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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第118話 観測者の影

翌朝。


山麓の村は薄い霧に包まれていた。


屋根から立ち上る煙が静かに空へ昇っていく。


宿の食堂では、ガルドたちが簡単な朝食を取っていた。


老主人が焼きたての黒パンを運んでくる。


「今日は山道へ入るのかい?」


ロックが頷いた。


「ああ。」


「雪が残ってる頃だよな。」


老主人は少し考え込むような顔をした。


「この季節なら峠までは大丈夫だ。」


「ただ。」


そこで言葉を切る。


「最近、山へ入った連中が妙なんだ。」


セリナが顔を上げる。


「妙?」


「夜になると火を焚かない。」


「村にも寄らない。」


「山の中を何か探して歩いているようだった。」


ロックがパンを置く。


「やっぱり普通の旅人じゃねぇな。」


老主人は静かに頷いた。


「昔、この辺りへ来る者は竜を探す冒険者くらいだった。」


「でも、あの連中は違う。」


「山そのものじゃなく……。」


「何か決まった場所を探しているように見えた。」


ガルドは黙って話を聞いていた。


***


朝食を終え、一行は村を後にする。


山道は徐々に険しくなり、木々も背を低くしていく。


セリナが辺りを見渡した。


「空気が変わった。」


エルフの感覚がそう告げていた。


森とは違う。


もっと古く、静かな気配。


ガルドは歩みを止めない。


その時だった。


カサッ――


背後で小枝を踏む音。


ロックが素早く振り返る。


「誰だ!」


返事はない。


風が吹き抜けるだけだった。


セリナも周囲を探る。


「また……。」


昨日と同じ。


誰かがいる。


だが近付いてこない。


ガルドは静かに森の奥を見る。


「……いる。」


ロックが苦笑する。


「今度は俺も分かった。」


わずかだが。


誰かの視線を感じる。


***


少し先。


岩陰の向こう。


二つの人影が身を潜めていた。


灰色の外套。


旅人のような格好。


しかし、その腰には同じ紋章の短剣が下げられている。


一人が小さく呟く。


「気付かれている。」


もう一人が頷いた。


「報告通りだ。」


「近付くな。」


「観測を優先する。」


その言葉とともに、二人は距離を保ったまま移動を始める。


決して追い越さない。


決して姿を見せない。


ただ。


ガルドたちの進路だけを確認していた。


***


昼過ぎ。


峠へ続く分岐路。


ガルドが足を止める。


前方には二本の道が伸びていた。


一つは整備された街道。


もう一つは草木に覆われた古い山道。


ロックが地図を見る。


「街道はこっちだ。」


「でも遠回りだな。」


ガルドは古い山道へ視線を向ける。


「……こっちだ。」


セリナが地図を見比べる。


「昔の街道ね。」


「今はほとんど使われていないわ。」


ロックが笑う。


「またガルドの勘か?」


ガルドは少しだけ考え。


「……道が残っている。」


説明になっているようで、なっていない。


しかし。


これまで何度も、その感覚に助けられてきた。


ロックは肩を竦めた。


「分かったよ。」


「ついて行く。」


***


岩陰からその様子を見ていた二人の旅人は、小さく顔を見合わせた。


「……街道へ行かない。」


「予想より早い。」


一人が懐から小さな水晶を取り出す。


魔力を込めると、淡い光が灯った。


「こちら第二班。」


「対象が旧山道へ入りました。」


「予定を変更します。」


少し間を置いて、水晶から低い声が返る。


『了解。』


『接触は避けろ。』


『観測を継続せよ。』


光が消える。


二人は再び距離を取って歩き始めた。


***


その頃。


さらに北。


雪をいただく山々の上空を、子ドラゴンが飛んでいた。


谷を抜け。


尾根を越え。


一度だけ後ろを振り返る。


遥か南。


まだ姿は見えない。


それでも。


確かに近付いていることを知っているようだった。


『グルル……』


小さく鳴く。


その声に応えるように。


雲の向こうから、低く重厚な咆哮が響いた。


親竜だった。


子ドラゴンは嬉しそうに翼を大きく広げる。


そして再び。


山脈のさらに奥へと飛び去っていった。


ガルドたちとの距離は、少しずつ縮まり始めていた。

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