてぇ奴が」


「こんなに必死に生きるか!」


レオンの瞳に。


微かな光が戻る。


だが。


グラムは続けた。


「それでも」


「剣は取るな!」


「どちらですか」


レオンが問う。


「生きたい」


「だが」


「お前を食わせてまで」


「生きたくねぇ!」


グラムの声が。


震える。


「分かれよ」


「馬鹿野郎」


アルヴェインも。


静かに言う。


「俺たちは」


「お前に守られるためだけに」


「一緒にいたわけではない」


「守るためにも」


「一緒にいた」


レオンの顔が歪む。


「なら」


「今」


「私を守るために」


「死ぬのですか」


アルヴェインは。


答えた。


「ああ」


迷いなく。


「それが必要なら」


「死ぬ」


レオンは。


息を止める。


アルヴェインは。


血の気のない顔で。


それでも。


真っ直ぐ見つめる。


「ただし」


「お前も勝手に死ぬな」


「矛盾しています」


「知るか」


「生きろ」


「俺たちを置いて」


「生きろ」


レオンの瞳から。


涙が落ちた。


---


現在。


セリナも。


泣いていた。


声を殺し。


両手を握りしめる。


「ひどい」


「こんなの」


「選べるわけない」


ロックは。


唇を噛む。


「でも」


「選ばなきゃならない」


リゼが。


首を横へ振る。


「それが」


「罠です」


二人が彼女を見る。


リゼは。


足元の黒剣を指す。


「どちらかを選ばせる」


「仲間か」


「自分か」


「生きるか」


「守るか」


「二つしかないと思わせる」


ガルドは。


黙って記憶を見る。


「レオンは」


セリナが問う。


「他の道を探せる?」


ガルドは。


すぐには答えなかった。


過去のレオン。


剣。


処刑台。


城壁。


吹雪。


何度見ても。


逃げ道はない。


だが。


それでも。


「探す」


ガルドが言う。


「見つからなくても」


「探す」


---


過去。


レオンは。


黒剣の前へしゃがんだ。


手を伸ばす。


アルヴェインが。


鎖を引き千切ろうともがく。


「レオン!」


「触るな!」


グラムも吠える。


「やめろ!」


指先。


あと少し。


黒剣の柄へ届く。


ノアの声は。


しない。


四つ目の輪は。


暗いまま。


「ノア」


レオンが呼ぶ。


返事はない。


「聞こえていますか」


沈黙。


レオンの指が。


柄へ触れる。


その瞬間。


冷たい感触が。


腕から。


胸へ。


頭へ流れ込む。


無数の声。


救えなかった。


遅かった。


お前のせいだ。


英雄ではない。


選んだ。


捨てた。


殺した。


世界を救え。


仲間を救え。


自分を救え。


全部。


一つに混ざる。


『取れ』


喰らう影が囁く。


『剣を取れば』


『二人は助かる』


レオンの手が。


柄を握る。


『国も』


『石になった者も』


『全て戻る』


「代わりに」


レオンが問う。


「何を失います」


喰らう影は。


笑った。


『お前だけだ』


吹雪の中。


時が止まる。


アルヴェインも。


グラムも。


兵士も。


雪片さえ。


宙で止まった。


レオンと。


喰らう影だけの世界。


「私だけ」


『そうだ』


「二人は」


『生きる』


「人々も」


『戻る』


「ノアは」


一瞬。


喰らう影が黙る。


レオンの瞳が。


鋭くなる。


「ノアは」


「どうなります」


『剣へ戻る』


「答えになっていません」


『お前が器となれば』


『不要になる』


レオンの手に。


力が入る。


「消すのですか」


『あれは』


『お前の不要な部分だ』


レオンの声が。


低くなる。


「違います」


『同じだ』


「違う」


『お前が名を与えただけ』


「だから」


レオンは。


柄を握ったまま。


剣を持ち上げない。


「彼はノアです」


喰らう影の気配が。


僅かに揺れる。


「ノアを消し」


「私を器にし」


「二人を助ける」


『そうだ』


「それを」


「私一人の犠牲と呼ぶのですか」


『同じことだ』


「違います」


レオンは。


足元を見る。


黒剣。


その刃に。


自分の顔が映る。


だが。


片側。


ほんの僅か。


ノアの顔も重なっていた。


眠っている。


鎖に繋がれ。


黒い闇へ沈んでいる。


「二人です」


レオンが言う。


「私と」


「ノア」


喰らう影が。


苛立つ。


『ならば』


『二人で滅びろ』


時が戻る。


雪が落ちる。


アルヴェインの叫び。


グラムの怒声。


レオンは。


黒剣の柄を握ったまま。


立ち上がった。


「レオン!」


アルヴェインの顔に。


絶望が浮かぶ。


「離せ!」


レオンは。


剣を持ち上げる。


赤い光が。


城全体を照らす。


黒い石像が。


一斉に震える。


喰らう影が。


歓喜する。


『そうだ』


『選べ』


『仲間を』


『世界を』


『お前自身より』


『上に置け』


黒い炎が。


レオンの腕を這い上がる。


三つの輪が。


一つずつ。


砕けていく。


アルヴェイン。


グラム。


ノア。


誓約が。


切れる。


レオンの胸へ。


黒い剣の痣が浮かぶ。


今度は。


皮膚だけではない。


骨。


心臓。


魂。


全てへ。


刃が刺さる。


レオンの左目が。


赤く染まり始める。


「やめろ!」


アルヴェインが叫ぶ。


「俺たちを見ろ!」


「レオン!」


レオンは。


処刑台を見る。


二人を。


長く。


見つめる。


そして。


静かに言った。


「分かりました」


アルヴェインの目が見開かれる。


「剣を」


レオンは続ける。


「取りません」


喰らう影の歓喜が止まる。


グラムが。


息を呑む。


だが。


黒剣は。


すでに。


レオンの手にある。


レオンは。


刃を見つめる。


「これは」


「黒剣ではありません」


喰らう影が唸る。


『何を』


「四人の剣です」


レオンは。


自分の掌を。


刃へ滑らせる。


血が流れる。


赤い線が。


黒い刀身を伝う。


「ならば」


「一人分だけで」


「契約を上書きできるはずがない」


アルヴェインが。


何かに気づく。


「レオン」


レオンは。


処刑台へ。


剣先を向けた。


「アルヴェイン」


名を呼ぶ。


砕けかけた輪が。


一瞬。


白く光る。


「返事をしてください」


アルヴェインは。


歯を食いしばる。


「……ここにいる」


次に。


グラム。


「グラム」


「おう!」


黒い石の中から。


力強い声。


二つ目の輪が光る。


最後。


レオンは。


黒剣を見る。


「ノア」


沈黙。


「ノア」


もう一度。


呼ぶ。


黒剣の奥。


暗闇。


鎖に繋がれた影が。


僅かに動く。


『呼ぶな』


喰らう影が言う。


『あれは眠っている』


レオンは無視する。


「ノア」


三度目。


黒剣が。


震えた。


弱い。


消えかけた声。


『……うるさい』


レオンの口元に。


僅かな笑みが浮かぶ。


「聞こえているなら」


「返事をしてください」


『今した』


「不十分です」


『細かい』


「ノア」


刃の中から。


溜息。


そして。


『ここにいる』


四つ目の輪が。


青く燃え上がる。


砕けたはずの誓約が。


再び繋がる。


喰らう影が。


絶叫した。


『なぜだ!』


『一人で取った!』


レオンは。


黒剣を両手で構える。


「いいえ」


「私は」


「三人の名を呼びました」


「だから」


「一人ではありません」


グラムが。


処刑台の上で。


大声で笑った。


「無茶苦茶だ!」


アルヴェインも。


呆れたように。


それでも。


涙を浮かべて笑う。


「理屈になっていない」


「でも」


レオンが言う。


「届きました」


ノアの声が。


剣から響く。


『本当に』


『君は変なところで頑固だ』


「褒め言葉ですか」


『違う』


「そうですか」


『でも』


少し間。


『嫌いじゃない』


黒剣の色が変わる。


赤。


黒。


黄金。


青。


四つの光が。


刀身の上で絡み合う。


レオンの左目から。


赤い色が消えていく。


代わりに。


瞳の奥へ。


四つの輪が浮かぶ。


喰らう影が。


白い仮面の兵士を通じ。


怒鳴る。


「選択を拒むな!」


「世界は」


「必ず二つに分かれる!」


「救う者!」


「捨てる者!」


レオンは。


剣を上段へ構える。


「では」


「分かれたまま」


「両方へ手を伸ばします」


「届かぬ!」


「届くまで」


「伸ばします」


「腕が千切れる!」


「その時は」


「二人が持ちます」


アルヴェインが。


残った右腕で。


鎖を掴む。


「勝手に決めるな」


だが。


その声は。


笑っている。


グラムも。


黒い石の拳を。


僅かに上げる。


「一本じゃ足りねぇなら」


「俺のも使え」


ノアが。


剣の中で言う。


『僕には腕がない』


「刃があります」


『それでいいなら』


「十分です」


喰らう影が。


城中の兵士を動かす。


無数の白い仮面。


剣。


槍。


弓。


全てが。


レオンへ向く。


「ならば」


「証明しろ」


「救えるものなら」


「救ってみろ!」


矢が。


空を埋めた。


レオンは。


黒剣を振り下ろす。


斬撃。


ではない。


四つの光が。


雪原を走る。


アルヴェインの精霊光。


グラムの鍛冶火。


ノアの青い炎。


レオンの白い剣光。


それらが。


一本の巨大な輪となり。


城を包む。


飛来した矢が。


輪へ触れる。


砕けない。


燃えない。


ただ。


力を失い。


雪へ落ちる。


白い仮面の兵士たちが。


膝をつく。


仮面に。


亀裂。


中から。


人の顔が現れる。


泣いている。


怯えている。


まだ。


生きている。


喰らう影に。


操られていただけ。


「斬らないのか」


喰らう影が問う。


「敵だぞ」


「違います」


レオンは。


黒剣を横へ振るう。


光の輪が。


処刑台へ届く。


アルヴェインの鎖が。


切れる。


左肩の黒い結晶が。


剥がれ落ちる。


グラムを覆う黒い石が。


亀裂を走らせる。


「彼らは」


「捕らわれている」


「なら」


喰らう影は。


城壁の上で。


両腕を広げる。


「全てを」


「救え!」


城の地下から。


黒い結晶の柱が。


無数に突き出した。


大地が割れる。


石像となった人々が。


一斉に。


喰らう影の兵へ変わる。


子ども。


老人。


かつての騎士。


レオンが救った村人まで。


全員が。


黒い目で。


レオンへ向かう。


「斬れぬ者を」


「どこまで守れる!」


レオンの表情が。


変わる。


迷いはある。


恐れも。


怒りも。


全部。


ある。


だが。


もう。


捨てない。


「アルヴェイン!」


処刑台から落ちながら。


アルヴェインが。


残った右手で弓を拾う。


「何をする!」


「結晶の接続を!」


「見れば分かる!」


「無茶を言うな!」


言いながら。


弓を引く。


片腕。


通常なら。


射てない。


だが。


歯で弦を噛み。


右手で弓を押し出す。


一本の矢。


空へ。


精霊光が。


上空で弾ける。


雪原全体に。


細い黒い糸が浮かび上がる。


全ての石像から。


城の地下へ繋がっている。


「見えたぞ!」


グラムが。


石化した脚を引きずり。


処刑台から飛び降りる。


着地。


黒い石が砕ける。


両脚は。


まだ半分しか動かない。


それでも。


倒れない。


「中心は地下だ!」


グラムが叫ぶ。


「城を支えてる柱!」


レオンは。


城壁の奥を見る。


黒い糸。


無数。


一本の太い柱へ集まっている。


「壊せば」


「全員戻るのですか」


グラムが。


歯を食いしばる。


「分からん!」


「ですが」


「やるしかない」


アルヴェインが言う。


ノアの声が。


剣から響く。


『ただし』


『柱を壊せば』


『城も崩れる』


城内。


まだ多くの人がいる。


救出。


破壊。


同時に。


喰らう影が笑う。


「また」


「選べ」


「柱を壊し」


「城内の者を殺すか」


「柱を残し」


「石像の者を捨てるか」


レオンは。


黒剣を握る。


そして。


アルヴェイン。


グラムを見る。


「二人は」


「城内を」


アルヴェインが眉をひそめる。


「お前は」


「柱へ行きます」


「一人で?」


レオンは。


黒剣を掲げる。


四つの輪が光る。


「四人です」


ノアが。


小さく笑う。


『それ』


『便利に使いすぎじゃない?』


「事実です」


グラムが。


レオンの肩を。


強く叩く。


「戻れよ」


「はい」


「絶対だ」


「努力します」


グラムの顔が険しくなる。


「そこは」


「言い切れ!」


レオンは。


二人を見る。


今度は。


迷わず答えた。


「戻ります」


アルヴェインが。


静かに頷く。


「なら行け」


「ここは任せろ」


三人は。


背を向ける。


別々の方向へ。


それでも。


黒剣の輪は。


一つも消えない。


喰らう影が。


怒りに満ちた声で叫ぶ。


「離れれば」


「誓約は弱まる!」


「距離では」


レオンは。


城門へ向かって走りながら答える。


「切れません」


雪原を。


黒い石像たちが塞ぐ。


レオンは。


黒剣を振るう。


斬らない。


光の刃で。


結晶だけを削ぎ落とす。


一人。


二人。


十人。


百人。


数が多い。


肩を掴まれる。


鎧を裂かれる。


頬へ。


黒い爪が走る。


血が飛ぶ。


それでも。


人の身体は斬らない。


「邪魔です!」


剣の腹で。


吹き飛ばす。


倒れた石像。


その黒い目から。


涙が流れている。


助けて。


声にならない声。


レオンは。


足を止めない。


「必ず戻ります!」


その言葉を。


誰に向けたのか。


自分でも分からない。


石像たちか。


アルヴェインとグラムか。


ノアか。


自分自身か。


城門を抜ける。


地下への階段。


黒い結晶で覆われている。


レオンは。


剣を突き立てる。


青い炎が。


結晶を溶かす。


暗闇の奥。


巨大な柱が脈打つ。


人々の記憶。


命。


恐怖。


全てを吸い上げている。


その前に。


一人の男が立っていた。


白い外套。


閉じた目の紋章。


仮面はない。


顔。


左右で色の違う瞳。


右は黒。


左は白。


ノアと同じ顔。


だが。


口元には。


喰らう影の笑み。


「待っていた」


レオンは。


足を止める。


黒剣の中で。


ノアが。


息を呑む。


『こいつは』


男が。


両腕を広げる。


「三度目の選択は」


「剣を取るかどうかではない」


黒い柱が。


激しく脈打つ。


「お前が」


「誰をレオンとして残すかだ」


男の顔が。


変わる。


レオンと同じ。


次に。


ノアと同じ。


二つの顔が。


交互に揺れる。


「本物は」


「一人でいい」


黒剣の四つ目の輪。


ノアの輪に。


亀裂が走る。


ノアが。


苦しげに呻く。


『レオン』


男は。


黒い柱へ手を置く。


「柱を壊せば」


「ノアは消える」


レオンの動きが止まる。


「柱を残せば」


「この国は滅びる」


男の左右で色の違う瞳が。


細くなる。


「今度こそ」


「選べ」


地下へ。


遠くから。


アルヴェインとグラムの声が響く。


人々を救出する声。


急げ。


こちらだ。


手を伸ばせ。


生きろ。


レオンは。


黒剣を握る。


四つ目の輪が。


さらに割れる。


ノアの声は。


弱い。


それでも。


はっきりと言った。


『柱を壊せ』


レオンは。


目を閉じた。


「嫌です」


『レオン』


「あなたを消しません」


『国が滅ぶ』


「それも嫌です」


『また両方か』


「はい」


男が笑う。


「できるものなら」


レオンは。


目を開ける。


「できます」


『方法は』


ノアが問う。


レオンは。


黒い柱ではなく。


その前に立つ。


もう一人の自分を見る。


「まだありません」


男の笑みが深くなる。


だが。


レオンは。


一歩。


前へ出た。


「だから」


「まず」


黒剣を。


逆手に持ち替える。


「あなたから」


「退いていただきます」


地下を揺るがすほどの殺気が。


レオンの身体から放たれた。


怒り。


恐怖。


焦り。


守りたいという願い。


全てを。


捨てずに。


剣へ込める。


男は。


嬉しそうに笑った。


「ようやく」


「殺す気になったか」


レオンは。


静かに答える。


「いいえ」


「救うために」


「本気になりました」


次の瞬間。


二人のレオンが。


同時に地を蹴った。


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