大好きな人と嫌いな人
先輩は私の手を借りずに立ち上がり、スカートをパンパンして少し前髪を整えてこっちを見た。
「バイバイ!」
そう言って後、大会で走っていたぐらいの速さでその場から走り出した。
「は?」
今日これ口に出すの3回目だ。
せっかく助けて上げたのにお礼も言われないの?
イライラに身を任せてそのまま追いつけないとは思うが先輩のことを追いかけた。
あのクソ野郎、口は悪い癖になんで足は早いんだよ。
追いかけてるうちに息がどんどん荒くなっていく。
足が痛い。
胸が苦しい。
転びそう。
走っているうちにどんどん弱音が頭の中をよぎる。
走ることより息するとこに集中がいった時に足が絡まった。
「やばっ」
そのままバランスを崩して前のめりに転んでしまった。
「いった、、、」
前を見ると私が追っていたクソ先輩はもういない。
「さいあく」
そう呟いて頭ごと目線を上にあげた。
「大丈夫そ?w」
上を向くと菜奈先輩と目があった。
「しね」
とっさに口から出てしまった。
でももうこいつなんかにこびうる必要はないかと思い、表情を作ろうとしていた顔を素の顔に戻す。
足が痛いからゆっくり立ち上がり、先輩の方をまっすぐ向く。
「一緒に帰りませんか?」
イラつきすぎると人の表情は少し笑顔になるらしい。
可愛い、可愛い、後輩から一緒に帰ろうと言われて2人仲良く歩いている。
コンビニによってガーゼとかを買ってから帰り道を辿る。
「それでなんで一緒に帰ろうなんて言ってくれたの?」
いつもどうり、人を煽るような口調で話を切り出す。
こっちの方が人の本心が聞けるような気がするから。
「いや、わかってるでしょ?」
口調からイライラしてることが伝わってくる。
普通の人ならこわ〜いって思うことが多いのかもしれないけど菜奈的には嬉しく思える。
もっともっと、イラついてくれるにはどうやって話せばいいんだろう?
「なんのことかな?」
あえてとぼけてみる。
「先輩は本当に先輩の友達の悪口とか言ってるんすか?」
そう言ったときの後輩の顔は怒っているより、悲しんでいるような表情だった。
そこは怒った顔するところでしょ。
若者ってわかんねぇー。
「言ってるよ、君が大好きマイチーの悪口も」
これは正直に答えてあげる。
だって多分これは答えないと話が進まなくなっちゃうもん。
流石にそれは菜奈的にもつまんないって。
「なんで舞先輩のこと知ってるんですか?」
それは簡単だよ。
「だって前、日葵ちゃんマイチーに向かって手振ってたでしょう?その時の顔だよ、顔」
「顔?」
「そうだよー、日葵ちゃんがマイチーを見る時の顔は他の先輩を見る時みたいな作ってる表情じゃないもん」
心当たりがあるのか日葵ちゃんは下を向いてだまり始めた。
そこをあえてつく。
「どうしたの?まさか図星だったりする?w」
「そうですね、、」
案外すんなり認めた。
それじゃあつまらないんですけど、、
「そういえば、なんで舞先輩とかの悪口を言うんですか?」
正直、思いどおりにならないやつ、つまらないやつとは話したくないんだけどな、、
でもまだまだ家まであるし、もう少し相手してもらうか。
「周りがそう言ったからだよ、思ってなくても周りが言ったらそれに賛成する、これは生きることの基本だよ」
僕がそういうと少し表情がニコッとしだした。
「じゃあ先輩は悪口は言ってるけど思ってはいないんですね?」
そんなわけないじゃんと言おうとしたが口が何故か動かなかった。
何も言わずに黙っていると後輩は更に笑顔になった。
「それならいいです!」
あー、調子が狂う。
こんな事ならこいつと話すのさっきやめとけばよかった。
「別に僕何も言ってないんだけど」
すぐに否定するが僕の話を聞かずにそのまま続けられる。
「でも先輩、それぐらいなら言わないほうがいいですよ!そっかく可愛い先輩自身の価値が下がっちゃうので」
満面の笑みで返してきたこいつにイライラして、でも何か言い返すとまたこんなふうに返されると思うと言い返そうとも思わなくなっていた。
それでも会話の話題を変えたりして話していると僕の家についた。
「では先輩今日はありがとうございました!これ私の連絡先です!」
スマホをこっちに見せてくる。
つなげってことかな。
何かに使えるかもだしいっか。
そう考えバーコードを読み取る。
「繋いだよ」
日葵ちゃんは繋がったことを確認してスマホをバッグにしまう。
「ではまた〜」
日葵ちゃんはいつもの笑顔で僕に手を振る。
最後までそんなこいつに少しイライラしていたが一つやらないといけない事を思い出して「ちょっと待て」と伝わるように手を動かす。
家の中から消毒液を持ってきて玄関まで日葵ちゃんを入れる。
「そこ座って」
玄関の段差を指差す。
「なんですか〜?」
軽く嫌そうな顔されたが素直に座ってくれた。
まぁ口調はイラつくけど。
僕もしゃがんで日葵ちゃんと目線を合わせる。
日葵ちゃんは僕の行動に疑問を持ったのか首を少し傾ける。
「ちょっと失礼するよ」
そう言って日葵ちゃんの足を持つ。
持った足を自分の太ももに置いて怪我してる部分に消毒液を塗る。
「痛いっ、、、んですけど、、」
「しみてるんじゃない?」
嫌がっている顔が地味に面白くってもっとやりたい気持ちが出てくる。
でも早く家に帰ってほしい気持ちもあったため、コンビニで買ったガーゼを貼る。
「ありがとうございます、、」
あと顔貼って終わりかな。
そう思って日葵ちゃんの顔を見るとそれを察したように日葵ちゃん自身の頬の傷の部分を抑えていった。
「ここは自分でやります!流石に顔近いのは浮気になっちゃうのでで、、」
「あっそう」
この言葉には特に何も突っ込まず消毒液とあまりのガーゼを渡す。
でもこの言葉のせいで聞きたいことができた。
「え?マイチーと付き合ってんの?」
だって今の言い方的にそうだよね。
そうなるともしかして、、
「お前もしかしてマイチーのおでこにキスした?」
聞くと一瞬で日葵ちゃんの顔が赤くなった。
「別に、付き合ってるわけではないです、、」
目を逸らされる。
「キスした?キス?」
思わず聞き方が小学生みたいになってしまう。
「してないです!」
食い気味にそう言って勢いよく立ち上がる。
「帰ります」
家のドアを思いっきりドーンと開けてダッシュで飛び出す。
そのまま日葵ちゃんはこっちを見ないで「一人称僕なの可愛いですね!!!」と叫びながら走っていった。
僕もそれに便乗するように走っている日葵ちゃんの方を向いて「またね」と呟いた。
「あのクソ野郎、まじムカつく」
口に出た時にやべっと思ったがもう出てしまったものはしょうがない。
気持ちが高まるとつい口に出てしまう、なんとか直さないとな。
気持ちを落ち着けながらある人にメッセージを送る。
「月曜部活来るんすか?」
既読がつかない。
まぁクソ野郎でも忙しい時はあるのか。
スマホをバッグにしまい家まで歩いて帰る。
というか帰ったら先輩いるんだよな、気まずいってどうやって話せばいいん。
負けてるし、走ってる時の顔最悪だったし、菜奈先輩に嫌なとこ見られたし。
最後のはあんまり関係ないか。
先輩なんていうかな。
幻滅したかな。
大好きな先輩に限ってそんなことはない。
それはわかってるわかってるよ、もちろん。
でも先輩に会いたくない気持ち半分生まれてる。
それでも、、
「先輩に合いたい」
欲を言えば思いっきり抱きしめてほしい。
今日も可愛いんだろうな。
結局、胸を踊らせながら家に帰った。
ドアの前で深呼吸をして扉開ける。
「ただいまでーす、、、」
ビビっていたのが声に出て、誰にも聞こえないような声の音量になった。
リビングに続く廊下は暗く、リビングはほんの少しだけ明かりがついているレベルだった。
「寝てるかな?」
一人呟いて靴を脱ぐ。
廊下に足を踏み入れた瞬間に脱衣所のドアが空いた。
「寝てないんですけど」
急に先輩が出てきてびっくりした。
しかも先輩は私の長袖を着ていた。
「それ、私のなんですけど」
先輩は自分が来ている服を確認して、「あっほんとだ」と言った。
「後、した履いてます?」
私は先輩より身長が高いからか先輩が私の服を着ると下が隠れ、服と肩の位置がずれるぐらいブカブカになっている。
「パンツでいいなら履いてるよ」
「じゃあダメですよ!」
だってそれズボン履いてないってことでしょ。
お風呂のドアを閉めようとすると先輩はドアに私と反対方向に力を入れて閉めさせてくれない。
「お前、それ?何?」
頬を触りながら言った。
触っている部分はちょうど今日怪我した部分だ。
声のトーンが下がって、先輩の顔が私の事を睨んでいるように見えて心拍数が早くなる。
「別になんでもないです、、、」
私の事を刺してくるような視線に思わず目を逸らしてしまった。
先輩はそんな私を見てもっと目線が冷たくなる。
「、、、っ」
先輩はそのまま傷をなぞるように頬を触った。
「てかお前ご飯食べる前に風呂入れ」
そう言った時の先輩の声のトーンはいつも通りだった。
先輩と私の距離が近くて先輩の谷間が見えてるから私の服着るならもう少し身長を伸ばしてほしい。
「わかりました、、」
先輩と入れ替わりで風呂に入る。
先輩は確かそのままリビングに向かったはず、、
体を洗った後、いつもなら入らないが今日は疲れていたので湯船につかった。
湯船に浸かりながら上を向いてボーっとする。
「先輩になんて説明しよ、、」
自分の頬の怪我の部分を触りながら考えた。
でもお風呂だからか頭がボーっとしてきて考えがまとまらない。
そんな感じに風呂で過ごしてると本格的に頭がのぼせてきたので出ることにした。
いつも通り軽くタオルで髪の水を取り、パジャマに着替える。
小さくなってきたからパジャマそろそろ変え替えないとな。
スキンケアをした後、ドライヤーをしようと洗面所周りを探す。
「ない」
いつもある場所にドライヤーがない。
本当にないから先輩に聞こうとタオルで髪の水を抑えながらリビングに言って先輩を探す。
「先輩もいない」
周りを見渡しても先輩はいないので後はもう部屋しかないと思い部屋のドアをノックする。
「先輩ドライヤーしりませんか?」
「ここにあるよ」
ドア越しにそう聞こえてきたというとこは多分先輩の部屋にあるということだ。
私は部屋を開けずにそのままドアを挟んで聞く。
「いつ終わりますか?」 「入って」
私の言葉に被せるように言った。
「え?」
「だから入ってって」
ドアノブを動かしドアを開ける。
さっきの先輩の目が忘れられなくて今はあんま顔を見たくなかったんだけどな。
「失礼しまーす」
部屋には片手にドライヤーを持った先輩がいた。
先輩は部屋にあるでっかい鏡の前の椅子を引いて「座って」と言った。
取り敢えず私は先輩に言われるがままに椅子に座って手を膝の上に置いた。
「なにするんですか?」
不安は顔に出さずいつもの声で話しかける。
「じっとしてろ」
先輩は私が持っていたタオルを奪い取り頭に乗せて軽く水を拭き取る。
「髪やってくれるんですか?」
私の可愛らしい質問にたいして先輩は無視をし、ドライヤーの電源を入れる。
多分このうるささなら、今先輩に声を投げかけても聞こえないだろう。
やることがないのでふと前を見る。
鏡に映った自分と目が合って自分自身なのに少し気まずさを感じ、目を逸らす。
スマホは、、バッグに入れっぱなしだったな。
手に寂しさを感じ手をパーの形にしたりグーの形にしたりを繰り返す。
自分の手を見てるとバトンを持って走っていたリレーのことを思いだす。
正直私は部活のことなんてどうでもいい。
今日のリレーだって先輩との勝負がなかったら楓ちゃんにだって何も思ってなかったと思う。
「負けちゃった、、」
先輩には聞こえないという安心感でつい声に出てしまった。
そのまま下を向いていると急に手の上に水が落ちてきた。
とっさに自分の顔を触ると自分の顔にも同じような水がついていた。
「さいあく」
泣いているとこが先輩にバレないように下を向いてまま手で涙を払う。
止まらない。
払っても払っても涙が出てきて止まらない。
止まれ、止まれと願いながら手を動かし続けているとドライヤーの音が涙よりも先に止まった。
ほんと、さいあく。
もうバレてるってわかってるのに体が勝手に目元を隠す。
さいあく、さいあく、さいあく、さいあく。
過呼吸とまではいかないが呼吸が乱れてきた。
「はぁ、、っん、はぁ、あ」
早くなんとかしないと。
さっきよりも強く目を擦っていると後ろから温かいものに体を覆われた。
目だけで鏡を見てみると先輩が私にバックハグしていた。
「え、、あの?先輩?」
先輩は私の肩に頭を埋めていた。
「ハグするとストレスが3分の1くらい減るらしいよ」
先輩が顔を上げて話さないから少し声がこもっていて聞き取りづらい。
でも先輩が私の事を元気づけようとしてる事は伝わってくる。
体勢的に先輩の腕が顔の前にあって涙があたってしまいそうになる。
それはまずいと思い顔を上げて鏡を見る。
「やっぱぶす」
自分の顔を見て笑っていると先輩が「自分も見ていい?」と聞いてきた。
「ダメです」
泣いた後だからか目元が赤くていかにも泣いてましたみたいな顔好きな人に見せれるわけない。
顔が赤いのはどうしおもないが少しでも好きな人に顔見せできるように笑顔を作る。
そんな私を感じ取ったのか先輩は少し腕を緩めて「落ち着いた?」と疑問を投げかけてきた。
私はそんな緩まれた腕をギュッと両手で持って言った。
「まだそのままがいいです」
「もう寝たいんですけど」
先輩は勢いよく顔を上げて鏡の中の私を見ながら軽く怒ったように話す。
「わかりましたよ!」
少しほっぺを膨らませ不満そうな顔を作って先輩の手を離した。
そしてドライヤーを持って先輩に「明日頑張ってくださいね!」と言ってドアノブに手をかけた。
「は?今日一緒に寝ないの?」
先輩は私の聞き間違えじゃなければそう声をかけてきた。
私は振り返り「絶対寝ます!」と食い気味に言って、先輩の部屋を出た。
「先にドライヤーは戻さないとね」
洗面台にドライヤーを置き、うきうきした気持ちで先輩の部屋に入ろうとすると、つけっぱなしのテレビに気づいた。
テレビに映っているのは天気予想だった。
「明日の東京では非常に激しい雨が降るでしょう」
そんな事を気象予報士が言っている。
「まさかね」
リモコンをテレビに向けて電源を切った。




