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魔法の研修生  作者: 二合 富由美(ふあい ふゆみ)
温泉旅行殺人事件
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03 警視正私室

 警視庁の執務室で、一人の警視正が頭を抱えていた。

 秘書官には会合用資料の準備を命じて、他には誰も居ない。


「何ぜだ?何ぜ警視監御二人(おふたり)から苦言を頂いてしまったんだ?何で知られてるんだ?」


 警視監とは、警察で上から二番目の地位で、定員は38名の役職だ。

 参事官でもある彼よりも二つ上の役職で、警視正の立場でも警視監から睨まれたら何かのコネが無い限りは、警察での出世は出来ないと言える。

 彼は、その警視監達から呼ばれて、たった今戻ってきたばかりだ。


「一応『知人を使って事件性のある案件を調べさせている』と言っておいたが、あまり納得していない様だったな。何か政府の別件と絡んでいるのか?」


 普通、警視監が一般の捜査に関わる事は無い。

 警視監が関わるのは、他の官公庁からの問い合わせや引き合いが有る時くらいだ。

 下調べした範囲では、警察内部で温泉地に関する調査等は特に行われていない様だった。


 この件は、中学のクラスメイトだった探偵から『もし連続猟奇殺人だったら御前の出世に役立つ』と言われて口をきいた彼だが、後悔を感じはじめている。


「怪しいと言えば怪しいんだが、偶然と言ってしまえば、それきりなんだよなぁ」


 もし、犯罪が行われているなら、それを放置しておく事はできない。

 彼にも、彼なりの【警察官としての正義感】が有った故の協力だった。


「かといって、通報も物証もない状況で捜査員を派遣する訳にもいかなかったんだよな」


 協力の見返りではないが、中間報告は小まめに入れさせている。

 まだ、事件性を掴めていない為に、該当地区の死体を検視する事はできない。

 一応は病死や事故死と判断された案件だからだ。


「今から調査を中断させるか?いや、それでは警視監にした言い訳が嘘になるか?報告書を上げれば何とかなるか?今の成果で大丈夫か?」


 警視正は迷っていた。

 具体的に中止の指示を受けた訳では無い。

 たが、調査を中断させて無価値な報告書を上げれば、自分の評価は下がる。

 さりとて、私的とは言え調査させている事がバレているので、警視監に報告書を上げないとマズイ。


「何かに関わっている以上、報告書を上げずに続けるのも問題になるだろうか?どうすれば良い?こんな事は誰にも相談できんしなぁ」


 悩んでいても、ただ時間だけが流れていく。

 さりとて、時間に余裕がある訳ではない。

 管理職は事務仕事に追われ、各所への通達手配や形だけの会合に追われるものだ。


「もうすぐ秘書官が書類を持って、会合への催促に来る。保留にするしか無いのか?」


 下手な判断は身を滅ぼす。しかし、時間を掛ければ境地に追い込まれる。


 結果的に警視正は【保留】を選んで、執務室に入ってきた秘書官から書類を受け取った。


「では、昼食は所長達との会食となりますので、資料に目を通しておいて下さい」

「分かっている。必須項目は、コレか?」


 警視正は資料のマーキングされた所に目をやった。


 警視正と言う役職は、参事官や大規模警察署の署長などの仕事につくが、会食を開いての情報交換も有る。


「では、時間になったらお迎えにまいりますので、先に食事をとらせて頂きます」

「ああ、分かった」


 警視正が食事をしている間、秘書官は会話の内容を記録しなければならないので、一緒に食事はできないのである。


 警視正の執務室を出た秘書官は、人目を気にしてから携帯電話を取り出した。


「もしもし、・・・・はい、私です。警視正は現状維持のまま保留にする様です。・・・・・はい、盗聴は続けています。動きがあれば・・・・はい、承知しています、警視監殿」






「しかし、困ったものだな」

「そうだな。加茂殿達の事を話す訳にもいかないし、更に問い合わせが来たら『バチカンからの来賓に対する警護任務に差し障る恐れがある』と言っておくしか無いだろう」


 秘書官などを排した部屋で警視監の佐川が話しているのは、同じ立場の日笠警視監だ。

 彼等は、加茂から連絡が来た事から、何が起きているのかを察して、関係している警視正に釘を刺した二人だ。

 加茂の方からは目障りな内容と、どの警視正が関係しているかが名指しで通達された。


「確かに、県をまたぐ事件の捜査は本庁の警視正の管轄と言えなくもないので『やめろ』とは言えないし、警官が動いている訳でもないから『個人的に』と言われたら、遠回しに言うことしかできないよな?」

「とはいえ、我々は加茂殿達の行動に口を出せない上に、支援をしなくてはならない立場だ」

「彼等の事は我々二人だけではなく、政財界の大物達にも関わる案件だから手をこまねいている訳にもいかないが、公的にできる事にも限界はあるからな」


 『バチカン来賓の護衛』に捜査一課が関わっているのは、【宗教対立に対する備え】としている。

 本来は別の課の管轄だが、ゴリ押しで特別班を作った。


「県警で勝手に動いている方も釘は刺したが、こちらも『温泉地巡りをしている刑事が居る様だな?』と臭わす程度にしか言えなかった」


 加茂達の行動目的を公表しないままでできる事は少ないし、公表すれば世界中がパニックに陥り、世界戦争に発展する可能性もある。


「第一、百年以上先に訪れる人類滅亡の為に選別しているなど、目先しか見えない人権団体が騒がない訳がないのだしな」


 もっとも、その公表を一般大衆が信じればの話だが。

 古くは1910年のハレー彗星。1938年の火星人襲来ラジオ放送。1999年のノストラダムス。2012年のマヤ暦の終末。

 過去に何度も騒がれた人類滅亡だが、本気でパニックになたのは一部の者だけだった。


 加茂達の能力も、見た彼等ですら半信半疑なのだから、聞いただけの者が信じるとは思えない。


 公共機関からでなければ、加茂達の話を公表しても信じられるとは思わないが、彼等の行動が阻害されるのは困る。

 何せ政府には、その天変地異を防止する対策も、国民を生き残らせる手段も持ち合わせてはいないのだから。


 加茂達の言う通りだとすると、有害遺伝子を持つ者が多く存在すれば、天変地異の後に生き残れる国民が減り、国家として維持できなくなる。

 そうなった国は少数民族となり、他の勢力に吸収されれば【日本】と言う国が名実共に消滅してしまうのだ。

 それは中国に併合されたモンゴルや、白人に追いやられたアメリカンインディアンを見れば如実に分かる。


「長い目で見れば、【日本の消滅】も歴史の断片になるのかも知れないが、現在の日本国民としては容認できるものではない」

「だから、こうして日本政府も彼等に全面協力をしている訳だが、それが理解できない愚か者や、将来の覇権を目論む外国政府もあるからな」


 加茂達の行動を例えるならば、不治の病とされていたペストに感染したが動ける患者を拘束隔離するのは、将来的な感染患者の減少と国の存続に必要な行為だが、個人的に見れば自由行動の阻害という人権侵害とも言える。

 『将来的に特効薬が開発されるかもしれないから拘束は不当だ』などと言う不確かな希望的観測で感染者を自由にすべきだろうか?


 国民を含む公共の将来的な利益と、現在の一部の国民の権利を秤にかけた時、どちらを優先すべきか?


「正直、その【天変地異】とかも今までの予言同様に、我々には確かめようがないんだが」

「まぁ、どちらにしても拒否権は無いだろう?情報漏洩や妨害行動をすれば、家族もろとも【事故死】や【病死】しかねないんだから」


 実際に、加茂達の事を知らされた関係者は、目の前で指名した人間が事故死や病死するのを見せられている。

 どういう情報網なのか、関係者の些細な秘密まで加茂達は知っているので、【秘密裏に】という事は無意味だ。

 彼等を拘束しようにも、目の前で消えたり別の姿に変わる彼等をドウコウできる訳も無いのだ。


「我々警察組織が、特殊なとは言え個人より弱いとは、正直言って信じられなかったよな」

「誰かが言っていたが、まさに【魔法】なんじゃないかって話だ」


 彼等の様な中間管理職が、その真相を知る事は無いだろう。



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