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夢見る天才少女と夢を知られた少年  作者: 引田 籠
第二章

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16話 ありふれてないであろう昼休み

 燐が転校して五日が経った昼休み。久々に天恵に弁当を作った日だ。

 場所は誇り舞う第三図書室。いつも太陽のように明るい朱宮燐(あけみやりん)の元気にやや陰りを覗かせていた。


 「アタシってやっぱり同世代と比べて変なのかな?」


 予想通りしょぼくれていやがる。


 「え、うん」と天恵が答える。もうちょっと優しくワンクッション置いてやれといいたが、それは真の優しさにならないと思うので、それがいいだろう。


「寄生虫の話とかしても誰もついてこないだろし、気持ち悪いだけだ」


 せめて、普通の昆虫ならついてこれるやつもいたが、そんな寄生虫の話についてこれるやつは我が校にはいなかったはずだ。いたとしても名乗り上げる勇気があるやつは皆無といっても過言ではない。


 「そっかー」


 「やっっっとっ自覚できたみたいね」


 今まで溜め込んだものをようやく吐き出せるといったように、天恵がいきいきと不満を言い放った。


 「いつもそうよあんたは! 夢中になるとすぐに自分の感情を優先する。あたしが盲腸になったときだってそう」


 名探偵が犯人を示すかのように人指しをビシッと燐に向けた。


 「あれは緊急事態だったからしょうがないでしょ」


 犯人が動機を話すかのように燐が抗弁する。


 「すぐ近くのカナダで手術できたでしょうが!! あっちなら、アメリカみたいにバカ高い手術費を取られないし。第一そんな緊急性がないことはわかってたでしょ」


 「フランス語圏の心配があったから……」 


 「バリバリの英語だし! その確認もとれてたでしょうが!!」


 燐は引き下がると思いきや、「でも、タダで治したからいいじゃん」


 「天才だけどなんか怖かったのよ! あんたの目が! 腕や知識なんかは確かで難しくない手術だって知ってたけどさ! あのときばかりは盲腸を取る国で生まれなかったことを恨んだわよ!」 


 「こいつ初めて燐の手術を受けたのか……」


 身をもって体験をしているから、燐がこの研究プロジェクトに参加することを躊躇ってたのか。


 「色々データとか取る必要とかなかったでしょ!」 


 「術後経過の確認は大事」


 「ほとんど経過の話じゃなかったでしょ! メス入れるときの感覚ってさーーとか。内臓とってもきれいだったねとか! あ、あと画像を見せてあげるとか……もういい……これ以上思い出すと昼飯食べれなくなりそうだから……」


 思い出して気持ち悪くなったようだ。


 「やっぱり生きてる人間の内臓はこうーーグッとくるものがあるよね」


 「止めを刺すな」と俺は釘を刺す。


 俺は作ってきた弁当――出汁の香りがふわりと漂う卵焼きと、隙間なく詰められた茶色の誘惑(唐揚げ)が鎮座するもの――を天恵めぐみに差し出すとともに、例の件を切り出す。


 「でだ、研究というか捜索はどうだ?」 


 「順調よ。大分絞れてきた。早ければ来週には特定できそう」


 「危ない目に遭うなよ。ちゃんとボディーガードなりなんなりつけて、接触しろよ」


 「あたしが直接接触をするつもりはないわね。場合によるけど」


 「どんな場合だ」


 付き添ってやってもいいが、俺は要人警護の心得はない。


 「一対一かつ素人で腕っぷしがそれなりのやつなら、お前を守れそうだが、そうじゃない場合は無理だぞ」


 天恵は弁当でなにから食べ始めるか決めつつ、俺への返答も考え終えると「武器所持がない場合と、有害物質が確認できなかった場合ね。後者の有害物質はそもそも移動したと考えられるルートから検出されなかったから問題なさそう。武器はまぁ拳銃とかじゃなければなんとかなるわ」

 卵焼きを噛みしめながら答えた。燐が食べたそうにこちら見ていることにも気づかずに。


 武器か。重火器系はこの街は基本平和だからないだろう


 「でもこの前脅すって言ってたじゃないか」


 こっちだけ武装するのか。大体こっちサイドに武装して意味があるのか甚だ疑問である。


 「あれは言葉の綾。こっちがなにもできないとまずいでしょ? 不利な条件をただただ呑まされるなんて事態はごめんだわ」


 「そういえば宇宙人がいるかもしれないなんてことは話さなくて平気か? 国のお偉いさん方に念のためやんわりいったほうがいいと思うけどな」


 燐がさも無関心のように「信じてもらえないだろうね」

 予想通りの答えだ。機械を使って発見したようなもんだしな。


 「侵略する感じがないのはぼぼ確定なのよね。連絡をとった痕跡も全くないから。こっちが察知できない通信手段があるなら、別だけど」


 「どのあたりにいるんだ? この学校を含む半径50キロ以内ってところかしら、範囲は徐々に狭まってきているから、来週あたりには見つかるはず」


 燐と文音ちゃんが加わってから話が進む進む。この前までダラダラしてるのが嘘のようだ。だが、やはり懸念事項はあるらしい。


 「謎もあるけどね」


 自分の弁当箱を開けて、燐とおかずトレードを考えながら、「ずっと謎しかねえけど聞こうじゃないか」


 「まずこの街を彷徨ってる理由。普通に脱出すればいいのにまるで迷路みたいに出口を探している」


 「理由があるんじゃないか? なんかの法則で通れない場所があるとか」


 「そういった邪魔しそうなものが全く見つからなかったのよね。そっちは追々調べるつもり」


 天恵が印刷した地図らしき場所のいくつかに赤い×印が記されている。どうやら俺の知らない水面下で色々調査をしているようだ。


 「発見、接触、交渉と時間がかかるだろうけど、そうね。一か月以内には達成させたいわね」


 俺もだ。夏休み中はもちろん夏休み前もやることがある。遊ぶ資金稼いだりとかな。


 「前もいったけど勉強が最優先事項でしょうが!」 

 

 「それは補習にならない程度に頑張る」


 「また怒られてる場面に出くわすのいやだからね」


 ガチの説教はやめろ。俺も好き好んで怒られてるわけじゃないんだし、努力するさ。


 「うん。頑張ろう! 私も勉強頑張る! 天恵には絶対負けないよ!」


 八百長なんかは好まない俺だが、正直燐には負けて欲しいと思った。

 天恵の負けず嫌いはとんでもないからだ。

 おそらくお互い100点で引き分けだろうが、天恵が勝った方が色々とスムーズに進むだろうからな。

 ってなわけで俺は多めにからあげを燐に渡す。

 いいの? という顔しているが、目を瞑って無言でうなずく。

 いいさ。いいさ。これでお前が少しでも負ける確率を上げてくれるなら安いトレードだ。


 「わかった! ありがとう!」とわかってない笑顔で燐はお礼を言った。ホントにわかってるのかね。


 しかし、まぁ結構進んだもんだね。なんだかここまでくるのに五年くらいかかった気がする。それぐらい濃密な時間だった。

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