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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第6章 竜と黒剣の契約

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第121話 記憶の祭壇

巨大な空洞は静寂に包まれていた。


中央の湖は鏡のように澄み渡り、微かな波紋一つ立っていない。


その湖畔に立つガルドたちを、エンシェントドラゴンは静かに見つめていた。


黄金の瞳には、長い年月を生きた者だけが持つ深い静けさが宿っている。


『……来るがよい。』


低く響く声が、再び全員の意識へ直接届いた。


親竜はゆっくりと歩き出す。


子ドラゴンも嬉しそうにその後を追う。


ガルドたちは顔を見合わせると、黙ってその背中についていった。


***


湖の奥。


石柱の間を進むと、一際大きな円形の広間へ辿り着いた。


床一面に巨大な魔法陣が刻まれている。


複雑に重なり合う幾何学模様。


その中心には、黒い石で造られた祭壇が静かに佇んでいた。


祭壇の四隅には竜の像。


中央には一本の剣を捧げるための窪みがある。


セリナは思わず息を呑んだ。


「これが……。」


親竜が静かに頷く。


『記憶の祭壇。』


『契約を結びし者たちの記憶を未来へ繋ぐ場所。』


ロックが辺りを見回す。


「記憶を残すってことか?」


『そうだ。』


『言葉は風化する。』


『石は砕ける。』


『だが、魂に刻まれた記憶は失われぬ。』


その言葉に、セリナはレオンの記録を思い出していた。


なぜ彼は記録を分散させたのか。


文字だけでは伝えきれないものがあったからなのかもしれない。


***


親竜は祭壇を見つめたまま続ける。


『レオンも、この場所へ立った。』


空気が張り詰める。


ロックが思わず前へ出る。


「本当にここだったのか。」


『あの者は最後に願った。』


『真実だけは、未来へ残したいと。』


ガルドは静かに祭壇を見つめる。


レオンも、この景色を見た。


この場所で、何かを決断した。


そう思うと、不思議な感覚が胸をよぎった。


***


親竜はゆっくりとガルドへ視線を向ける。


『黒き剣を。』


『祭壇へ。』


短い言葉だった。


ガルドは少しだけ黒剣へ目を落とす。


そして、静かに頷いた。


背中から黒剣を降ろす。


重々しい音を立てながら、祭壇の中央へ置いた。


カン――


黒剣が澄んだ音を響かせる。


その瞬間。


祭壇に刻まれた紋様が淡く光り始めた。


一本、また一本と光の筋が広がっていく。


やがて巨大な魔法陣全体が青白く輝いた。


リゼが思わずガルドの腕を掴む。


「きれい……。」


セリナは目を見開く。


「この魔力……。」


今まで感じたことがない。


精霊魔法でもない。


人間の魔法でもない。


もっと根源的な何かだった。


***


ゴォォォ……


低い振動が遺跡全体へ広がる。


湖面が静かに揺れる。


石柱の彫刻が次々と淡い光を帯び始める。


ロックが周囲を見回した。


「全部光ってるぞ。」


親竜は静かに目を閉じる。


『契約は受け継がれた。』


『故に。』


『記憶は継承される。』


その言葉と同時に。


祭壇の中央から、一筋の光が天井へ向かって立ち昇った。


眩い光。


しかし不思議と目は痛くない。


温かな光だった。


***


ガルドの足元へ光が集まる。


次いで。


セリナ。


ロック。


リゼ。


四人を包み込むように光が広がっていく。


ロックが苦笑した。


「これ、何が始まるんだ?」


親竜は静かに答えた。


『見届けるのだ。』


『あの者が何を選び。』


『何を守り。』


『何を未来へ託したのかを。』


ガルドは親竜を見つめる。


「……レオン。」


親竜はゆっくり頷いた。


『そうだ。』


『これは記録ではない。』


『あの者が歩んだ真実。』


『偽ることのできぬ記憶。』


***


光がさらに強くなる。


湖が。


祭壇が。


石柱が。


遺跡そのものが光に包まれていく。


セリナは思わず目を閉じた。


リゼもロックも腕で光を遮る。


ガルドだけは目を逸らさない。


その先に。


一人の青年が立っていた。


まだ若い。


銀色の髪。


騎士団の制服。


真っ直ぐな眼差し。


黒剣は持っていない。


その青年が振り返る。


そして微かに笑った。


『さて。』


『今日も行くか。』


その声が響いた瞬間。


世界が白く染まった。


ガルドたちの意識は、三百年前の世界へと引き込まれていった。

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