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魔法の研修生  作者: 二合 富由美(ふあい ふゆみ)
温泉旅行殺人事件
40/40

05 現行犯逮捕

 どうにも刑事の話と探偵の話が食い違っている。

 見ると、探偵の仲間も首をひねっていた。


「崖?突き落とす?」


 探偵は縛り上げた刑事を置いて、展望台の先にある崖を覗き込みはじめた。


「崖の下が何だって?」


 探偵達は刑事を引き摺って、彼にも崖の下を見せた。

 刑事は縛られながらも、自分も突き落とされる危険性に注意しながら、崖の下に目を向けてみた。


「無い!何故、死体か無いんだ?」


 五メートル程の切り立った崖の下は岩場に成っていて、なかなか人が入れる状況ではない。

 それに、前もって人員を用意しておいても、この短時間で死体を隠せる場所が、そこには見当たらなかった。


 崖の下の現状を見た刑事は脱力し、抵抗するのをやめた。

 被害者が居なければ殺人事件は立証できず、刑事が引き起こした暴行事件だけが残る。


「俺は確かに見たんだ!そ、そうだ。スマホでビデオ撮影した物証が」

「ビデオ撮影?何か申し開きが有るなら見せてみろ」


 刑事が既に観念したと判断し、探偵の指示で刑事の手が自由にされた。

 足の拘束は残されたままだし、探偵側には人数も居るので逃げる事はできないだろう。


「これを見れば俺の行動が理解できる」


 刑事は胸ポケットから録画中のスマホを取り出し、録画停止してから再生しはじめた。

 探偵も刑事の背後から画像を覗き込む。


「バカな!こんな筈は」

「この録画が何だと言うんだ?」


 スマホには、展望台にたたずむだけの探偵に迫り行く映像だけが残されていた。


「どうしてだ?俺が見ていたのは何だったんだ?確かにコイツが人を突き落とすのを見たのに」


 刑事は頭を両手で押さえ、頭を振って座り込んだ。


「どうやら、本当に薬をやってるらしいな?仕事の激務から、薬やギャンブルに手を出して憂さ晴らししている会社員の話は聞くが、まさか警官もとは・・・」


 予想以上の状態に眉間を押さえた探偵の耳に、遠くから近付くパトカーのサイレンが聞こえてきた。





 まだ陽が落ちきらない現場で、その騒ぎを三十メートル程上空から見ている者が居た。

 まるで地上に立つ様に腕組みしているソノ者は、光学迷彩に加えて認識阻害もしているので、姿をハッキリ見る事はできない。

 ただ、その形に空間が歪んでいるので、能力者なら存在に気付いたかも知れない。


「これで少しは静かになるな。シシス様もゆっくりできるだろう」


 その独り言が何を意味するのかは、探偵や刑事の理解できるものではなかった。




 察官は定年制である。

 それは警視総監をはじめとする上級警察官といえども同様で、ほぼ毎年誰かが退職するので定数制のポストが空き、出世する者が出てくる。

 そして、出世できるかどうかは直属上司の評価が大きく影響し、その上司も更に上役の言葉に左右される事がある。


『今回、君の昇進は見送らせてもらう。配下の刑事が不祥事を起こしたとなれば、例え休暇中だったとしても管理責任を問わない訳にはいかないからな。これからマスコミ対応が大変だよ』

「今回の事は私の不徳のいたすところで、大変申し訳ありませんでした。マスコミ対応をよろしくお願いいたします」


 本庁管理部長からの電話を切って、県警の警察署長は受話器を強く握りしめた。


「くそっ!あの疫病神がっ!」


 備品である電話を壊さなかったのは、これ以上始末書を増やさない理性が感情を押さえ込んだに他ならない。


 この後、刑事の所属していた県警で人事異動が発生したが、警視庁本庁でも人事異動が発生していた。

 その結果、とある警視監の派閥が勢力を拡大したのは、偶然か?因果関係か?





「賀茂のお陰で、霧が晴れてきたわね」

重蔵(じゅうぞう)は、しっかり仕事する男ですから」


 事件の起きた温泉地の露天風呂で、小柄な外国人少女の言葉に、二十代の日本人女性が答えた。

 本人の前では決して誉めないが、彼を一番理解し評価しているのも、日本人の彼女だった。


「これで、ゆっくり温泉がたのしめるわ」

「お喜びいただけて、幸いです」


 今回の騒動も、その原因となった死亡件数の増加も、この者達の仕業なのだが、関係者以外でソレを知る者は居ない。




 すべては人類の未来の為に・・・





---------- END


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