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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第6章 竜と黒剣の契約

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第122話 受け継がれた記憶

眩い光が世界を包み込む。


風の音も。


水の音も。


全てが白い光へ溶けていった。


やがて、その光がゆっくりと薄れていく。


ガルドは静かに目を開いた。


目の前には、どこまでも広がる草原。


柔らかな風が草を揺らし、遠くには深い森が広がっている。


青い空には白い雲が流れていた。


「……ここは。」


ロックが辺りを見回す。


「遺跡じゃねぇな。」


セリナも周囲を見渡す。


「景色が……変わってる。」


リゼは足元の草へ手を伸ばす。


だが。


指先は草をすり抜けた。


「あ……。」


ガルドも近くの岩へ触れようとする。


しかし同じだった。


何も触れられない。


セリナは静かに息を呑む。


「私たちは、この時代には存在していない。」


「記憶を見ているだけ……。」


親竜の言葉が脳裏をよぎる。


――これは記録ではない。


――偽ることのできぬ記憶。


彼らは、この世界の住人ではない。


ただ過去を見届ける者だった。


***


その時。


街道の向こうから馬の蹄の音が近付いてくる。


ダッ、ダッ、ダッ……


一頭の軍馬。


その背には、一人の若い騎士が乗っていた。


銀色の髪。


真っ直ぐな青い瞳。


腰には王都騎士団の制式剣。


まだ黒剣は背負っていない。


その姿を見た瞬間。


セリナが小さく呟く。


「レオン……。」


青年は街道脇で立ち往生する荷馬車を見つけ、すぐに馬を止めた。


荷車の車輪が折れ、商人が一人困り果てている。


「どうしました。」


レオンは落ち着いた声で尋ねる。


商人は慌てて頭を下げた。


「た、助けてください!」


「魔獣が森から現れて……!」


言葉が終わるより早く。


ガサッ――


森の茂みが激しく揺れる。


巨大な牙猪が飛び出してきた。


全身を覆う赤黒い剛毛。


鋭く伸びた二本の牙。


一直線に商人へ向かって突進する。


ロックが思わず叫ぶ。


「危ねぇ!」


もちろん、その声は届かない。


レオンは一歩前へ出た。


「下がってください。」


商人を庇うように立つ。


牙猪が咆哮を上げる。


大地を揺らす突進。


レオンは最後の瞬間まで動かない。


そして。


牙が届く寸前。


半歩だけ身をかわす。


鋭い一閃。


ギィン――


制式剣が美しい軌跡を描き、牙猪の首筋を正確に斬り裂いた。


巨体が地面を転がる。


二度ほど痙攣すると、そのまま動かなくなった。


ロックが感心したように口笛を吹く。


「すげぇな。」


「黒剣なんて無ぇのに。」


セリナも静かに頷く。


「技だけで倒してる。」


ガルドは何も言わない。


ただ。


レオンの剣筋を見つめていた。


どこか、自分と似ていた。


無駄のない動き。


必要最小限で敵を制する剣。


***


商人は何度も頭を下げる。


「ありがとうございます!」


「命を助けていただいて……!」


レオンは穏やかに笑った。


「怪我がなくて良かった。」


「街まで送りましょう。」


その笑顔は自然だった。


英雄というより、一人の騎士。


誰かを守ることを当然と思っている青年だった。


***


その時だった。


森の奥から低い声が響く。


「待て。」


落ち着いた声だった。


しかし、その奥には警戒心が滲んでいる。


木々の間から、一人の若いエルフが姿を現した。


長い銀髪を後ろで束ね、深緑の外套を羽織っている。


背には精巧な長弓。


腰には短剣。


年の頃は人間なら十七、八歳ほど。


まだ若い。


だが、その眼差しは鋭く、森を守る巡察者としての誇りが宿っていた。


青年は倒れた牙猪を見る。


次にレオンを見る。


最後に商人へ視線を向ける。


そして静かに口を開いた。


「その魔獣は。」


「私が三日前から追っていた。」


レオンは剣を納めたまま答える。


「そうでしたか。」


「ですが、人を襲おうとしていました。」


「放置はできません。」


若いエルフは眉をひそめる。


「森の掟では。」


「追跡中の獲物へ勝手に手を出すことは許されない。」


ロックが苦笑する。


「真面目そうだな。」


セリナも小さく笑う。


「そうね。頭の固いエルフね。」


青年はレオンを真っ直ぐ見据える。


「人間は、いつもそうだ。」


「森へ入り。」


「勝手な理屈で秩序を乱す。」


その言葉には敵意があった。


いや。


長年、人間へ抱き続けてきた不信感だった。


レオンは怒らない。


静かに青年を見る。


「それでも。」


「目の前で命が失われるなら。」


「私は剣を抜きます。」


二人の視線が交わる。


しばらく沈黙が続いた。


やがて青年は小さく息を吐く。


「……名は。」


「レオン。」


「王都騎士団所属です。」


青年も静かに名乗る。


「私はアルヴェイン。」


「深森の里、巡察隊所属。」


その名を聞いた瞬間。


ガルドたちは息を呑んだ。


間違いない。


数百年後、森を治める長老となるアルヴェイン。


まだ若く。


まだ人間を信じていなかった頃の姿だった。


そして。


この出会いこそが。


数百年の時を越えて語り継がれる、二人の友情の始まりだった。

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