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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第5章 残響の先へ

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第105話 継ぐ者への言葉

小部屋の中は静まり返っていた。


誰もすぐには口を開かなかった。


石棚の前。


古びた記録書を手にしたまま、ライルは固まっている。


セリナも同じだった。


ロックだけが首を傾げる。


「そんなにすごいのか?」


ライルがゆっくり頷く。


「すごいどころじゃありません」


声は震えていた。


「レオン・ヴァルハイトは王都建国史にも名前が残る英雄です」


「その記録が残っていること自体がおかしい」


セリナが続ける。


「しかも封印されている」


「誰かが意図的に隠した」


ロックは腕を組んだ。


「ますます怪しいな」


ライルは慎重にページをめくる。


紙は古い。


だが保存状態は異様なほど良かった。


魔法による保護が施されているのだろう。


記録の大半は任務報告だった。


魔獣討伐。


辺境警備。


王都防衛。


歴史書にも残っている内容ばかりだ。


だが。


後半になるにつれて様子が変わり始める。


ライルの表情が険しくなった。


「これ……」


セリナが覗き込む。


そこには手書きの追記が残されていた。


『最近になり記録の改竄を確認した』


『王都上層部の一部が関与している可能性あり』


『理由は不明』


ロックが顔をしかめる。


「改竄?」


ライルも困惑していた。


「レオン自身の筆跡に見えます」


さらにページをめくる。


記述は徐々に断片的になっていく。


まるで誰かに監視されているかのようだった。


『仲間が消えた』


『証言も消えた』


『名前すら残っていない』


『記録を守れ』


空気が重くなる。


セリナは無意識にリゼの方を見た。


結社。


人を消す。


記録を改竄する。


どこか似ている。


リゼも不安そうな顔で本を見つめていた。


ライルが最後の数ページを開く。


そこで全員の動きが止まった。


文章が変わっていた。


任務記録ではない。


誰かに向けた手紙だった。


『黒き剣を継ぐ者へ』


その一文から始まっている。


ロックが呟く。


「俺たち宛てか?」


セリナは首を振った。


「違う」


「ガルドよ」


自然と全員の視線が向く。


ガルドは黙ったまま記録を見ていた。


ライルが続きを読む。


『もしこの記録を読んでいるなら』


『お前は既に黒剣を手にしている』


『ならば警告する』


『その剣を信じるな』


静寂。


ロックが眉をひそめる。


セリナも息を呑んだ。


黒剣を信じるな。


それはあまりにも直接的だった。


ライルは続きを追う。


『黒剣は力を与える』


『だが同時に奪う』


『歴代の継承者は皆、最後に敗れた』


『私も例外ではない』


ページの端には黒い染みが残っていた。


インクではない。


まるで焼け焦げた痕のようだった。


セリナが小さく呟く。


「侵食……」


ガルドの首元に現れ始めた痣。


長老が語った英雄。


全てが繋がり始める。


ライルはさらに読み進めた。


『剣は意思を持つ』


その瞬間。


カン――


背中の黒剣が小さく鳴った。


全員が振り向く。


黒剣は静かなまま。


だが確かに反応した。


ロックが身構える。


「今のは……」


誰も答えない。


ライルも続きを読む。


『意思を持つが故に』


『剣は持ち主を選ぶ』


『だが選ばれた者が救われるとは限らない』


『私には最後まで理解できなかった』


セリナはガルドを見る。


無口な男。


感情を表に出さない男。


そして。


今まで誰よりも黒剣を抑え込んできた男。


長老アルヴェインの言葉が蘇る。


――お前はあの男に似ている。


だが。


本当に同じなのだろうか。


ライルは最後のページを開いた。


そこには短い文章だけが残されていた。


『もし私と同じ道を辿るなら』


『北へ向かえ』


『真実は王都にはない』


『竜の眠る地にある』


その瞬間。


ガルドの背中の黒剣が微かに震えた。


今度は誰の目にも分かった。


セリナが息を呑む。


ロックも言葉を失う。


竜。


それは偶然ではない。


ガルドが黒剣を得た場所。


あのエンシェントドラゴンの山。


全てが再び繋がろうとしていた。


そして同じ頃。


王都の地下深く。


観測室。


仮面の男が報告書を受け取っていた。


無機質な声が響く。


「封鎖記録への接触を確認」


「対象ガルド・アイゼン」


「レオン記録の閲覧を開始」


沈黙。


やがて仮面の男は静かに呟いた。


「やはり辿り着くか」


その声には焦りが混じっていた。


レオンの記録。


黒剣。


そして竜。


本来なら失われているはずの歴史だった。


だが今。


無口な男がその扉を開こうとしている。


誰にも止められないまま。

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