第9話 陽
毎度遅れてすいません。
委員長が宇宙人に乗っ取られたと確定した翌日の朝。
平日なので、なにごともなく俺は登校していた。
中等部から高等部に進級しても大して校舎の位置は変わりなく、人間関係も学校内なら、大きな変化はない。高等部は内部進学率も高いので、ほとんど顔見知りだ。
そんな登校途中で俺はまだ希少な馴染みのない顔に出会った。
「おはよう!!」
長い髪を靡かせながら、バズーカ砲のような挨拶をしてきたのは朱宮燐だ。
まだ今年度の我が学園の入学者までは把握しきれていないが、初等部、中等部、高等部全てひっくるめても十指に入ることは確実レベルのデカい朝の挨拶をかましてきやがった。
元気のいいやつは好きだが、俺は朝に弱いので聞こえる程度の朝の挨拶ですます。
そのあとは自然に一緒に歩き始めた。というかこのときこいつの登校手段が徒歩だということを知ったのかもしれない。金持ちだからてっきり送ってもらっていると思ったぜ。
「最初は車で来てたけどね。せっかく日本の学校に通うなら、徒歩がいいかなって」
海外は物騒そうだな。
「といってもまぁここに来る前はそういうのがない街だったけどね。要塞街って言って伝わるかな? ある程度資産がない人しか入れない街の中で生活してたから」
貧富の差が酷そうだ。俺は日本でよかったよ。格差が拡大したと言われる昨今でさえ、そこまでではないだろうからな。
「そういえば話はどうなった?」
俺からは文音ちゃんの件で話して、天恵も連絡するみたいなことを言っていたが、結局詳しいのは聞いてないし、聞く時間もなかったからな。
「うーんまだまだかな。ちょっと難航しているみたい?」
「そうだったのか」
なんだか要領を得ない回答だった。といっても一日しか経ってないからそんなすぐには話は進まないだろうが。
俺なんかがもっと積極的に介入したほうがいいのか?
「接触してまだ一日も経ってないんだよ。そのときがくれば天恵からなにかしら態度で表すんじゃない」
だな。あいつが困ってるのなんかすぐにわかる。なんてことを話していたら、会話が途切れてしまった。話すのが好きな俺にとって現在地から教室までの距離にして残り約1500メートルを無言で人と過ごすのは耐えられない。なので、適当に話題を振ってみる。
「学校は慣れたか?」
学校が楽しくて仕方がなく、まだ入学して日が浅い小学1年生のような笑顔を向けながら、「慣れたよ!」
転校生なんかに対しては無難な質問といえよう。そっから会話が展開してくると思いきや意外や意外。
また沈黙の雰囲気が漂い始めたので、口を動かす。
「あのあと友達は出来たか?」
あ、いけね。この質問をしてはいけなかった気がする。こいつはコミュ障ではなく、むしろ人を集めやすそうな性格だが、趣味趣向なんかが人を選びそうなので、中々できないと嘆いていたのだから。
どうやらまだ眠気が消し去り切れていないらしい。
もしくは今気づいたが、なにやら緊張感のようなものが走っている気がする。
だが、その緊張感は一瞬で霧散した。
「それがね。できたんだよ! 一人!」
サンタクロースからプレゼントをもらった子どものように嬉しそうに語る燐。よかったなと笑いつつも嫌な予感がした。
そんなときに後ろから、「源太郎と……朱宮さん?」と凛々しい声が俺の背中に当たった。
その声を聞いて俺は振り向かず無言で立ち去ろとした。
しかし、制服を掴まれたので逃げれない。掴んでるのは燐だろう握っている力の強さでわかる。
このまま無理に一歩を踏み出せば引きちぎれてしまうだろう。意識的か無意識的にかわからんが、かなり力だ。
いっそこのまま蝉の抜け殻のように上着を脱ぎ捨ててしまおうかと思ったが、それをやった場合にクリーニング出したばかりのジャケットは重力によって地面に落ちるのでその案も却下した。俺は燐に服から手を離すようにお願いし、振り向く。
「おはよう。源太郎。そして、朱宮さん」
少し前の創作物なら間違いなくザ・委員長という風貌の眼鏡女子が立っていた。
「おはよう。愛香」
芹澤愛香となんでそんな仲よさげなんだよ。まさかーー
「うんさっき出来たって言った新しい友達」
「うん友達」と愛香も認める。
そういやこいつ、もとい愛香も変わり者だったな。近すぎた存在だったゆえに頭からすっかり抜け落ちてた。もしくは、俺の脳が無理やり忘れさせようとしてたのか。
華やかな女子二人と一緒に登校する俺を見て両手に花状態を鼻高々にしてるだろうと思うやつらもいると思うが、全くそんなことはない。さきほど取ろうとした選択が示す通り俺は逃げたかった。
天恵との会話は機密事項が多いためかあまり人前で話したりすることはないのだが、この二人が話す話題に関してはそれらはない。
そして、状況的にも逃げられないのがきつい。まばらながらもパラパラと登校する我が学園の生徒の誰かに助けを求めようとするも誰も目を合わせない。そのとき俺の視力2.0の眼力はある人物を見逃さなかった。
芹澤直哉。芹澤愛香の双子の兄で、俺のダチだ。
ちなみにラノベ作家でもある。なぜか道路の反対側を歩いているそいつに助けろと口パクや身振りで助けを求めるも視線を逸らされた。
眼鏡を叩き割ってやろうかと思ったが、次作品で悩んでいるみたいなことを言っていたのでこれ以上強く助けを求めるのを止めた。これでもあいつのファンだからな。次回作を読むまでは生かしておいてやろう。つまらなかったら眼鏡を割ってやるけどな。
◇◇◇
トンチキな燐と愛香の話から解放された俺は素早く自分の席に着いた。
俺の前の席で天恵がぐったりしていた。昨日は、しっかり寝るみたいな報告を受けたと脳が記憶していたが、いかんせんまだ頭が働いていないせいか自信がもてない。
努めて軽い感じで俺が、「どしたん? 話聞こうか? やっぱ忙しくて寝れなかったのか?」
「昨日はそれなりに早く寝たわ。そして、早く起きて、早く登校してこうやって教室で仮眠をとってたわ」
「んじゃなんでそんなダルそうなんだ」
「ほっといてよ……」と突き放された。
窓際の席のせいか、陽の光がよく当たる。
後ろから見る天恵の明るい髪が俺の目にとても綺麗に映った。
だ。
次回も一週間後の7月25日(土)21時ごろ投稿する予定です。




