第8話 不穏な予感
遅れてすいませんでした。
文音ちゃんが超能力者だとバレた後(自らバラしたというべきかもしれないが)は、トントン拍子で話が進んだ。
話が進んだ主な要因は文音ちゃんの積極的な協力の約束を俺が取り付けたからだ。本来なら天恵から言ったほうがいいのだろうが、知り合ってからの日が浅く、片方はまだ幼いともいえる少女なので俺が説明や交渉をした。念のために保護者的立ち位置である燐の了承済みだ。
当初の予定と違ったのも大きい。宇宙人捜索程度だったものが、方法はまだわからないとはいえ、救出になったからな。
とはいえ、簡単にオッケーを出したわけではない。保険のために細かい話を聞いてから断ってもよいという条件はつけており、委員長(仮)もそれは了承してくれた。
話し合いはほぼほぼ大詰めで、細かい話は文音ちゃんを交えてするそうだ。
天恵は新規契約がとれた営業サラリーマンのように満足そうに、「大体こんな感じね」と喜んでいた。
やっと終わったか。もうちょい長引きそうなら、天恵の車に乗せてもらえるという恩恵を捨てても、先に帰ろうとしたところだからよかったぜ。
途中は専門用語的な単語が飛び交い、半分宇宙へと放っていた俺の意識を地上へと戻す。
そして、予定しなかった交渉を開始する。
「こっちとしてもというか俺にも条件というか確認事項がある」
「あんたまさか……五千億もらおうとしてるの?」
「もらわねーよ!」
そんな金持っても怖いだけだろ。俺は小心者なんだ。第一そんな大金が入る財布を持っていない。
「その部分はこちらが手配します。もちろん税金関係を含め」
「いらんいらん」
冗談が通じない委員長(仮)が手続きを進めてきそうだったので、必死に拒否する。その10万分の一額でさえ手に余りそうなのは明らかだ。金は自分で稼ぐかこいつみたいなやつから貢いでもらうのが一番だ。
「貢いだことないでしょ!」
天恵を無視して話を進める。
「委員長の身の安全というか記憶の部分の整合性を上手く合わせるようにしてやってくれ」
「わかりました」
天恵がやや不機嫌そうにしている。貢いだとか言って悪かったて。けど、そんな怒る必要ねーだろ。
「善処します。対等な関係ですし、無茶な要求ではないので」
悪徳政治家なんかとは違いとても誠意の籠った善処しますだった。
「他になにかありませんか?」
「ないわよね。さぁ! 帰りましょ!」
「待て。最後にもう一つあるんだ」
「早くしなさいよ!」
というか一人で帰ればいいだろうといおうと思ったが、車に乗っけてもらえるかもしれないので引き留めた。
「なんでしょう?」
「こちらもやることがあるので手短に」
「速攻だ。俺が指定する写真をこの件が終る直前でいい。処分してくれ」
「はい。問題ありません」
「別にいいじゃん。写真くらい」けだるそうに携帯を弄りながら天恵がうそぶく。
いやだよ。お前だって危険性くらいは分かんだろ。これが仮に流出したらどうする? なんか嫌だ。悪いことはしてないのに宇宙並みに広いネットの海に流されるのはごめんだ。
「データも?」
「それもだ!」
やはりというか電子化もされてたのか。
「話は済んだ? そろそろ迎えが到着するころなんだけど」
「おう。待たせたな」
「じゃあまた後日連絡します」
「そのときはあなた部屋で話し合いましょう」
俺がボーッとしてる間にそんな約束がされていたらしい。
後日関係者を集めて天恵の家で今後について話し合う運びとなった。ボディーガードが迎えに来てくれた車で帰宅することになり、その車に乗り込む。車には詳しくないが、高い車だということはわかる。それは高級車などといった類の種類ではなく、防衛上の理由からというのが正しいだろう。外からみたらわかりづらいが、ガラスが二重構造になってやがるし、扉も分厚いし、その開閉感もあまり馴染みのない感触だった。
細かい部分はあとで話すと前置きをし、「あんたは彼女をどう思った?」と聞いてきた。
なんだよ急に。
「早く答えなさいよ。こっちは色々とまとめることがあるんだから」と急かす。
夕暮れに染まりつつある景色を眺めながら、端的な感想を述べた。
「全然違うな。普段の彼女は明るい。なによりも他人行儀過ぎる」
天恵に対しては初対面だからという理由もあるが、俺にはもっとフレンドリーだったからな。それがそこそこの期間があったとはいえ、演技をしてるようにも感じ取れなかった。
「あんた演技かどうかとわかるほど親しくて、人の演技を見破る才能や経験あるの?」
それなりに親しいし、演技かどうか見破る能力くらいは備えている。なにしろそういうことやってる友達はいるし、なんならそれで金を稼いでいる奴に演技を教えていた時期もあるくらいだ。なのでお前の隠し事なんてのは大体わかる。
──だが、それとは別だ。
機械のせいか、あるいは別の要因か。五感では表現できない奇妙な違和感が、俺の身体にビリビリと訴えかけてくる。危険ではない。なにかだ。
それを聞いた天恵は神妙な面持ちで、「文音ちゃんには謝るというか覚悟みたいなのしておかないといけないかもしれないわね」
どういうことだ。道がまだ空いている時間帯のせいか、あと少しで自宅に到着するのに安心するどころか、不安の影が闇とともに忍び寄ってこないで欲しい。今日は風呂にゆっくり浸かって寝たい。そんなことは露知らずに、不安を煽るようなことを告げる。
「機械のスイッチを全開にしてないあんたみたいな状態でそれだもん。彼女がどんな風に感じるか想像もつかないから」
確かにな。見た目が温和そうなやつがサイコパスシリアルキラーだったら怖いだろう。俺は慣れているとはいえ、彼女はもちろん日本中でもそういう経験をもったやつは少なさそうだしな。
「それだけ聞ければいいわ。さっき言った通り話が纏まったら連絡するから。さっさと降りなさい」
俺はちょいちょいと手招きをし、「お前少しだけ降りろ」
はてなマークを頭に浮かべた天恵も降りる。
「今の会話聞かれてて大丈夫なのか?」
一応誰に話してよくて、誰に話してよくて、誰に話してはダメかの、人物が把握できていない。天恵と自分を抜くと
燐と文音ちゃんと管理人さんだけだったはずだが。
「あぁあいつはいいの。あとはもう一人話してもいいのがいるけど今度紹介するわ」
仕事ができそうな若い男性は不愛想ながら軽く会釈して、なんとなく状況を知っていることの確認をしあった。
「大体、あたしがそんな単純なミスをすると思う?」
思うといいたが、やめておこう。前述した通り俺は風呂にゆっくり浸かりたい。もうちょい元気があるか、事件解決の目途がたっていればバンドリーダーのテツヤを誘ってスーパー銭湯に行くつもりだが、
まだ話し合いすらもしてないので、グッとこらえる。
ぐうの音も出ないだろうという表情をして俺を一瞥し、満足したのか天恵は車へと踵を返し、就任数十年の大企業社長のように偉そうに車に飛び乗った。まぁ実際にそれなりの地位みたいなのがあるかもしれんが、俺以外がみたら取引先なんかにナメられないように虚勢を張る幼女社長にしかみえないだろう。
俺は天恵を見送ったあとにふと空を見上げる。星空の光が瞬いていた。精神生命体みたいなことを言っていたつまりは光のようなものだ。この光の中に宇宙人がもしかしたらいるのだろうか? いるとしたらどのあたりにいるのだろうか? そもそも肉眼で見ることができるものなのか。そんなことを考えながら、家の中に入っていった。
多分、俺の短くとも濃い経験からくる勘からいうと、あと数日後には忙しくなるだろう。
そんなことを考えながら愛する我が家の敷居を跨いだ。
次回は7月18日21時ごろ更新予定です




