第3話 ショウタイ
「異常なしですね」
目の前の初老の医師は、カルテも見ずにあっさりとそうのたまった。
「え? マジで? マジですか?」
最初に言っておこう。俺は赤の他人で初対面の人物には基本敬語で話す男だ。
なのに、あやうく仲の良い友達と話すときのような言葉遣いになるところだったので、自称するのもなんだが、礼儀はしっかりわきまえているつもりだ。
けれどな、あまりに驚くことを言われると誰だって似たようことになる。
今まで特殊な状況は味わっていたが、大体そのような状況に陥る前フリや予兆があった。
だが、今回は完全にノーモーションからの攻撃に慌てふためく。なんで付き添いに来たあまり接点のない俺が、こんなに慌てて、当の本人は表情一つ変えないのだろうか。
さっきのほうがよっぽど人間らしい表情をしていたように思える。なんだ? 俺がおかしいのか? 本人である、彼女は表情一つ変えず、綺麗な人形と化していた。
「まぁ考えられるとしたら、まぁ低いでしょうけど、軽い疲労でしょう。食欲なんかも問題なさそうですし」
段々ヤブ医者に見えてきた。
「内科的な問題はないでしょうか?」
「それもゼロではないでしょうが低いでしょうね」
言おうか迷ったが、思いきって聞いてみた。
「こいつ自分を人間じゃないとか言ってるんですけど、それは大丈夫なんですか?」
「あー。そういう年頃じゃないんかね。ごく稀ですが、親御さんと一緒にそういった患者さんが来られたこともありますよ」
思い出したくないことも思い出しそうになった。俺もそういう時期があったな。もしかしたら、委員長もそうなのかもしれない。
ただ、彼女はどうもそういう雰囲気は感じ取れない。人間ってそんな急に変わるものなのか? 環境も大きな変化はないはず。友人も関係も同じだろう。最後に考えられるのはネットや書物、もしくはマスメディアによる影響だがーー
ないな。
念のためにここ最近委員長の周りになにか変化はあったのかと、周りの人間に尋ねてみたが、特に大きな変化はないらしい。家庭内の環境も同じく変わりないようだ。そもそも精神が劇的に変化するようなことがあれば大なり小なり噂が流れてくるもんだ。
「もしかして、彼氏さんとなにかあったんじゃないの?」
なにやら矛先がこちらに向かってきたらしい。俺はなんも関係ない。ここでそう否定したかったが、こじれそうなので、苦笑いでお茶を濁した。委員長も俯き気味になり、一寸ぶつかった肩で体温の上昇を感じたからだ。さてと、どうしたもんか。これからどうしていいのかわからない。全く当てのない状況。同じ医者の燐に相談してもいいが。似たような回答になり、解決に至るのだろうか。どうしたもんかと一人途方に暮れていると、背中を誰かに指に突かれた。突いた相手は委員長だった。間違いなく委員長なはずなのになぜか一瞬寒気がしたのは気のせいか、風邪の前兆かと思ったが、どうやら違うようだ。俺の最近当たって欲しくないのにあたってしまう直感が告げている。これは面倒事になりそうだと。と同時に彼女との忘れていた約束を思い出す。この件でもし、医者の診断が終ったあと自分の言う事を信じるという契約を。
「すると、委員長は宇宙人……いや、宇宙人に身体を乗っ取られていると?」
「その表現が近いかもしれませんね」
丁寧口調の宇宙人に内心面喰らいながらも俺は表面上は冷静さを装うことに成功していた。というよりも麻痺しているのかもしれない。中学の半ばの体験といい、ここ最近の出来事のせいでな。どうも最近俺の周りは変なことだらけでいかん。それと正体というか俺の秘密を隠すか誤魔化さなきゃいけない状況らしい。不幸中の幸いで彼女がなにか勘違いしているらしいので助かった。そもそも宇宙人でも勘違いというのかはわからんが。
「わたしの家にきませんか? 今なら誰もいませんし、しっかりとした防犯、防音対策はもちろん情報漏洩の対策も万全に敷いています」
通常の男子高校生にとってはとても魅惑的な提案だ。しかし、俺にとっては危険な香りに感じ取れる響きにしか聞こえなかった。
次回は6月14日(日)
21時更新予定です
投稿期間空きますがよろしくお願いいたします。




