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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第6章 竜と黒剣の契約

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第123話 譲れぬ信念

倒れた牙猪を挟み、レオンとアルヴェインは互いに視線を外さなかった。


森には風だけが流れている。


商人は困ったように二人を見比べていた。


「そ、その……。」


口を開こうとするが、二人とも聞いていない。


先に沈黙を破ったのはアルヴェインだった。


「人間。」


「お前は森の掟を知らない。」


その声は冷静だった。


怒鳴っているわけではない。


だが、拒絶は隠そうともしていなかった。


レオンは静かに頷く。


「その通りです。」


「私は森の民ではありません。」


「だからこそ教えてください。」


アルヴェインは僅かに眉を動かした。


予想外の返答だった。


「……教えろ、だと?」


「ええ。」


レオンは倒れた牙猪へ視線を向ける。


「私には、人を守る責務があります。」


「あなたには森を守る責務がある。」


「なら、お互いを知るべきです。」


アルヴェインは黙ったままレオンを見つめる。


人間はいつも言い訳をする。


自分たちの都合を正当化する。


そう思っていた。


だが、この男は違う。


言い返さない。


まず聞こうとしている。


それが逆に気に入らなかった。


「知ったところで。」


「人間は森へ入り続ける。」


「木を切り。」


「獣を狩り。」


「土地を奪う。」


レオンは否定しなかった。


「……そういう者もいます。」


「だが、全員ではありません。」


「私は違います。」


アルヴェインの目が細くなる。


「証明できるのか。」


「できます。」


レオンは即答した。


「私は命令でしか剣を抜きません。」


「そして。」


「守るため以外には剣を振るいません。」


ロックが思わず苦笑する。


「ダンナと似てるな。」


セリナも静かに頷いた。


「本当に。」


ガルドは何も言わなかった。


しかし、その視線はレオンから離れない。


***


その時だった。


森の奥から鳥たちが一斉に飛び立つ。


バサバサバサッ――


アルヴェインが素早く振り返る。


「……!」


レオンも同時に剣へ手を掛けた。


地響き。


さっきより重い。


木々が大きく揺れる。


そして。


「ギャアアアアッ!」


巨大な咆哮。


今度現れたのは牙猪ではなかった。


灰色の毛並みを持つ巨大な魔狼。


肩までの高さだけで人の背丈ほど。


鋭い牙から唾液を滴らせながら姿を現す。


アルヴェインが低く呟く。


「グレイファング……。」


レオンが尋ねる。


「知っているのですか。」


「群れで狩る魔獣だ。」


その瞬間だった。


左右の茂みからさらに二頭。


後方から一頭。


計四頭。


商人の顔が青ざめる。


「そ、そんな……。」


アルヴェインが舌打ちする。


「牙猪を追っている間に……。」


縄張りへ入り込んでいた。


完全に囲まれた。


***


レオンは静かに前へ出る。


「商人をお願いします。」


アルヴェインが振り向く。


「何?」


「あなたは森に詳しい。」


「逃げ道も知っている。」


「私は時間を稼ぎます。」


アルヴェインは目を見開いた。


一人で四頭を相手にするつもりなのか。


「無茶だ!」


レオンは少しだけ笑う。


「無茶ではありません。」


「役割分担です。」


その言葉に、アルヴェインは一瞬言葉を失う。


敵同士だと思っていた相手が。


迷いなく自分を信用した。


その事実が理解できなかった。


***


グレイファングが飛び掛かる。


速い。


牙猪とは比べものにならない。


レオンは剣を抜く。


一頭目を受け流す。


だが。


二頭目が横から迫る。


「危ない!」


セリナが思わず声を上げる。


その瞬間。


ヒュンッ!


一本の矢が森を切り裂いた。


グレイファングの肩へ深々と突き刺さる。


悲鳴。


魔狼が地面へ転がる。


レオンが振り向く。


アルヴェインだった。


既に二本目の矢を番えている。


「勘違いするな。」


淡々と言う。


「森を荒らされるのが困るだけだ。」


レオンは微笑んだ。


「ありがとうございます。」


「礼は要らない!」


そう言いながらも。


アルヴェインの矢は正確だった。


三頭目。


四頭目。


一切外さない。


レオンも剣で応じる。


剣と弓。


初めてとは思えない連携だった。


ロックが思わず笑う。


「息ぴったりじゃねぇか。」


「本人たちは気付いてないけどな。」


***


戦いは長く続かなかった。


最後の一頭が森の奥へ逃げ去る。


静寂が戻る。


レオンは剣を納めた。


アルヴェインも弓を下ろす。


しばらく沈黙が続く。


やがて。


アルヴェインが口を開いた。


「……助かった。」


とても小さな声だった。


レオンは穏やかに笑う。


「お互い様です。」


アルヴェインは顔をしかめる。


素直に礼を言うつもりはない。


だが。


この人間は。


自分が知る人間とは違う。


そんな思いが胸の奥で、小さく芽生え始めていた。


そして、その様子を見つめるガルドの隣で、セリナは静かに呟く。


「長老が、あんな顔をするなんて……。」


今のアルヴェインはまだ若い。


頑なで、不器用で、人を疑うことしか知らない。


しかし、その頑なな心は、レオンという一人の騎士との出会いによって、少しずつ変わり始めようとしていた。

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