第101話 追放の後
騎士団本部の応接室。
ライルの話はまだ続いていた。
王都周辺で起きている騎士の失踪。
上層部による古い記録の調査。
そしてガルドの名前。
不穏な話ばかりだった。
だが。
ロックには別に気になることがあった。
「そういやさ」
ライルが視線を向ける。
ロックは腕を組んだ。
「ダンナが追放された後、騎士団ってどうなったんだ?」
部屋が少し静かになる。
ガルド本人は特に反応しない。
だがライルは少し考えた。
「簡単には言えません」
そう前置きする。
そして。
「荒れました」
短い言葉だった。
セリナが眉を寄せる。
「そんなに?」
ライルは頷いた。
「隊長は自覚していなかったと思いますが」
ガルドを見る。
「かなり慕われていました」
ロックが吹き出した。
「だろうな」
本人だけが知らない。
そんな顔だった。
ガルドは無言。
ライルは慣れている。
気にせず続けた。
***
追放が決まった日。
騎士団本部は騒然としていた。
若手騎士達は反発した。
特にガルドの部隊は酷かった。
「納得できません」
「隊長が何をしたんですか」
「功績はどうなるんですか」
会議室で声が飛び交った。
だが上層部は決定を覆さなかった。
理由は表向きには規律違反。
実際は政治だった。
ライルは当時を思い出す。
悔しかった。
怒りもあった。
だが何もできなかった。
まだ若すぎた。
力が足りなかった。
「結局」
ライルが静かに言う。
「辞めた者もいました」
セリナが驚く。
「そんなに?」
「はい」
追放への抗議。
失望。
様々な理由。
ガルドを慕っていた騎士達の一部は騎士団を去った。
ロックが呟く。
「結構大事じゃねぇか」
ライルは苦笑した。
「当時は大問題でした」
***
ガルドは黙って聞いていた。
表情は変わらない。
だが。
少しだけ視線が下がる。
ライルはそれを見ていた。
だからこそ言う。
「隊長のせいではありません」
即座に。
迷いなく。
ガルドが顔を上げる。
ライルは続ける。
「皆、自分で決めました」
「誰も後悔していません」
静かな言葉だった。
だが重みがある。
ロックも口を挟まない。
ライルが本気だと分かったからだ。
「隊長はいつもそうでした」
「誰かの責任を背負おうとする」
ガルドは何も言わない。
否定もしない。
それが答えだった。
***
しばらく沈黙が続く。
やがてライルは少し笑った。
「実は」
「今でも隊長派は残っています」
ロックが笑う。
「派閥かよ」
「非公式です」
ライルは真面目な顔で答える。
余計に面白い。
セリナも思わず笑った。
「何をしているの?」
「隊長の功績を記録しています」
ロックが盛大に吹き出した。
「何でだよ!」
「消されるかもしれないので」
真顔だった。
冗談ではないらしい。
ガルドが珍しく固まる。
ライルは続ける。
「昔からそうです」
「功績を他人へ譲りすぎるので」
「残さないと消えます」
ロックは腹を抱えた。
セリナも肩を震わせている。
ガルド本人だけが困惑していた。
「……必要ない」
ライルは即答した。
「必要です」
「必要ない」
「必要です」
初めてだった。
ガルドが押されている。
ロックは完全に笑っていた。
「勝てねぇなダンナ」
ガルドは黙った。
諦めたらしい。
***
その後。
話題は少し変わった。
ライルが持ってきた資料。
最近の調査報告。
その中に気になる記述があった。
> 王都北西部封鎖区域
セリナの視線が止まる。
昨日。
結社が調べていた場所と同じ方角。
偶然だろうか。
ライルは説明する。
「昔の遺跡です」
「現在は立入禁止になっています」
「理由は?」
ロックが尋ねる。
ライルは首を振る。
「不明です」
「記録が残っていない」
まただった。
レオン。
黒剣。
封印。
そして遺跡。
肝心な部分だけが消えている。
セリナの表情が険しくなる。
何かがある。
間違いなく。
その時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
若い騎士が入室する。
「失礼します」
ライルが振り返る。
「何だ」
騎士は少し迷った。
そして。
「北西区画で失踪者が出ました」
部屋の空気が変わる。
「またか」
ライルの顔が引き締まる。
若い騎士は頷いた。
「今度は巡回隊です」
静寂。
ロックとセリナが視線を交わす。
結社か。
まだ分からない。
だが。
嫌な予感だけは確実に強くなっていた。
そして。
王都の地下深く。
誰にも知られぬ場所で。
第二段階の歯車が静かに回り始めていた。




