第15話 電光石火の転校劇
「はえーよ!」
「こういうのは早いほうがいいでしょ?」
木製のテーブルに片肘をつきながら、朱宮燐がサムズアップのポーズで決め顔をしている。そこは学校での俺たちの隠れ家、学校の第三図書室。普段使われることもない古びた部屋には、かすかな埃の匂いと静かな空気が漂っていた。
その燐が、俺の母校――|城和学園高等部に正式に転入してきた。たった三日前に「転入する」と言い出したばかりだというのに、もう制服を着てここにいることに、ただただ呆れるしかなかった。
「自分の見立ての甘さを今日は嫌ってほど思い知ったわ……」
元気な燐に対して、牧之瀬天恵は疲れ気味だった。この部屋にいるときは比較的元気な姿をみせることが多いのだが、今日はだいぶ参っているようだ。
ついさっきのことだ。担任が「転校生が来る」と告げたとき、驚きすぎて椅子からずり落ちそうになった。情報通を自負する俺の耳にも全く入ってこなかった話だ。まるで情報統制でもされていたかのように。
天恵でさえ完全に虚を突かれたらしく、いつもクラスには無関心な彼女が、燐が教室に入ってきた瞬間、目を見開いて固まっていた。そのせいでクラス中が騒然となり、『牧之瀬さんの知り合いなんだ……』『牧之瀬さんでも驚くのか……』などと小さなパニックが発生したほどだ。
「びっくりさせようと思って」
燐はまるで悪びれた様子もなく、にっこりと微笑む。かなり満足げだ。
文化や集団行動に多少は難がありそうとはいえ、学力的には充分を通り越して持て余してしまいそうな奴だ。入学にさいしては不正などしようはずもないだろう。
それに俺にそこまでの権利はないのだから受け入れるしかあるまい。むしろ覚悟してきてるのだから歓迎しよう。
「というか、なんでお前ここに来たんだよ。昼食に誘われたりとかしてないのか?」
この時期の転校生なんてもんはただでさえ目立つのに、燐の見た目はモデル級だ。性格はともかく、顔だけで言えば人気者になる素質はある。中身を知られるまでの短い期間だろうが。
「まず研究に関することが優先だから。まずはこっちに来たの!」
燐は机を軽く叩きながら、胸を張る。そうかい。でもよく天恵が教えてくれたな。いずれバレるだろうと思ってたが、こうも早く露見するとは。
「疲れたの……」
天恵は食事を摂るという行動よりもガソリンを給油する車のように作業的に飯を口にいれている。
今日なんか作ってやればよかったかなという軽い後悔をしているが、そんなことも気にせず燐は話していく。
「それにここ、秘密基地みたいでいいね!」
今度は立ち上がりちょっとはしゃいだ様子で本棚を眺めて回る。たしかにこの第三図書室は、俺のコネで確保した静かな場所だ。今では天恵が持ち込んだ専門書や資料が理科系の棚を占拠しており、すっかり彼女のサブ研究室のようになっている。ないのは道具くらいだろうか。
「テンション上がるのはわかるが座れ。こいつはわからんが、この学校在籍者の一人して、またこの部屋の責任者として歓迎するぞ」
「うん! ありがと! 源太郎! そして、天恵! これからよろしくね!」
あーやっぱこいつホントに見た目は可愛いな。性格も明るいし。
なーんて油断したのがよくなかった。また変な話を聞かされた。わけのわからん細菌や寄生虫の話なんかの気分が悪くなるような話だ。
今日の昼食の量が少なくて助かった。もうちょい多ければ早退を検討していたところだったぜ。
天恵も燐の突然の転校イベントのせいでかなり体調が悪くなったらしい。
昼休みの終わりなんかあいつに真剣に、「大丈夫か? 具合悪いならおぶって運ぶぞ」と提案したくらいだ。
結局走って逃げれたが、倒れないかびくびくしながら無事に学校を終えれたのはよかったとほっと胸を撫で下ろした。




