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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第116話 北への旅立ち

夜明け前。


王都はまだ静かな眠りの中にあった。


石畳は朝露に濡れ、東の空がわずかに白み始めている。


聖教会の客室。


ガルドはいつものように一番早く目を覚まし、静かに荷物をまとめていた。


背には黒剣。


腰には最低限の装備。


旅支度は数分で終わる。


部屋の隅ではリゼが目を覚まし、小さく欠伸をした。


「……おはよう。」


ガルドは短く頷く。


「……ああ。」


その声でロックも目を覚ます。


「もう朝か……。」


大きく伸びをすると、ガルドの姿を見て苦笑した。


「やっぱり準備終わってる。」


セリナも起き上がり、小さく笑う。


「いつものことね。」


穏やかな朝だった。


***


荷物をまとめ終えた四人は、聖教会の礼拝堂へ向かった。


出発前の挨拶をするためだ。


老神官は既に待っていた。


祭壇の前に立ち、静かに微笑む。


「もう出発されるのですね。」


セリナが頷く。


「はい。」


「長い間、お世話になりました。」


老人はゆっくり首を横に振る。


「こちらこそ。」


「久しぶりに、歴史を未来へ繋ぐ方々と出会えました。」


その言葉に、セリナは少し照れたように笑う。


ロックは頭を掻く。


「俺は何もしてねぇけどな。」


「そんなことはありません。」


老人は穏やかに答える。


「真実は、一人では辿り着けません。」


「仲間がいるからこそ、先へ進めるのです。」


ロックは少しだけ照れ臭そうに鼻を掻いた。


***


礼拝堂を出ると、ライルが入口で待っていた。


既に騎士団の制服姿だ。


「お待ちしていました。」


そう言って、小さな革袋を差し出す。


「保存食です。」


「北へ向かうなら、最初の数日は補給が難しいでしょう。」


ロックが袋を受け取り、中を覗く。


「おぉ。」


「助かる。」


ライルは少し笑う。


「騎士団の携行食です。」


「味は保証できませんが。」


ロックが一つ取り出して口へ入れる。


数秒後。


「……固ぇ。」


思わず顔をしかめる。


セリナが吹き出した。


リゼも小さく笑う。


ライルは少し申し訳なさそうだった。


「昔から変わらないんです。」


ガルドが一つ手に取り、そのまま食べる。


表情は変わらない。


ロックが呆れたように笑った。


「ダンナは平気なのかよ。」


「……問題ない。」


「そりゃそうか。」


少しだけ空気が和らぐ。


***


王都北門。


朝日が城壁を黄金色に染めていた。


門兵たちは既に勤務を始めている。


ライルが通行証を見せると、門兵はすぐに敬礼した。


「お気を付けて。」


重い門がゆっくりと開いていく。


王都の外。


北へ続く街道が真っ直ぐ伸びていた。


セリナは一度だけ振り返る。


高い城壁。


聖教会の鐘楼。


騎士団本部。


短い滞在だった。


しかし、多くのものを得た。


「行きましょう。」


ガルドは静かに歩き出す。


ロックが肩を回しながら続く。


「次は竜の山か。」


「また雪山だな。」


リゼも小さく頷いた。


四人はゆっくりと王都を後にする。


***


城壁の上。


ライルはその背中を見送っていた。


隣には老神官も立っている。


ライルが小さく呟く。


「また会えますよね。」


老人は北の空を見つめた。


「ええ。」


「きっと。」


「ですが。」


少しだけ表情が引き締まる。


「次に戻られる時には。」


「世界は今とは少し違っているかもしれません。」


ライルはその意味を尋ねなかった。


何となく。


今は聞くべきではないと思ったからだ。


***


王都から半日。


街道沿いの小高い丘。


ロックが立ち止まり、大きく息を吸う。


「やっぱ王都より空気がうまいな。」


セリナも笑う。


「そうね。」


リゼは道端に咲く小さな花を見つけ、しゃがみ込む。


以前より表情が柔らかくなっていた。


ガルドは少し先で立ち止まり、北を見ている。


その視線の先。


遥か彼方。


青く霞む山脈。


あの竜の住む山だった。


その時。


『ギィィッ――』


高い鳴き声が空から響く。


全員が見上げる。


蒼い翼。


子ドラゴンだった。


以前よりも高く。


そして速く飛んでいる。


こちらを一度だけ確認すると、再び北へ向かって飛んでいく。


ロックが笑う。


「案内役は今日も仕事熱心だな。」


ガルドは短く答える。


「……ああ。」


その背中を追うように。


四人は再び歩き始める。


北の果て。


竜の眠る地へ。


新たな真実を求めて。

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