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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第110話 導く翼

王都の朝は澄み切っていた。


聖教会の鐘が静かに鳴り響き、一日の始まりを告げる。


宿の食堂では、ロックが大きく伸びをしていた。


「結局、王都に来ても落ち着く暇がねぇな。」


パンを口へ運びながらぼやく。


セリナは苦笑した。


「私たちが追っているものが大きすぎるのよ。」


レオン。


黒剣。


竜。


結社。


知れば知るほど、物語は広がっていく。


リゼは窓際に座り、静かに外を眺めていた。


ガルドは変わらず黙って朝食を口へ運んでいる。


その時だった。


「……?」


リゼの視線が空へ向く。


窓の外。


何かが横切った。


「どうした?」


ロックが振り返る。


リゼは立ち上がり、小さく呟いた。


「来た……。」


一行は宿の外へ出る。


王都の人々も空を見上げ始めていた。


「あれは……」


「竜?」


ざわめきが広がる。


青空を一頭のドラゴンが悠々と飛んでいる。


蒼い鱗。


以前よりさらに大きくなった翼。


子ドラゴンだった。


ロックが思わず笑う。


「また来たか。」


しかし今回は違った。


子ドラゴンは街の上を旋回するだけではない。


ゆっくりと高度を下げてくる。


人々が道を開ける。


悲鳴を上げる者はいない。


不思議と敵意を感じないからだ。


やがて子ドラゴンは聖教会前の広場へ降り立った。


風が舞い上がる。


翼を畳む。


真っ直ぐガルドを見る。


沈黙。


数秒。


誰も動かない。


ロックが小さく笑う。


「相変わらずダンナだけ見てるな。」


ガルドは何も言わない。


子ドラゴンも鳴かない。


ただ見つめ合う。


その時。


子ドラゴンの視線がゆっくりと下がる。


黒剣。


鞘に収まった黒剣をじっと見つめる。


以前と同じ。


警戒にも似た眼差し。


しかし。


今回は少し違っていた。


警戒だけではない。


確認している。


そんな印象だった。


セリナはその変化を見逃さなかった。


「……様子が違う。」


ロックも頷く。


「ああ。」


子ドラゴンはゆっくり一歩前へ出る。


そして。


黒剣へ鼻先を近付けた。


誰も止めない。


ガルドも動かない。


黒剣も静かだった。


数秒後。


子ドラゴンは小さく鼻を鳴らす。


『グルル……』


短い声。


敵意はない。


安心したようにも聞こえた。


そのまま一歩下がる。


空を見上げる。


そして。


北を向いた。


セリナが息を呑む。


「まさか……。」


子ドラゴンは振り返る。


ガルドを見る。


もう一度北を見る。


そして翼を広げた。


ロックが思わず笑う。


「分かりやすいな。」


「『来い』ってことか。」


セリナも同じ考えだった。


言葉はない。


だが意図は伝わる。


ガルドは静かに北の空を見つめる。


やがて。


短く一言。


「……行く。」


その言葉に子ドラゴンは満足そうに小さく鳴いた。


『グルル』


勢いよく飛び立つ。


王都の上空を一度だけ旋回し、そのまま北へ飛び去っていく。


誰もがその姿を見送った。


***


聖教会の入口。


老神官も空を見上げていた。


「やはり……。」


小さく呟く。


セリナが近付く。


「何かご存じなんですか?」


老人は微笑んだ。


「古い伝承です。」


「竜は契約を交わした者を導くことがある。」


「ただし。」


そこで言葉を切る。


「自ら迎えに来ることは滅多にありません。」


ロックが眉を上げる。


「つまり?」


「急ぐ理由があるのでしょう。」


老人の表情は穏やかだった。


だが、その目にはわずかな憂いがあった。


***


同じ頃。


王都地下。


結社潜伏拠点。


観測室。


観測者が慌ただしく部屋へ駆け込む。


「報告!」


カイナが視線を向ける。


「竜です!」


「王都上空へ飛来!」


「対象ガルドと接触を確認!」


部屋の空気が変わる。


数人の観測者が資料を確認する。


「攻撃命令を出しますか?」


「不要。」


カイナは即答した。


「観測を継続。」


「竜は敵対行動を取っていません。」


「ですが、対象を北へ誘導しています。」


「構いません。」


静かな声。


「我々も予定通り北へ向かいます。」


観測者達が頷く。


計画は変わらない。


いや。


むしろ予測通りだった。


カイナは水晶に映る北方山脈を見つめる。


「いよいよですね。」


誰に言うでもなく呟く。


「数百年前に途絶えた記録が。」


「再び動き始めます。」


観測水晶の中で。


ガルド達の光と。


北へ飛ぶ一つの光が。


ゆっくりと重なろうとしていた。

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