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魔法の研修生  作者: 二合 富由美(ふあい ふゆみ)
温泉旅行殺人事件
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04 警備カメラ

「なかなか尻尾が掴めないな」


 中年刑事は、物陰に身を潜めながら呟いた。


 事故や犯罪の多くは、目撃者の居ない場所で起きる。

 特に犯罪は人目を避けて行われる事が大半だ。


 それは例えば車同士の交通事故などが顕著で、その為にドライブレコーダーの取り付けが推奨されている。


 交通機関以外でも、昨今の日本ではセキュリティカメラを配置している場所が増え、路上や個人宅の玄関先にも見掛ける様になった。


 当然、それらにも死角は有るが、人間の目撃者よりも遥かに多く犯罪の予防や、事案の解決に貢献している。


 だが、それらが記録する現実と当事者達が見ている事実が、必ずしも一致しないのが、先の交通事故の例のでも語った様に一般的なのだ。


 そして人間は、後日にカメラなどで(あか)される現実ではなく、自分の見ている事実でしか行動できない。

 さらに【公式発表】などの権力により、現実とも個人の事実とも違う事にされてしまう事も無くはないのである。


「幸いな事に、この通りにはセキュリティカメラが多いから、犯行が行われれば証拠として提出できるな」


 稀に目撃者が居ても、その記憶は曖昧な物で、複数の目撃者が居ても証言が異なる事が少なくはない。

 現行犯として捕まえても、証拠がなければ『言い掛かりだ』として裁判で無罪になる事もある。

 ましてや今回は、いつもの捜査の様に二人一組で行動している訳ではないのだから、身内にすら証人はいない。


 だから刑事は、こまめにセキュリティカメラの位置を確認し、自身もスマホを構えていた。

 携帯やスマホが登場してからは、物陰に身を隠しカメラ部分だけ出して被写体を確認する事が容易になったのは助かる。

 しかし、尾行対象からは気付かれにくいが、尾行者の後方から目撃されると、あからさまに怪しいのが欠点ではあるが。


 そもそも、殺人を犯すには刺殺、絞殺、撲殺、車で引き殺すなどが一般的だ。

 ドラマにある様にクロロホルムを使ったり、薬殺は特殊なコネが無ければ手に入らないし、調べられれば最終的に足がつく。確かに農薬を使っ

た毒殺も試みられているが確実性に欠ける。

 銃殺は日本の一般人では入手が困難だし、裏ルート(ヤクザ)を使えば後々しゃぶり尽くされる。

 怨み等で、目的を果たした後はどうなっても良い場合以外は、その様な無理をしないだろう。


 今回の探偵は、医者との繋がりがバレないと思っているのか、調べられても医者側が隠蔽できるのかは分からないが、薬物を使っているのは間違いない。

 ただ、どちらにしても現行犯逮捕が必要だ。

 今の刑事は休暇中だが、現行犯逮捕ならば刑事訴訟法213条により一般人でも逮捕が可能なのだ。


 とは言え、刑事も良い過言に痺れを切らしていた。

 『痺れを切らす』とは、正座を続けさせられて足が痺れ我満の限界が来ている事に起源している。

 つまり刑事の精神は、かなりの興奮状態にあったのだった。


 同じ興奮状態でも、旅館従業員の修羅場の様な慢性的興奮状態と、刑事のソレは異なるのだろう。

 温泉地と言う全体的にはリラックスムードの中でソノ苛立ちは、仮にテレパシーの様な精神系能力を持つ者が居れば目立つし、目障りだろう。


 それに何かの因果関係が有るのかは分からないが、事態は動き出した様だ。


 見晴らしの良い展望台で夜風を涼んでいる独りぼっちの観光客に近付く探偵の姿が有ったのだ。


「確か、あの下は十メートル以上の崖になってて、セキュリティカメラも壊れてたっけ・・・」


 事前に危険な場所とセキュリティカメラをチェックしていた刑事は、カメラは有るが断線しているのを見ていたのだ。

 その断線は劣化した様にも見えるが、硫酸などの薬品で溶かした様にも見えていた。


「他に目撃者も居ない。明らかに周りの確認をしているな!」


 探偵が、何喰わぬ素振りで観光客の背後に回り込んでいく。

 犯人には都合よく、観光客の手にはビールの缶がにぎられていた。

 平和ボケなのか、独りっきりで酒を飲んで、危険な墓所をウロウロする日本人は決して少なくはない。


「これだから、日本人は危機管理ができないって言われるんだ」


 探偵の手が男の背に伸びたのが見えた瞬間、刑事は物陰から飛び出した。


「貴様、何をやってる!」


 本来であれば、事件を未然に防ぐのも警察の役目ではあるが、個人の権利を重視する国では被害がでたり通報がなければ、警官であっても罪に問われる事が有るのだ。


 それに何より刑事は、この時に苛立っていて現行犯逮捕に固執していたので初動が遅れたのだ。


 その為に、刑事の目には観光客が探偵に突き飛ばされて、手摺の向こうに姿を消すのが映っていた。


「お前、何て事を」


 刑事は目の前で行われた殺人に怒りの形相をしていたが、その内心は追い続けた犯人を捕まえられる喜びで溢れてニヤけていた。

 刑事の胸ポケットにはビデオ録画状態のスマホが有り、ポケットからカメラ部分が出ている。

 他に証人ま居ないが、証拠の録画もシッカリあるのが頭にある為に、刑事は探偵を押し倒して地面に押さえ付け、後ろ手に拘束した。


「何なんだ?放せ、人を呼ぶぞ」

「人殺しが何を言うんだ?19時32分、殺人の現行犯逮捕だ」

「人殺し?人殺しはお前だろう!このシリアルキラーがぁ」


 探偵の側も刑事の顔を見て、思わず口にした。


「何を言っている?俺は刑事だ!」

「はぁっ?刑事なら罪は犯さないってか?どうせ隠蔽と職権乱用の為に警官になったんだろう?」


 そういった問答をしながらも、刑事は用意していた大型の結束バンドで探偵の手と足を縛っていく。

 非番の警官は手錠等を持ち出せず、身分証明の警察手帳すら無いのだ。


「暴行罪に加えて不当な拘束。これなら十分だ!おいっ、助けてくれ!」


 地面に顔を擦り付けられながらも、探偵が大声で叫ぶと、刑事の隠れていた更に後方から数人の男達が姿を現した。


「まさか・・・・単独犯じゃなかったのか?」


 刑事が調べた範囲からのプロファイリングでは仲間は居なかった。

 そもそも犯罪は関係者が少ないほど負担が増すが発覚しづらくなる。

 だから刑事にとっては想定外の状況だった。

 今度は数人がかりで刑事が押さえ付けられ、探偵は引き起こされた。

 警察官は柔道や空手などの格闘技を訓練されるが、二三人がかりで掛けられては手も足も出ない。


 探偵は騒ぎで外れたトランシーバーのマイクとイヤホンを着け直している。


「尾行を独りでやる訳がないだろうが?アルバイトを現地調達したんだよ。本当に警官なのか?」


 確かに、一人のターゲットに対して複数で連絡をとりながら尾行するのがセオリーだが、今回の刑事には、そうできない理由も有ったのだ。

 それに対して探偵は、金にモノを言わせて準備をしていた。


「それより、ちゃんと撮れたか?」

「大丈夫です。複数のカメラでおさえました」

「ならば傷害の現行犯で取り押さえ19時35分だな。警察に電話しろ」


 答えた男の手にはスマホが構えられていた。

 探偵の結束バンドはライターで焼き切られ、そのシーンもカメラで撮影している。

 結束バンドはカッターナイフなどの方が切りやすいが、下手に凶器扱いされても厄介なので持ち歩かなかった。


 別の男が携帯で通報をはじめている。

 現行犯逮捕は宣言して拘束した後に、可能な限り速やかに警察に引き渡さなければならない。

 下手に抵抗しない限りは暴力などを振るってはならない。

 探偵達は、その正当性を立証する為にもビデオを撮り続けていた。



「拘束して無理矢理酒でも飲まして突き落とすつもりだったんだろうが、結束バンドなんか使ったらあからさまに痕が残るだろうに、何をやるつもりだったのか?」

「お前こそ何を言っているんだ?たった今、人を突き落としたばかりだろうが!」

「俺が人を?まさか、お前はラリってるのか?」




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