第11話 距離も心も
俺こと郷田源太郎、朱宮燐ペア、牧之瀬天恵、高鈴文音ペアを分け隔てていた透明なガラス扉を勢いよく開けて文音ちゃんが詰め寄ってきた。天恵のように運動神経は鋭くないような感じたが、燐と同じ血が通っているせいか結構な腕力を秘めているようだった。かなり頑丈な造りになっているので大丈夫だろうが、普通の扉ならどこかしらの破損してもおかしくない扉の扱いだった。
代わりといっちゃなんだが、俺の心が壊れそうだ。
『こんな可愛い子のいい匂いの嗅げるくらいまで急接近されたらーー』
『どうでもいいこと喋らーーとは違いますね』
なんだ今の感覚は? というよりも言葉が流れてくる感じ。
『一旦止めてもらいましょう』
彼女は話す(?)のをやめて睨みつける。痛いとは違う。三半規管がいかれそうな感覚だ。驚きの声をあげたかと思ったが上げてないらしい。燐をチラ見したが、冷静な目でこちらを見ていたからだ。
まるでベタランのすこ腕石みてゃのーー
「ストップ! ストップ!」
タオル投げられたボクシングレフリーのように燐が飛んできて、俺と文音ちゃんに割って入った。
「反応からみるに実験は成功のようね。あたしの考えは間違ってなかったようだ」
「聞こえてんぞ。三半規管がイカれるのはまだいい(よくない)が、一瞬言語機能までもイカれたぞ」
続けて『人として間違ってるだろうが!』と言いたかったが言葉が繋げられなかった。
彼女自身も戸惑っているようだ。上手く制御できていないようだ。燐が介抱し、俺をベッドへと運んでくれた。逆お姫様抱っこをされるとは思わなかったな。悪い気分じゃなかったが、ほんのちょっぴり男としてのプライドを壊された気がする。
「文音ちゃんそのままゆっくり息を吸って。深呼吸。一旦あいつのことは人じゃないなにかだと思いましょう」
落ち着いてたきたのか。感覚が徐々に戻っていく。
「脈拍と熱も平熱。鼓動も普通……」
「なんで拗ねるんだよ」
燐はわざとらしいくらい唇を尖らせながら、「だっておでこくっつけたり、胸に頭とか当ててるのに、全然ドキドキしないんだもん」
「別に好きでもないやつにそんなことやられてドキドキするほどの純情少年じゃねーよ」
「とりあえず源太郎はこれ飲んで」とふてくされながら、水とカプセルを渡される。
「毒じゃねーよな?」
「いいからまた変な感覚がくるかもしれないから!」 その感覚は嫌なので俺は天恵に母親を助けたことを思い出しつつ、素早く薬らしきものを飲む。
「すぐ効くから。もう大丈夫。普通に考えていいよ」
とても不安なので念のために念(?)を文音ちゃんに送る。
今日の夕飯はなにがいいかという日常の悩みの相談を送信するもなにも彼女は受信してないらしい。
わからないといった風でエスパー少女は首を横に振った。
同様に俺もなにも受信してない。
燐の診察は簡単な問診だけで済みそうだ。
「よし! 成功って……悪かった! 悪かった! 今度奢るから暴力はやめて!」
俺が扉の向こうへと乗り込もうとすると風呂嫌いの我が愛犬が洗われると察知したときよりも天恵は早く部屋の奥へと逃げた。
「とりあえず言い訳だけは訊いてやろう。なにをやって何を飲ませた?」
椅子に座り直し、頭を抱えて詭弁をほざくのを待つ。
「干渉できる方法を試して、そのあと干渉を防止する機械を飲ませた」
どんどん改造されていきやがる。一体俺の脳内でなにが行われているんだか。
「そうね。電気を通さない絶縁体のようなものかな」
俺らに加わっては日が浅いものの、長年の交流のせいかすでにしっかり解説補佐の役が板についた朱宮燐がわかりやすいように補足してくれた。
「それだと夢の録画とかできなくなるんじゃないか」
俺がお前とつるんでいる最大の理由の一つである夢鑑賞。あまりいい趣味じゃないが、俺は好きなんだよ。
「それは平気ね。取り外しもできるし、そもそも文音ちゃんに心が読まれないような専用部品だから」
「他のやつには読まれるってことかよ」
不安の芽を摘んで解決したと思ったら、また新たな不安の種が現れた。
天恵はボードでカチカチボールペンを鳴らしながら、「そこを知りたいけど、彼女みたいな強力な能力を有した人物がいないと何とも言えないわ」
「つーかお前ら二人は平気なのか?」
俺スピーカー使って話されてると感じた瞬間もある身とすれば、スペックは異常とはいえ、一般人の二人には影響がないか気になる。
「全然」
「無害」
燐と天恵が事前にリハーサルしてたかのようにセリフを継いだ。
お前ら息ぴったりだな。と感心ながらも俺の感想は『ざっけんな!』だ。こっちは結構なひどい目あったぞ。そして、なによりも文音ちゃんが全然反省している様子がない。くっそ。そんな態度なら芳野さんにいつでも遊びに来てくださいとか言われたから、週一くらいで通うぞこら。
それを助長するかのように何度も頭を下げ合う二人がムカつく。鍵開けろ。大体いつの間にかしれっと移動していたんだ文音ちゃんは。
いつものように話を誤魔化すように天恵は早口気味で、「ただ、以前よりもあたしたちみたいな普通の人間の心を読む能力が結果的に強化されたいみたい。コントロールはできてかなり便利になった部分もあるけど、反面使うと心身の消耗なんかは激しそう」
じゃあ気をつけなきゃいけないな。いざという時に使えないのは困ることはもちろん私生活に影響を及ぼすのはもっと避けたい。大人びた容姿でしっかりしているせか、忘れがちだが、彼女はまだ小学生なのだからな。さっきのクソガキのようなムーブで思い出した。
「でも、とりあえず源太郎が文音に読まれる心配はなくなったね。逆に源太郎はどんなこと文音に対して思ってたの?」
年齢だけはこの中で一番上の燐が年長者らしく脱線しかけそうな話を線路へと戻す。
「文音ちゃん超かわいい」
「そういうことやってるから、反撃されるのよ! それに気を付けるって言ったそばからなんで精神をすり減らすようなこというの!?」
思ったことを思ったまま言って(?)なにが悪い。俺は悪くない。
「うっせークソガキ。これ俺が悪いんか……聞かれたことを答えただけだぞ」
「文音は慣れてないんだから。ほら見てみなよ」
ガラス越しにめっちゃにらんでくる。からかったつもりじゃなくて、質問に対して本音で答えただけなんだが、彼女はからかわれたと思っているらしい。
ん? 待てよ。もしかしてこれは余計俺の身が危なくなったんんじゃないか。
「危険度上がったけど今度は燐がいるからプラマイゼロで変わらないーーわかった! 今度ゲームもプレゼントするからネトショのセールのとき! だってしょうがないじゃん! あとさっきのやつもどっちみち今試しておかないといざって時にどうしようもないんだから! それにそんな文音ちゃんみたいな存在がワラワラ湧いてくるくるなんてないんだから! だから怒らないで!」
「と、ともかく! ゴホンッ!」大げさなに咳払いをして強引に話を変えようとする。
なにやらリーダーが重大発表を行うらしい。
「これでやることの方向性が決まったわーーこれからはーー」
しかしその発表を待ったをかけんといわんばかりにグウゥ~という音が鳴った。
音の発生源は俺だ。
怒りは静まったが、代わりの腹の虫が騒ぎ出した。




